5 氷魔法でできること
アイにとって、氷魔法が使えることがこの世界に来てなによりの喜びだった。
しかし、親がいい顔をしないということも知っていたので、親の外出時や早朝などに目を盗んでは広い綺麗な庭の開けた場所で、練習を行っていた。
「氷魔法でできること……私が使えるわけではありませんが……」
ミルフィーユは尋ねられ、こう答えた。
「以前のお嬢様は氷のかたまりを身体の周りに出してから魔物にぶつけたり、近い距離では地面や壁から氷柱を生やして攻撃したり、されていましたね……外出して、私が危ない時にも助けて頂いたりしました」
そう聞いてアイは、いくつかの事を試した。
まず、氷を身体の周りに浮遊させた状態で出現させる。
これは小石大から、数十センチの長いつらら状のものまで、思いのままに出すことができたが、氷柱レベルの大きさだと、浮遊や投擲がかなり不安定になる。
逆に言えば、小さい氷であればかなり意のままに浮遊や射出をコントロールできた。
そして、氷柱を生やす能力は、アイの立っているところから十数メートル程までは、意のままに思った大きさのものを生やせたが、それ以上離れると、出したい位置に出すコントロールがズレたり、大きさが出したいものより小さくなった。
最後に、自分の身体に氷を纏うこと。
これも氷柱と同じように意のままに作り出すことができた。氷の鎧、ドレス、も作れるし、鋭い爪を生やすこともできる。
氷の剣を意のままに作り出す事もできる。
「悪役令嬢が持っているにしては、思った以上に戦闘向きの能力だ」
色々なスキルを試しながら、アイはそう呟いた。
要は、自分に近い範囲であれば、思い通りに瞬時に、氷を発生させ、操る能力だ。
弱点はおそらく、あまり遠距離になると見えていようがコントロールができなくなること。
そして言うまでもなく、熱さにも弱いだろう。
「これでどう戦うか……考えるのは……楽しい!」
試しに、氷柱を自分を中心として剣山のようにできるだけ出してみると、辺り一帯を覆う氷山ができそうだったので、アイは焦って止めた。
あくまで親にばれないようにやらなければいけないのが辛いところだ。
しかし自身で勝手に考えて行う修行は、毎日の楽しみになっていた。
修行といえば、アイが受けなければならない修行はもう一つあった。
記憶を失ったことで、礼儀作法がさっぱり無くなったと判断されたアイは、母親から淑女たるにはという、厳しい教育を受け直すこととなった。
おっとりした母親だったが、その教育を行う時だけは、鬼のように恐ろしく、アイも逆らえなかった。
「いいですか?そのような口の利き方、次にカラム様にすれば、全く一回きりで、婚約を解消されてもおかしくないのですよ。ほら、足を閉じなさい!」
バシッ!と、扇で膝を叩かれ、アイは身悶えした。
「あぐっ!」
体罰上等、恐ろしい教育現場にいます。アイは心の中で泣いた。
その甲斐あって、アイも多少は以前よりマシな態度を取れるようにはなってきた。
それに比例して、母への恐怖やトラウマは増していくばかりだった……。
「お嬢様もすっかりお嬢様に元通りですわね」
「あら、ご機嫌よう、嫌味なミルフィーユ。フォークでザクザクに崩してから食べてやろうかしら」
「??よくわかりませんが、なんだか馬鹿にされたことはわかります」
この世界にそんな名前のお菓子は存在していないようだ。
だったらどういう原理でその名前をつけたのか、親に聞いてみたいものだと、アイは思った。
「しかし記憶の方は一向に戻りませんのね」
「記憶はもう、きっと無理だよ」
「そんな、諦めないでくださいよう!私との思い出を……思い返せば……あれ?辛いことが多いような」
「もう忘れよう、そんな過去は」
アイからすれば、自分が転生して来たのは明らかなのだから、記憶が戻ることなどあるはずはなかった。
「そんな状態で、騎士団の合同訓練を視察に行っていいものでしょうか……」
「はぁ?行くに決まってるでしょ!絶対行くから!お父様たちに、余計なこと言わないでよね」
「そうですか。まぁお嬢様がいいのならいいですけど……」
氷魔法の修行をすればするほど、アイは騎士団の訓練を見たくて仕方が無くなっていた。
それを見れば、より自分の修行にも活かせる気がしていたのだった。