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45 王都への同行者たち

 ある街の中、アイは途方に暮れていた。


 王都の方向さえわからない。

 お金もない。


 そういう時は、やはり人に尋ねるしかないだろう。

 しかし、街にある店に顔を出そうものなら、アイがここにいることがバレてしまう。


 声をかけるなら、街の人ではなく、移動しつづけている旅の人。


 そう思って、アイは何人もの行き交う人々を観察していた。

 

「あのー、すみません」


 アイが声をかけたのは、冒険者のように見える三人組だった。

 軽装の鎧や、剣や盾を携えた彼らなら、きっと旅をしているに違いないと思った。


「やぁやぁ、どうしたんだい、お嬢さん」


 金髪を長く伸ばして、弓矢を携えた軽そうな男が、アイに応じた。

 男は軽装の革の鎧に、緑色のマントを身に着けていて、耳が長ければエルフと言われても信じそうな見た目だった。


「すみません、少し、聞きたいことがあって……」


「こら、スティル。まーた女の子だからって変なのに引っかからないでよ?」


 後ろから、茶色のウェーブの髪をした、露出度は高いが動きやすそうな赤い装備をした女性が、スティルと呼ばれた男に声をかけた。

 あまり感触がよくないようで、アイは身構えた。


「シェリー……初対面の女の子の前で余計なこと言うなよ……」


「事実じゃん」


「全くお前ら、いいから話を聞いてやれ」


 また後ろから、もう一人の男が声をかけた。

 真っすぐな黒髪を短めに切った爽やかな男は、大きな剣と盾を背中に背負っている。

 胸は金属のプレートで防がれており、軽装とはいえ、三人の中で一番重装備だった。


「えーと……王都にどうやって行ったらいいか聞きたくて……」


「王都ねぇ……道順的には、この先の街道をずーっと真っすぐでいいんだけど。いくつかの都市を経由することになるぜ」


 スティルは怪訝そうにしながらも、一応そう答えた。


「そうなんですね!ありがとう!」


 方向さえわからなかったアイは、感謝を述べる。


「王都に向かってんの?」


 スティルはそう聞いたので、アイは頷いた。


「へぇ……どうやって行くつもりだい?まさか徒歩じゃないよな。徒歩だと……何十日だろう?とりあえず、それくらいかかるぜ」


「えっ!そうなんですか……」


 アイは少し困った顔をした。

 遠いとは思っていたが、何十日とは……



「でも、いろいろあって……歩くしか……仕方ないんです」


 アイは、それでも固い決意のもと、絶対王都にたどり着くと決めていた。


「ありがとうございました、またどこかで……」


「ちょちょちょ、ちょっと待った!」


 足早に立ち去ろうとするアイを、スティルは引き留めた。

 そして、残りの二人を呼んだ。


「シェリー、シードル、ちょっとこっちへ」


 三人はアイから少し離れたところで、声を潜めて話し始めた。

 アイは一瞬逃げ去ろうかとも思ったが、親切にしてもらったこともあるし、その場にとどまって待った。


「なぁ、お前ら、気づいているだろう?あの子、きっといいとこの子だぜ」


「そうなのか?」


「どう見てもそうでしょ……そこは引っかからないでよ」


 シェリーが呆れたように、シードルと呼ばれた男に言った。


「つまり、これは駆け出し冒険者の俺たちにとって、一大イベントだ。いいとこのお嬢様が、歩いて王都まで行くって言ってんだぜ?ワケありに決まってる」


「それもそうだな……」


「まるで冒険小説の始まりって感じね」


 そう言ったシェリーは、言葉とは裏腹に、別に面白くもなさそうな顔をしていた。


「そんな子を手助けしたとあったら、どうだ?きっと、無事目的地にたどり着いたら、俺たちは英雄って呼ばれるかもしれないぜ?」


「英雄……」


 シードルは、ごくり、と唾を飲み込んだ。

 ため息をついているシェリーに、スティルは続けた。


「もちろん、彼女の親は感謝するかもな。その時出される褒美は、英雄の称号だけじゃないかもしれないぜ?きっと……値打ちのあるものだ」


「ごくり……」


 シェリーは、声に出してそう言った。


「俺はカワイイ子と旅がしたい。シードルは英雄になりたい。シェリーは金が欲しい。利害は一致してるんじゃないか?もちろん、最後に決めるのはリーダー、お前だ」


 スティルはそう言って、シードルの方を見た。


「そうだな……」


 シードルは考えた後に、言った。


「俺は英雄がどうとかではなく、彼女が困っているのなら助けてあげたい」


「ふっ……まぁ、そうでしょうね」


 シェリーは少し困ったように、でも嬉しそうにそう言った。


「あーあー、全く。色々考えて説得した俺が馬鹿みたいじゃねえか。結局お前らみたいなお人よし馬鹿は、他人が困ってるから助けたらどうだ?って言えばそれで済んだんだろうなぁ!」


 スティルはうんざりしたようにそう言って、アイの方へと戻った。


「あの~……私そろそろ」


 立ち去ろうとするアイを、スティルは呼び止めた。


「まぁまぁ。実は俺たちも、王都に向かってたんだよ。駆け出しの冒険者でね。向こうででかい仕事がしたいんだ」


「あなたたちも王都に……」


「それで、君さえよかったらどうかな?一緒に王都まで行かないか?」


「えっ」


 アイはしばし、迷った。

 この人たちは先ほど会ったばかりで、アイを追ってきているであろう、結社と繋がりが無いとは限らない。

 とはいえ、向こうから話しかけてきたわけではなく、アイ自身から声をかけてはいるから、その可能性は低いだろう。


 もう一つは、アイが同行することで、アイを追ってきている奴らから狙われてしまう可能性がある。彼らは駆け出しの夢溢れた冒険者なのに、大変な事件に巻き込まれることになるだろう。


「迷うのはわかるさ。確かに打算がないわけじゃない。君が無事に王都にたどり着けたら、その時は少しばかり、お友達やお父さんにでも俺たちの活躍は伝えてほしい」


「ええ。それは構いません……大分、後になってもよければ、父はお礼をすると思いますが……」


 助けてもらったと伝えれば、アイの父親はきっと報酬を与えてくれるだろう。

 しかし、上手くいっても父親に会えるのは、いつになるのかわからない。


「いいね。他に何か心配が?」


「あなたたちも……狙われることになるかも。何というか、悪い、奴ら?に」


 結社という名前は出すのは危険と判断し、アイはそう言った。

 しかし、その言い方は、帰ってシードルの正義心を刺激してしまったようだ。


「決まりだな」


 シードルは少し笑いながら、そう答えた。


「俺はシードル。これからよろしく」


 アイはこうして、三人と共に王都を目指すことになったのだった。


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