40 帰還
ネロが約束した通り、アイはみんなに護衛されて、無事に屋敷へと送り届けられた。
エス、ネロ、グレイに警戒してか、移動途中への結社からの襲撃は無かった。
ビィフは、ある程度アイの家の方へ近づくと、そこで別れ、モカの待つ森の小屋へと帰ることになった。
「色々ありましたけど、僕はここまでです。あぁ、アイさん、また一緒にお酒を飲みましょうね……これきりなんて嫌ですよ?」
「お酒はちょっと……でも、また会おうね、ビィフ。何の恩もない私の為に、ここまでありがとう。本当は父親から、お礼とか、受けてもらいたいんだけど」
「良き魔法使いは、無償の愛と知を授けるものです。お礼なんて持って帰ったら、先生に怒られちゃいますよ、それに……アイさんとご一緒できたこと自体、僕にとってご褒美みたいなものです!」
「それはよくわかんないけど、まあとにかくありがとう」
直球のビィフの言葉に、アイは戸惑った。
「いいからはやく帰ったらどうだ、小僧」
「そうですよ。君がいなくたって私がいればアイ様は大丈夫ですから」
ネロとエスが、冷たくあしらった。
「そう言わないでくださいよぉ~!役に立ったでしょ?僕ら仲間じゃないですか。全く、アイさんは愛されてますね……」
落ち込むビィフを囲み、ひとしきり笑うと、ビィフは手を振って、立ち去って行った。
「俺も、ここで別れることにする。カラム様に一刻も早く、アイ様の無事を伝えてあげたいしな」
ネロが言った。
「ネロもありがとう。ネロがいなかったら、結社のことも分からず仕舞いだったよ」
「いえ……アイ様。私は模擬戦でアイ様にやられて以来、修練に打ち込みました。今回のことは、その成果を披露するに相応しい場でしたよ」
「そうだね。同じ技は効かなかったみたいだ。ネロは努力家だね」
アイは、自分が操られている時に、ネロに、過去と同じような攻撃をしたことを思い出した。
ネロは確かに、攻撃にしっかり対応していた。
「お元気で、アイ様」
「ネロも、またね!」
そうして、ネロも一行を離れ、カラムの元へと向かった。
「さて、グレイさんも、家へ帰っていいですよ」
あれからというものの、別人のように無口になったグレイにエスは言った。
「しかし……」
「そうだね、グレイ……お父様たちには、適当に言っておくから」
「アイ様。だけど、僕は許されないことを」
「エスとも話し合ったんだ。グレイがいてくれた方が、色々説明はしやすいけど。ありのまま真実を話したら、大問題になっちゃうから」
本当のことを話せば、グレイは罪を裁かれてしまうだろう。
しかし、アイは酷い目にあったとはいえ、グレイに恨みを抱いてはいなかった。
グレイの動機は褒められたものではなかったが、こうして罪を感じてアイを助けるのに一役買ってくれているのだ。
「だからグレイは、私の情報を掴んでエスに渡して、グレイもエスとは別行動で私を探してくれたけど、見つからなかったから、お家に帰った、って設定でよろしくね」
アイはグレイにそう言って微笑んだ。
「私はアイ様の意向に従っているだけで、お前はいつ死んでもいいと思っているよ?」
エスもにっこりとして言った。
「エス、もう話は済んだでしょ。だからグレイ、きっとグレイは反省しているから、もういいよ。反省したなら、ちゃんと前を向いて進んでね」
「そんな簡単に許されるようなことでは……」
グレイはあくまで食い下がる。
「グレイも許してくれるでしょう?私がお腹を刺して、グレイを殺しかけたこと……」
「もちろんです!それは元々自分が悪いので……」
「じゃあ、おあいこだね!」
こうでもしないとグレイは納得しないと思い、そんなことを言うとアイは笑った。
「じゃあね、グレイ……余計なこと言っちゃだめだよ!」
そう言いながら、アイとエスは、グレイを残して立ち去った。
しばらくぶりに帰れる、わが家の方へと。
アイが屋敷に入ると、使用人を追い越すような勢いで、両親はアイを迎え入れた。
「うわぁぁあん!!!……あぁアイ……ひぐっ……本当によかった……!!!」
母親は、喋るのもままならない勢いで泣き、アイを抱きしめた。
この身体で目を覚ました時よりも、母親に愛着の湧いていたアイは、あまりの母親の泣きっぷりに、少しつられながらも、母の背中をさすった。
母親は、鳴きすぎて過呼吸になり、その場を外したが、次は父親が珍しくアイを抱擁し、離そうとしなかった。
言葉は無かったが、こんな世間に嫌われた悪役令嬢でも、両親には深く愛されているのだと、アイは実感した。
「アイ様!!!!」
メイドのミルフィーユは、後から駆け付け、雇い主の父親すら押しのける勢いで、アイに飛びついてきた。
「よかったぁ……本当によかったぁ……アイ様の代わりに自分が捕まっていればと、毎日思っていたんです……アイ様……本物だぁ」
「ありがとう、ミルフィーユ。騎士団に伝えるために、必死で走ってくれたって聞いたよ」
「いいえ、当たり前のことですわ……本当に……つい昨日まで、アイ様は死んでるかもって……泣いていたのに……これは現実でしょうか……?幸せすぎる……」
「あはは。心配かけたね」
ミルフィーユはしばらくずっと、アイに抱き着いていた。
「ゆっくりと、何もしなくていいから、ただ休みなさい……」
父親にそう言われ、アイは自室に戻ったが、部屋の前には常に見張りが二人立っていた。まるで王室か……あるいは囚人かのような警備だった。




