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18 グレイの夢

 その後、何軒か店を周ったが、興奮するアイと、怯える店員、呆れるミルフィーユと、平常心のグレイという様子は、どこへ行っても変わらなかった。


「ここに来たのはご主人様達にはナイショですよ」


 少し裏通りに入ったところで、ミルフィーユはアイたちに言った。


「屋台のお菓子が美味しいんです!しかも、歩いたまま食べるんですよ。そんなところ見られたら大変ですから、急いで食べちゃいましょう」


 そう言ってミルフィーユは、串に刺さった果物のような物を人数分買ってきた。


 ミニトマトのような大きさの、黄色い丸い果物は、砂糖で包まれていて、一串に4個等間隔に刺されていた。


 アイは団子のようだと思ったが、外側の甘さにも関わらず、中の果物は仄かに酸っぱく、しゅわしゅわとして初めての食感に感動した。


「んまぁ!」


「でしょでしょ!お嬢様にも食べてほしかったんです!でも買って帰れないし、お嬢様は街には来なくなりましたから……」


「ほうなの?なんで?」


 頬張りながら、慣れた様子でアイはそのお菓子を食べていた。

 それどころか、食べながら平気で喋っていて、ミルフィーユは驚くやら悲しむやら複雑な感情だった。


「ええっと。いつからかあまり好きではなくなったみたいですね……」


「変だねぇ。こんなに楽しいのに。ねぇグレイ?」


「え、ええ。それにしても、食べづらいですね。これは。奥に刺さったものはどうやって食べるんですか?」


「え?普通にこうでしょ」


 アイが串を横にしてかぷっと果物を軽く噛み、そのまま串を引いて端まで器用に移動させて、ぱくりと最後の一粒を食べた。


「は、はしたないのでは!?」


「全然普通でしょ。あーおいしかった」


 グレイは結局、不器用にアイの倍は時間をかけて、ようやく平らげた。




「ふー。さて、そろそろ戻りましょうか?」


 ミルフィーユがそう言った時、遠くで叫び声が聞こえた。


「泥棒!だれか!!!捕まえて!!!」


 声の方を向くと、汚れた布切れのような衣服に身を包んだ小さな子供が、必死でアイたちの方に駆けてきた。


「わあ、大変です。逃げましょう!」


 走ってくるのは子供にもかかわらず、何をされるかわからないと、ミルフィーユはその場から逃げようと二人の背を押した。


「いえ、任せてください」


 グレイはそう言うと、手を掲げた。


「グレイ?」


 不安そうにアイがグレイの方を見やる。

 まさか、あれをやるつもりじゃないよね?


 子供はアイたちの方を一瞬見たが、足を止めることなく脇を通り過ぎようとした。

 その直後に、子供の足元に、大きな水たまりが現れた。


 グレイが魔法を発動したのだった。


 それに足を取られ、子供は盛大に転んでしまった。

 子供が地面に触れる寸前に、正面へ飛び出たグレイは、子供を受け止めた。

 飛び散った水に、グレイの洋服が汚れた。


 暴れる子供を、グレイは抑え込んで、手にしていた鞄を奪うとアイに渡した。


「あ、あ、ありがとうございます。貴族様……申し訳ございません!申し訳ございません!」


 追いかけてきた女性は、必死の形相でなぜかアイたちに謝った。


「あーいいんですよ。どうぞ」


 アイが鞄を女性に返すと、女性は震える手でそれを受け取り、逃げるように去って行った。




「君、どうして取ったの?」


 グレイは子供にそう尋ねた。


 子供は既に抵抗を諦め、地面に座り込んでいた。

 髪は長く伸び、衣服はぼろぼろで、アイの方まで少し臭った。

 しかし、グレイは気にもしていないようで、間近で話しかけていた。


「おかね、ない。たべもの、たべもの」


 子供はあまり上手く話せないようで、片言でそう言った。


「そうか……お母さんは?」


「お母さん、死んだ。お父さん、いる」


「お家に帰れる?」


「やだけど帰っていい?」


「ほらこれを持って行って」


 グレイはポケットから硬貨を数枚出して、持たせた。


「うん……」


「しばらくは、盗むなよ」


「あい……」


 子供はそう言うと、とぼとぼと来た方とは反対側へ帰って行った。



「ごめんなさい!ごめんなさい!私がこんなところに連れてきたせいで!」


 こういうことがあるから、アイの両親は裏通りのようなところへ立ち入ることは許していないのだろう。


「いいんですよ」


 汚れた服を払いながらもグレイはそう言って笑った。


「警察?憲兵?とかに、突き出さなくてよかったの?」


 アイが単純な疑問からそう尋ねた。


「本来そうすべきでしょう。でも、あの子も望んでああなったわけじゃないんです」


「それはそうだろうけど。悪いことは悪いことでしょ」


「ええ。だから、何の意味もない、僕の偽善です」


「ふーん……」


 腑に落ちないアイは、微妙な返事をしてみせた。


「この王国は平和ですが、手の行き届かないところもある。戦争をしてなければ平和なわけじゃないんです。僕は、目の届く範囲でも、人々が幸せに暮らせる土地を作りたい……だから騎士団に入りたいんです」


 自分の思いを確かめるように、グレイはそう言った。


「素敵ですわ!たかが平民を赦した上に、その幸せを願うだなんて!とても真似できませんわ!」


 ミルフィーユはそれを聞いて感動したようにそう答えた。

 嫌味にも聞こえたが、アイが表情を見る限りでは、本当に感動して言っているだけのようだった。


 一方、アイはそんなグレイを否定しなかったが、肯定もしなかったのだった。


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