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勇者魔王短編作品

勇者パーティー、薬草やポーションよりも食べ物の方が回復アイテムとして優秀だと気づいてしまう

 打倒魔王のために旅をする勇者アラン率いる四人の勇者パーティー。

 しかし、その冒険は苦難の連続だった。

 今日も手強い魔獣と戦いどうにか勝利を収めたものの、前衛を務めるアランと戦士ガストンは重傷を負ってしまった。


「ぐう……!」うめくアラン。


「ちくしょう、なんつう鋭い爪をしてやがる……!」ガストンも苦痛に顔を歪めている。


「しっかりして!」女魔法使いレベッカが女僧侶ポーラの方を向く。「ポーラ、回復呪文は?」


「申し訳ありません。先ほどの戦いで魔力がもう……」


 呪文は期待できない。となるとアイテムで回復するしかないが――


「薬草をかじっても、大して回復しないな……」


「ポーションもだ! まさに焼け石に水だぜ……!」


 薬草やポーションでも二人の傷を完全に癒やすまでには至らない。前衛が戦えない以上、完全に立ち往生してしまった。


「もう、どうすればいいのよ!」


 絶望的な状況に頭を抱えるレベッカ。

 すると、ポーラがアイテム袋から何かを取り出した。


「あ、あの……ケーキならありますけど……。ある町を救った時にもらった……」


 ポーラの手にあるのは苺のショートケーキだった。スポンジの上に白いクリームが塗られ、苺が一つ置かれている。


「ポーラ、しっかりしてよ! ケーキなんか出してどうするのよ!」


「そうですよね。ごめんなさい……」


 しかし、アランが言った。


「いや……ケーキを食べてみよう」


「おいおい、ケーキ食って傷が回復するわけねえだろ!?」


「ダメで元々さ。俺は甘い物好きだし、最後にこういうものを食べておくのも悪くない」


 半ば諦めが混じったようなアランの言葉。

 ポーラは「どうぞ」とケーキを手渡すと、アランはそれを食べ始めた。

 傷ついた体で食事をするのはなかなか大変だが、どうにか全部食べる。

 すると――


「ん!?」


「どうした?」


「傷が……治った」


「は!?」


 驚くガストン。確認すると、確かにアランの傷がきれいさっぱり消えている。

 ポーションや薬草が遅れて効いたとは思えない。明らかにケーキの効能である。


「俺にもケーキくれ! まだあるだろ!?」


「分かりました!」


 すかさずガストンもケーキを食べる。同じように傷が消えた。


「どういうことだこれ……!?」


「分からない……けど、もしかしたら食べ物は回復アイテムとしてものすごく優秀だったんじゃ……」


 悩む一同。

 バカバカしいとさえいえる仮説だが、「バカバカしい」では片付けられない現象が実際に起こっている。


「もしそれが正しかったら、どうなるのよ?」


 とレベッカ。アランが答える。


「俺たちの戦略は大きく変わることになるかもしれない。とにかく俺とガストンの体力が回復した今なら、安全な場所まで行けるだろう。そうしたら、今の仮説が正しいか試してみよう!」


「そうだな! 百聞は一見に如かずってやつだ! いやこの場合、百食は……か?」


 ケーキのおかげで窮地を脱したアランたちは、最寄りの町まで無事にたどり着くことができた。



***



「よし……それじゃ実験を始めよう」


 アランがみんなに言う。

 町周辺のモンスターが大して強くないのを確認すると、さっそく仮説が正しいかどうかの実験をすることにした。

 実験とはすなわち、「わざとダメージを受ける→食べ物を食べる」を繰り返すのである。


 アランがわざとスライムの体当たりを受ける。


「ぐあっ……! よし、何か食べ物をくれ!」


「クレープです、どうぞ!」


 ガストンも同じく巨大なラットからひっかき傷を喰らう。


「いてて……レベッカ、食い物頼む!」


「はい、唐揚げ!」


 体を張った実験を繰り返した結果、アラン達は一つの結論に達した。


「仮説は正しかった。食べ物は回復アイテムとして優秀だ!」


 他にも分かったことがある。

 

 完食しなければ効果は得られない。

 食べ物ごとに効果は違い、値段が高いほど回復効果が高い傾向にある。

 飲み物では魔力が回復できる。


 ――などである。


 これらのことを踏まえ、アランは次のような戦略を見出した。


「今後は体力や傷の回復はなるべく食べ物で行う! そうすればポーラは補助呪文に専念することができるから、戦いを有利に進められるはずだ!」


「分かったぜ!」

「分かったわ!」

「分かりました!」



***



 回復はなるべく食べ物で――という新しい戦略だったが、最初は上手くいかなかった。

 魔物の攻撃で、肩に傷を負うアラン。


「ぐうっ……! 何か食べ物をくれ!」


 ポーラからの返事は――


「ラーメンしかありませんけど……」


「ラーメン!?」


「味は豚骨です」


「こってりだな!」


 熱々の豚骨ラーメンを手渡されるアラン。これを戦闘中に食せというのか。


「ええい、食べるしかない! ハフッ、ハフッ、あつっ!」


「グオオオオオッ!」魔物が襲いかかってくる。


「ちょっと待て! 食べてる最中に攻撃してくんな!」


 魔物の追撃を避けながらラーメンを食べるという曲芸じみたことをするはめになった。


 ガストンもまた苦戦していた。


「レベッカ、食い物くれ!」


「麻婆豆腐よ!」


「俺、辛いの苦手なんだよ!」


「そんなこといっても、今ある食べ物の中でそれが一番効果が高いんだもの!」


「ちくしょう! 食うしかないか!」


 麻婆豆腐をレンゲでかき込む。


「かれええええええええ!!!」


 魔物の攻撃よりダメージが大きかったのでは、と言いたくなるような悲鳴を上げた。



……



 時にはこんなこともあった。

 モンスターと攻防を繰り広げながら、アランが叫ぶ。


「レベッカ! ポーラ! 呪文で援護してくれ!」


 援護がない。


「どうした!? 二人ともワインを飲んで魔力は回復しただろ!?」


 二人を見ると――


「ワインおいしぃ~」

「もう一杯いきましょ、もう一杯」


 二人とも完全に酔っ払っていた。


「ああっ……後衛が泥酔状態に!」


「俺らだけで戦うしかねえぜ!」


 回復手段を食べ物で、というのはこのようにデメリットも多く、勇者パーティーはかえって危険になってしまうことも多々あった。

 アランたちは「もしかしてこの戦略間違ってたのでは……」という思いを抱きつつも、どうにか旅を続けるのだった。



***



 しかし、慣れというのは恐ろしいものである。

 魔王軍幹部・大悪魔との戦い――


「みんな気をつけろ! 大技が来るぞ!」剣を構えるアラン。


「もう遅いわ! 闇竜巻ダークトルネード!」


 暗黒の竜巻が四人を切り裂く。パーティー全員がかなりの傷を負ってしまう。


「どうだ! フハハハハハ!」手応えを感じ、高笑いする大悪魔。


 ところが――


「みんな、食べ物を食べるんだ!」


 アランの号令とともに、アラン自身はステーキを、ガストンは餃子を、レベッカはチョコレートパフェを、ポーラはなんと七面鳥の丸焼きを食べ始めた。


「何をやってるんだ……お前ら?」


 呆気に取られる大悪魔。

 そして、呆気に取られている間に全員食べ終わってしまった。


「ふぅ、ごちそうさま」


「なにいいい!? 食うの早すぎだろ!」


「みんなあらゆる食べ物を3秒以内に食べられるよう訓練したからな……」


「3秒!?」


 もちろん傷は回復している。全快したアランが、隙だらけの大悪魔めがけ突進する。


「し、しまっ――」


「セイントスラッシュ!」


 聖なる力を込めた勇者の必殺技が、大悪魔を滅ぼした。



……



 勇者たちの快進撃は止まらない。

 魔界一の剣豪ともいわれる暗黒剣士と対峙するガストン。


「我が剣技を受けてみよ……暗黒十連斬!」


 連続攻撃でガストンはダメージを受けてしまうも――


「今の連続斬りで袋に入れてたハムも切れて、おかげで食べやすくなったぜ」


「なにい!?」


 切り分けられたハムを食べて即回復するガストン。

 そして、会心の一撃を浴びせる。


「ぐはああっ……! 魔王様、お許しを……!」


 一息つくガストンに、アランたちが駆け寄る。


「やったなガストン!」


「おう! アランにばかりいいカッコさせてられないしな! これぐらい朝飯前だぜ! いや……ハム食べたばかりか」


 食べ物の力で、着実に勇者パーティーは魔王に近づいていった。



***



 アラン一行は、ついに魔王城最深部に陣取る魔王ブラードの元にたどり着いた。


「クックック、来たか勇者ども……」


「ブラード、お前の野望もここまでだ!」


「フン……貴様らまとめて焼き尽くしてくれよう!」


 ブラードが灼熱の炎を吐き出す。

 全員が焼かれてしまうが――


「おかげでいい肉が焼けたよ……」


 四人はこんがり焼けた肉を食べて、全回復してしまう。


「な……なんだと!?」


 今や四人は敵の攻撃を利用して、食材を調理できるほどになっていた。


「おのれぇ! 凍らせてくれる!」


 部屋一面が極寒の氷に包まれるが――


「寒い中で食べるアイスってのもいいもんだな!」


 これまた回復してしまう。


 その後もブラードは魔王の肩書きに相応しい大技を次々繰り出すが、そのたびに四人は何かを食べ、回復してしまう。


「なんだこいつらは……!?」


「どうした、もう終わりか?」アランたちが迫る。


「おのれぇ! ならば奥の手よ!」


 ブラードが呪文を唱えると、大爆発が起こった。魔王の切り札といえる魔法が炸裂してしまった。


「まともに喰らったわ! ワシの勝ちだ!」


 しかし、爆発で生じた煙の中から声がする。


「いや……食うのはこれからだ」


「な!?」


 鍋焼きうどんを食うアラン。

 ビーフシチューを食うガストン。

 カツ丼を食うレベッカ。

 担々麵を食うポーラ。


 食いながら、どんどん近づいてくる。


「なんなんだこいつらは……! 何をやっても何かを食って回復してくる……!」


 アランが鍋焼きうどんの汁を飲み干す。全回復している。

 その異常な光景が、魔族の王たるブラードの恐怖心を煽る。


「や、やめろ! 来るな……来るな!」


 後ずさりしながら、技を繰り出すブラード。そのたびにアランたちは回復し、近づいてくる。

 何かを食べながら――


 カレーライス、ハンバーガー、すき焼き、串焼き、トンカツ、アップルパイ、サンドイッチ、おにぎり、野菜サラダ、天ぷら、アジフライ、牛丼、おでん、コーヒーゼリー、クリームシチュー、チンジャオロース、豚の角煮、肉じゃが、フライドポテト、ナポリタン……。


 もはや、何をやっても彼らの“食”を止められる気がしない。


「うわああああああああ……っ!」


 四人の総攻撃で、人類を長く苦しめた魔王はついに滅ぼされた。



***



 世界に平和をもたらし、凱旋を果たした勇者パーティー。

 アランたちの母国の国王は大喜びで彼らを歓迎する。


「勇者アランよ! その仲間達よ! よくぞ魔王を倒してくれた!」


「光栄です、陛下」


「さっそくおぬしらの偉業を称える盛大な祝賀会を開きたい」


 王宮の大広間に案内されるアランたち。

 大勢の来賓が勇者たちに惜しみない拍手を送る。

 会場のテーブルには、王国選りすぐりのシェフらが腕によりをかけた豪華な料理が並んでいた。


「さあ、遠慮せず食べてくれたまえ」


 すると、アランが言った。


「陛下、ちょっと大怪我してきてもいいですか?」


「え?」


「これほど豪勢な料理、無傷で食べるのはもったいないので……」


 他の三人も大きくうなずいた。






おわり

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― 新着の感想 ―
[一言] 胃拡張というレベルではないW
[一言] RPGだとポーションより食べ物の回復量が高い代わりに戦闘中に使えないというものもあって面白い仕組みだと思いましたがこの勇者にかかれば台無しですね・・・
[良い点] おもしろかったですっ!! 最初から最後まで最高です [一言] RPGで何も考えずアイテムとして食事させてたけど こうして文字になるとシュールだwww 楽しい作品ありがとうございました。
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