いつかその手を
「なんだ」
師匠が手元の本に視線を落としたまま眉間に皺を寄せた。
「さっきからジロジロと……言いたいことがあるならはっきり言え」
来客や魔法薬作りの依頼もなく、窓の外はしとしとと雨が降り続いている。今日は休みと師匠に言い渡された僕は、自習のために書庫から魔法書を持ち出して読書に勤しんでいた。同じく本を読んでいた師匠をふと見遣り、視線を咎められたのだった。
本を持つ師匠の手が自分のそれよりも小さく感じるようになったのはいつからだろう。その手を取ることを許される日は来るだろうか。先日の手酷い拒絶を思い起こして内心苦笑する。
「いえ、なんでもありません」
あなたに見惚れていたんですなんて、到底言えやしなかった。