ハッピーエンド?
「クレア!心配したんだぞ!!!」
屋敷に入ると、応接室からアランが飛び出して来た。
「アラン……。」
「急に仕立て屋を飛び出してさ……!衣装の打ち合わせが終わったから、戻っているのだと思って家に来てみたら、帰って来てないって言われて……。お前、何処に行ってたんだよ!」
「ご、ごめんなさい。……街で偶然リオル様に会って、送っていただいて……。」
「!!!……はぁ?!リオルとなんか会っていたのか?!」
アランはそう言うと、焦ったように私の腕をグイッと掴んだ。
「い、痛いよ、アラン。」
「おい!……クレア、お前……リオルに何か言われたのか?!」
強く掴まれた腕が痛い。
「……す、好きだって、言われたよ。」
なんだか、やけっぱちな気持ちだった。
リオル様に言われて湧いた、アランへの疑惑というかモヤモヤが、胸で燻っていたのだと思う。
「!!!……じゃあ、クレアは、リオルんとこ……行くのか……。お、俺を……捨て……。」
「……え?……ア、アラン?」
アランはふざけるな!とか何やってるんだよ!って、怒鳴るのかと思ってた。……だけどアランはガクリと肩を落とし、私の腕を離した。
「だって、そうだろ?!……リオルは俺よりも家柄だっていいし、身長だって高い。ハンサムだし、パブリックスクールでも優等生で、みんなに慕われてた。ど、どう考えても……俺なんか、霞むだろ……。」
アランは顔を歪めて俯く。
「……そんな事、ないよ。」
すごいスペック持ちだったら誰でも好きになるんじゃなくて、私はアランだから好きなんだし……。
「あるさ、俺なんかちょっと顔がいいだけだ。……背もあんまり高くないし、取り繕うようになっても、性格だってガキの頃のまんまで、ガサツでマナーにも疎いし、頭なんか平凡のちょい下だ。それに……なにより俺は……………………。」
アランはそう言うと、唇を噛んだ。
「クレアに最低な事をしてしまった……。お前の気持ちを無視して……。あの晩、クレアを誘ったのは俺なんだ。」
「ア、アラン……。」
やっぱり……。
リオル様の予想通りだったんだ……。
「夜会でリオルに、クレアに求婚したいって言われて……俺、訳が分からなくなったんだ。だってクレアは家族みたいなもんで、俺といるのが当たり前だとしか思ってなかったから。……なのに、クレアがリオルに取られたらって想像したら、ムカついて……。そ、それで……俺……。」
アランがボロボロと泣いている。
負けん気だけは強くて、どんなに酷い怪我をしても、「俺は男だから!」と絶対に泣かなかったアランが。
「俺……クレアが俺の事を好きなのはずっと知ってたんだ。それなのにリリアナ嬢との仲を取り持ってくれって、協力までさせていた。でも、クレアが他の男に取られそうになったら、すごく悔しくて……。今更、自分にとってどれだけクレアが大切だったか気付いたんだ。……ほんと俺って馬鹿だし最低だよな?だけど俺、気付いたところで、他にどうしたらいいか分からなくて……。今さらクレアに何て言えば良いのかも、信じてもらえるかも分からなかった。そしたら、クレアが酔っ払ってしまって……。このまま帰さなければ、クレアは俺のもんになるんだって、思って……それで半ば無理矢理……。ご、ごめんな、クレア。」
「……。」
ショックもあって、正直どう答えていいのか分からずに押し黙っていると、アランは応接室にあった自分の荷物をサッと纏め、玄関へと向かってしまった。
◇
「ちょっと待ってよ、アランっ!!!」
私は、馬車に乗り込もうとしていたアランの元へと急いだ。
「クレア……。その、怒ってるよな……。ごめん……。」
「ごめんは、さっきから何度も聞いてるよ。私が言いたいのは……怒っているのは、そういう事じゃないよ!」
「じゃあ……なんだよ。」
「そんな事までして、私と結婚したかった癖に、私の大切さに気付いたって言ってくれた癖に……。わ、私っ……まだ好きだって一度も言われてないっ……!」
「……!!!」
アランは手に持っていた鞄をドサリと落とした。
「私はアランが好きだよ!……じゃなきゃ、いくら酔っていても、もっと拒んだと思う。アランが言うように、もしかしたら多少は無理矢理だったのかも知れない。だけど、アランも私の事好きで……その、私を惜しんでそんな事したって言うなら……私も嬉しくて、流されちゃったんだと思う!だ、だから……ゆ、許してあげる!……めっちゃ悩んだし、辛かったけど、結婚してあげる!だから言ってよ……好きだって!ちゃんと、プロポーズしてよ!!!」
「……っ……!」
顔を朱に染めてアランは視線を彷徨わせる。
そしてそのまま後頭部を掻いて、天を仰いだ。
昔っから強情っ張りのアランは、素直に謝れない時なんかに、こんな顔をする。
いつもはそれで許してしまう私だけど、今回ばかりは絶対に引いてやらない……。
だってこれを逃したら、アランからのプロポーズは有耶無耶になって、一生聞けないままになるだろう。
10年も健気に片思いしてきた上に、あんな無理矢理な方法で結婚させられそうになったんだ。このくらい言ってもらわなきゃ、私だってやってらんないよ……!
「クレア……そ、その……。す……き……だ。」
「何よ!もっと……ハッキリ言ってよ!」
「あ゛ーーーっ!!!もう、わかったよ!!!クソッ!言うよ!言えば良いんだな?」
アランはそう言うと座った目で私を見つめた。
そして、大きく息を吸い込んで……。
「クレア!!!好きだっ!!!俺と、結婚!!!して下さーーーいっ!!!」
ありえない程の大音量で、アランは我が家の玄関前で、私にプロポーズをした。
大きな声に驚いた使用人たちが、色々な所からこちらを覗き見ている。(普段ならば、見て見ぬふりをしてくれて、そんな事絶対にしないのに……!)
気まずさのあまりか、アランを送るはずだった御者がパチパチと拍手をおくると、覗いていた全ての使用人たちがそれに倣って拍手を重ね……いつか私たちは拍手喝采を浴びていた。
サブタイトルはこんなですが、まだお話しは続きます。