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あの夜の真相は


 さすがにリオル様にアランとの間にあった事を話すのは、抵抗感が凄かった。


 好きだと言ってくれて、婚約まで申し込んでくれたのに、だらしない女だったのかと失望されるのは、やっぱり途轍もなく苦しくて……。


 だけど、さすがに言わない訳にはいかない。


 誠意を持って伝えてくれたリオル様にだからこそ、ちゃんとあった事を話して、お断りしなくては……。


「軽蔑してくれてかまいません。実は、この間の夜会で、私とアランは、一夜の過ちを起こしてしまったんです。私は酔っていて、よくは覚えていないのですけれど……。でも、次の日に目覚めたらそういう状況になっていて……。それで、婚約と結婚が急に決まったんです。だ、だから……その……ごめんなさい。」


「……。」


「……。」


 さっきとは違い、気まずい沈黙が馬車の中を満たす。


 きっとリオル様は私のふしだらさに嫌悪感を募らせているのだろう。


 ……下げた顔が上げられない。


 だけどもうすぐ、私の家に着きそうだ。だから、この位は甘んじて受け入れるしかないのだろう。馬車から蹴り出されなかっただけ、良いと思わねば……。


「……。」


「……。」


「……あの、それが起きたのは、私と踊ってくれた、あの夜会の後ですよね?」


 口を開いたリオル様から出た言葉には、不思議と軽蔑の色はなく……どちらかというと、思案気味な雰囲気を纏っていた。


「は、はい……。」


 驚いて顔を上げると、そこには困惑した顔のリオル様がいた。


 あ、あれ……?


「確かに、あの日のクレア嬢は、いつの間にかだいぶ酔っていました。」


「そうですか。恥ずかしい所をお見せしてしまい申し訳ござい……。」 


 恐縮する私を遮り、リオル様は話を続ける。


「い、いえ!そういう事ではありません!それはそれで凄く可愛かったですから!いつもしっかりしている貴女がポーッとしてるのは、庇護欲を掻き立てるといいますか……って、そんな話がしたい訳ではないんです!」


 リオル様は珍しく早口でそう言うと、真っ赤な顔のまま先を続けた。


「……あの晩、途中から貴女はとても眠そうで、フラフラになってしまい、会話にも加わらず、ずっとボンヤリとしていました。リリアナが心配して、『もう帰った方が良いのでは?』と勧めた程でした。すると、アランが貴女を連れて帰ると言い、貴女方はアランと帰って行ったはずなんです。」


「でも、私はあの晩、あの屋敷にアランと泊まったんですよ?ではきっと、その後で私は酔っ払ってアランを誘ってしまったんでしょうね。……私、アランの事が好きだったので。それで、こ、こんな事に……。」


 私はそう言うと、またしても涙が溢れてきてしまった。


「クレア嬢は、アランが好きだったのですね……。では、何故そんなに辛そうなのですか?」


「……アランは私の事を、ずっと女性としては見てくれませんでした。だから、リリアナ様に一目惚れしたアランを応援していたんです。けど……お酒なんか飲んでしまって、私は浅ましい本性を出してしまったのでしょう。その結果、アランとリリアナ様の仲を引き裂く事に……。二人の幸せを祈っていたはずなのに……!私って、ひどい女なんです!!!」


 全てを吐き出した私の手を、リオル様が優しく握った。


「……違うと思いますよ、それ。」


「……え?」


「私には、あの夜の貴女は、そんな事が出来るほど意識がハッキリしていたようには思えませんでした。すぐにでも眠ってしまいそうな程でしたので……。なので、誘ったのだとしたら、それはアランの方だと思います。彼がボンヤリしている貴女に付け込んで、一夜を共にしたのでは……?」


 リオル様の言葉に、私は戸惑いが隠せない。


「???……アランは、そんな事しませんよ。だって、アランはリリアナ様の事が好きで……?」


「……。ええ、私もそう思っていました。だからあの晩、シガレットルームでアランに言ったのです。リリアナとの仲を取り持つから、クレア嬢との仲を取り持って欲しい……と。」


「アランは喜んだのでは?!リオル様が味方になって下さったら、リリアナ様との話だって具体的に進むでしょうし……。」


「私もそうなるだろうと思い、提案したのです。リリアナもアランの事を気に入っていましたし……。ですが、アランは私がその話をすると、途端に不機嫌になってしまいました。『クレアの意志も聞かずに、勝手に取り持つだなんて出来ない!』と言って……。だから、その時はそれもそうだな、と思って引いたのです。……ですが、私がそんな事を言ったから、アランは貴女を失うのが怖くなったのではないでしょうか?……そして貴女と無理矢理、関係を持った。」


 ……。


 そ……そんな……。


 でも……。

 じゃあ……アランは……私の事を……?!

 好き……???


 う、嘘……!

 だとしたら、すごく嬉しい!


 パッと顔を輝かせた私に、リオル様は渋い顔で言い聞かせるように続けた。


「私は……彼は卑怯で汚い男だと思います。貴女の大切さに気づいたなら、そう言えば良かった。なのに、貴女を騙すような事をして、そんな事までした上に、未だに貴女に思いを告げていない。こんな事になって、貴女はとても苦しんでいるのに……です。そんな酷い男を、貴女は選ぶのですか……?」


「……!」


 その言葉に私はぐっと詰まってしまった。


 それはそうかも……だけれど……。

 

 で、でも……。


「アランは貴女の意志も聞かずに半ば無理矢理にそんな事をしたんですよ?それはあまりに自分勝手で、貴女の尊厳を踏み躙っているのでは?」


「……え。あっ……。」


 言われてみれば、それはそのとおりで……。


 だけど……私は……それでもアランが……。


「私なら、そんな事はしません。貴女を大切にします。意志だって尊重したいと思います。こうして気持ちだって、ちゃんとお伝えしていくつもりです。だからアランではなく、どうか私を選んではくれませんか……?彼は勝手すぎると思います。貴女が好きなら、もっと貴女を大切にすべきだ。」


「そ……それは……。……でも……私はアランとすでに一夜の過ちを起こしてしまいましたし……私は傷モノで……。」


「では……クレア嬢は気に入っていて、大切にしたいモノに小さな傷が入ったとして、それを捨てたりしますか?私は、そんな事はしません。もう二度と傷がつかないようにと、更に大切にするでしょう。」


 リオル様がそう言った所で、馬車がガタリと音を立てて止まった。


「クレア嬢、冷静になってよく考えてください。」


「リオル……様。」


「どうやら、時間切れのようです。貴女の家に着いてしまいました。私との事を、本当に考えてみて下さい。……とはいえ、あまり時間はありませんが……。婚約披露パーティーの前までなら、なんとかしましょう。……いえ、貴女が望むなら、いつだって私は貴女を迎えに行きます。」


 そうして私をエスコートして馬車から降ろしてくださると、静かに頭を下げて、そのまま帰って行ってしまわれた。


 私の心に、アランへのモヤモヤを残して……。





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