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幸せになって欲しかった

 

「……おい。クレア、大丈夫か?気分が悪いのか?」


 アランに心配そうに言われ、私はハッとなった。


 今日は仕立て屋に婚約披露パーティーで着る、ドレスの生地を見に来ていたのだ。


 ここのところ、色々と考えてしまい眠れていなかったから、ボンヤリしてしまっていたのだろう……。


「あ。……えっと、大丈夫だよ。」


「ま、まさか……。」


 アランはそう言って、私の下腹部を凝視する。


「いや、違うってば……!子供はできてなかったって言ったでしょ?!」


 あの後暫くして、私にはちゃんと生理がきたし、婚約はしたものの、アランとは今までと変わらない清いお付き合い(親分と子分なお付き合い。)をしているので、そんな筈はない。


 ……それならば結婚も婚約もそこまで急ぐ必要もないと思うのだけれど、両親たちはこの機会に私とアランの事を一気に畳み込んでしまうつもりらしく、来月に婚約披露パーティーをして一年後には結婚式と、スケジュールをバッチリと決められてしまったのだ。


「そ、そっか……。」


 アランは少し残念そうにそう言ったが……。


 アランもアランだ!!!


 あんな事になってしまって、私と仕方なく結婚する事になったせいもあると思う。

 そのせいもあってなのか、アランはリリアナ様の事を忘れたいのだとばかりに、婚約や結婚の準備をやたらと張り切るようになってしまったのだ。


 今だって、アランが見ていた生地は、私のドレスに使うものだ。私の装いになんて無関心だったアランがそんなのを熱心に選ぶなんて……どうかしている。


「……。」


 押し黙っていると、アランが数枚の生地を選んで私に見せた。


「これとか、綺麗なんじゃないか?」


 アランはそう言って、煌びやかで色鮮やかに染まった生地を差し示す。


「……そうかな?私には華やかすぎると思う。ほら、私って、地味顔だし……。それなら、まだこっちの方が……。」


 私はそう言うと、鈍い光沢の落ち着いた色味のものを指差した。


 派手な色合いはアランならともかく、私の場合は地味さが際立ってしまう。


 そんな微妙なセレクトに、私は何とも言えない気持ちになる。

 やっぱり、アランは張り切っていても私の事なんて見てはいないのだ……。


「なんだよ、俺が見立てやったのに不満なのか?!……あ!もしかして……昔、俺がクレアに地味顔って言ったの、まだ根に持ってるとか?」


「……根に持つもなにも、今は真実だと思ってるよ。アランは派手顔だから、そういうのもお似合いになるだろうけど、私の場合は華やかすぎると、服が主役になっちゃうって言うか……だからさ?」


 苛立ち気味にそう言われ、とりなすように答えると、アランが溜息を吐いた。


「あのさぁ、別に服が主役だっていいだろ?……パーティーでお前が目立つ事には変わらないんだし。」


「……な、なに、それ。」


「顔が地味なら服で目立てばいいじゃんって言いたいの、俺は。……じゃなきゃ、誰も地味なクレアになんか注目しねーし。」


 その言葉に妙に苛立ちを覚えた私は、アランが選んだ生地を指差して、トランプゲームでもするみたいに「じゃあ分かったよ。……なら、これでいいや。」と、適当に一枚を引き当てた。


 それなら……そうやって決めたんでも、充分でしょ。

 どうせ私の事なんて……誰も見てないんですし。


「!!!……おい、クレア!もっと真剣に考えろよ!」


 アランは私の手をパシッと掴むと、睨みつけた。


「真剣?!どうやって?!……こんなの真剣になんか、やってられないよ!……ねえ、アラン。私たち、結婚する事になっちゃったんだよ?!本当に、それでいいワケ?!」


「……はぁ?いいも何もないだろ?決まった事だ。……それにお前……俺の事、昔から好きなんだろ?素直に喜べばいいじゃねーか。いいかげん、可愛げないぞ。」


 アランの言葉に私は瞬いだ。


 ああ、そうか……あの夜私はやっぱりアランに自分の思いを……。


「わ、私は……。」


 それだけ言うとブワッと涙と熱が込み上げてきて……涙も真っ赤になった顔も見せたくなかった私は、アランの手を振り払い、仕立て屋から飛び出した。


「おいっ!なんなんだよ!じゃあ全部俺が勝手に決めてしまうからな!後から文句言うなよな!」


 後ろからアランの怒鳴る声が聞こえたが、私は振り向けなかった。



 ◇



「……なんでこんな事になっちゃったんだろう。」


 一人で道を歩きながら、呟く。


 なんでって、間違いを起こしてしまったから仕方ないってのくらい、充分わかっているけど、そう思わずにはいられなかった。


 だけど……。

 こんなの……辛すぎるよ。


 ……。


 私は……。


 実は……アランの事がずっと好きだったのだ。


 しかも、「間違いでもなんでも、アランと結婚出来てラッキー!」なんて思えない位に、アランの事が好きだった。


 ……。


 初めて会って……子分にしてやると笑顔で言われた時から、私はずっとアランに思いを寄せてきた。


 それなのに、そんな大切に思ってきたアランに、お情けで愛もない結婚をしてもらう羽目になるなんて……。


 アランの態度からだって、今も私を異性として好いているとは到底思えない。責任を取るって言ってくれているけれど、あれは……やっぱり本当に一夜の過ちに過ぎないのだ……。


 しかも、リリアナ様とアランは上手くいきかけていたのに、それをぶち壊してまで……だ。


 こんなの、絶対に幸せになんてなれないよ……!


 ……。

 ……。


 アランが私を女性として見ていないのは、昔から知っていた。だから、思いを伝えるつもりなんて、無かった。

 いつかアランが誰かを好きになるまで、側にいられれば充分だなって思っていた。


 願わくば……アランが幸せな結婚をするのを見届けて……そしたら後はお父様が選んだ人なら誰とだって文句を言わずに結婚するつもりだった……。


 それなのに……。

 なのに……。


 間違いを起こしたから罰を受けるにしても……こんなの、辛すぎるよ……。


 アランには幸せになって欲しかったのに、こんな事になっちゃうなんて……。


 歩きながらも涙が込み上げてきてしまい、私は立ち止まってグスグスと泣きはじめた。


 街行く人たちが、チラチラとこっちを見ているが……正直、それすらどうでもいい。


 近場にあった公園のベンチに座り、そのまま涙が流れるに任せていると、不意に私の膝に人影が差した。


 ……?


 慌てて顔を上げると、そこにあった顔は……。


「……リオル様?」


 ……。

 ……。


「こんにちは、クレア嬢。こんな所でどうされたのですか?泣いてますよ……ね???」


 心配そうに私を覗き込んできたのは、リリアナ様のお兄様であるリオル様だった……。






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