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責任取るって言われても

 

「……あー……。クレア、責任は取る。結婚しよう。」


 目覚めて状況を把握したアランは、決心したようにそう言った。


 だけど私は首を縦には振れなくて……。


「でっ、でも、アランはリリアナ様の事が好きなんだよね?!」


「それは……。だけどさ、そんな事は言ってられないだろ?こんな事になってしまったんだぞ???」


 アランはそう言うと、震えたままの私の手を安心させるように握った。温かいその手に気持ちが緩みそうになって、慌てて首を振る。


「……大丈夫だ、心配するな、クレア。」


「全然、大丈夫なんかじゃないよ!!!こんな事になってしまったけれど、私は……アランの、ただの子分なんだよ?!……け、結婚なんて、出来る訳ないよ!」


 叫ぶようにそう言うと、とうとうポタポタと涙が流れ落ちた。


 ……。


 そう、私とアランの関係は、正確には幼馴染というよりも、親分と子分の関係なのだ……。


 ……。


 私とアランの出会いは、今から10年前。


 当時、私が8歳、アランが9歳……。私は子爵であるお父様が仕える伯爵様(アランのお父様)に、「アラン様の婚約者に自分の娘はどうですか?」と勧めたのが始まりだ。


 当時からアランは目を見張るような美少年ではあったけど、貴族のお上品なお坊ちゃまとは違い、中身が物凄い悪ガキだった。

 だから、大人達が婚約者候補として連れてくる女の子達に意地悪をしては、ことごとく泣かしてしまい……誰一人として上手くいかなかったのだ。


 ちなみに、そんなクソ餓鬼アランが初対面で私に投げつけてきた言葉は『今までの婚約者候補の中で、一番地味な顔をしてる。』……である。


 まあ、事実なんですけどね……。


 でも人って……本当の事を言われるのが一番腹が立つ訳でして……。


 これが大人しい貴族のお嬢様ならショックでさめざめと泣いて終わるのでしょうが……気が強かった私は……そのままアランの足を払ってコケさせてやった。


 そして……。


 なんというか、喧嘩するうちに意気投合したんだよね……。


 まあ、子供あるあるなのかも???

 類は友を呼ぶとも言いますし。


 アランは『婚約者はムリだけど、クレアの事は気に入ったから子分にしてやってもいい!』と言ってくれて……それ以来、私はアランの子分をやっている。


 伯爵様とお父様は、そんな私たちに苦笑していたけれど……「気が合うみたいだし、年頃になれば変わるんじゃないか?」なんて言って、正式に婚約はしなかったものの、私たちを頻繁に会わせ続けていた。


 しかしながら、私たちは10年経っても、その頃のまんまなのである。


 ……。


 そんな中……とある夜会で、アランは侯爵家のご令嬢である、リリアナ様に一目惚れをしたのだ。


 リリアナ様はそれはそれは美しく、いつも沢山の男性から声をかけられていたが、人見知りなのかお兄様であるリオル様の後ろにササッと隠れてしまわれる。


 なのでアランは、子分である私にリリアナ様と仲良くなるように命じたのだ。私をダシにして、リリアナ様にお近づきになるという、作戦だ。


 その作戦の甲斐あってか、リリアナ様とアランは私を通して交流を持つようになり……。昨夜はリリアナ様とダンスまで踊ったのだ。

 今までリリアナ様はリオル様としか踊っているのを見た事がなかったし、アランはひとつ前進したって訳なんだよね……。


 アランは容姿端麗で、ダンスだって上手だ。

 今は対外的には悪ガキマインドを封印して、だいぶ紳士的に振る舞えるようになっている。


 だから……今のアランになら好感を抱く女性は少なくないと思う。


 リリアナ様だって、アランとの遣り取りの中で、顔を赤らめている事があったもの。


 つまりは、本当にいい線までいっているのだ。


 それなのに……。

 私とこんな事に……!


 私はグッと唇を噛んだ。


「確かにクレアは俺の子分だけど……。でも、子分が困ったら親分である俺が助けるのは普通だろ?」


「だ、だけどね?!子分は親分の不幸なんか望まないよ?だから、やっぱダメだって!……ねえ、アラン。これ……だ、黙っていたら分からないんじゃないかな?!」


 私が必死にそう言い募ると、アランは深い溜息を吐いた。


「いや、ムリだろ。俺たちは昨夜帰らなかった。両親たちは何かあったんだと思っているだろう。何もなかったなんかでは済まされないさ。……それに、こんな事をしてしまったんだぞ。クレアには俺の子供が出来ているかも知れないじゃないか……。」


「こ……子供……。」


 アランの言葉に、頭を殴られたようなショックを受ける。


 そ、そうだよね……ほとんど覚えていないけれど、そういう事をしてしまったのだから、子供が出来ている可能性だって充分にありうるんだ……。


「……とにかく、俺の家とクレアの家に報告して、なるべく早くに結婚しよう。もう、それしかないだろ?」


「そ、そんな……。」


 アランの言葉に、私は目の前が真っ暗になっていく気がした。




 ◇




 アランが昨晩の事と、責任は取るつもりなので、早々に結婚したいのだと話すと、私の両親は大変喜んだ。


 そりゃーそうだ。

 お父様は最初からそのつもりでアランに会わせていたのだから。


 ちなみに、アランのご両親も大喜びだった。

 アランのお母様には『クレアちゃんの事は、本当の娘のように思っていたから、本当の娘になってくれるの、とても嬉しいわ!』って、泣かれてしまうほどに……。


 まあ……10年近くも下手な親戚より頻繁にアランの家に顔を出していましたし……情も湧いてきますよね。私も、伯爵様と奥様の事は慕ってますし……。


 ……。


 そんな訳で、『一夜の過ち』なんていう、誰からも責められるような事をしてしまったのに、私たちの婚約と結婚は、みんなに祝福されてトントン拍子に話が決まっていってしまったのだ……。


 ……だけど。


 そんな中で、私は何とも言えない気持ちを抱え続けていた……。






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