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二度目だけど初夜

 

 ……。


 そうして、私はリオル様と再婚した。


 私が再婚なのと、リオル様のご両親は既に亡くなっている事、妹のリリアナ様とも絶縁されている事なんかもあって、私たちは二人だけで小さな式を挙げた。


 そして……。


 その夜。

 いわゆる初夜が……やってきた。


 ◇


 ……。


 ……ど、どうしよう。

 緊張してきたかも。


 私はベッドの端に座りリオル様を待ちながら、段々と青ざめていった。


 はじめてではないものの、こんな事をするのは、すごく久しぶりなのだ……。


 それに……再婚だから当たり前かもだけれど、リオル様は私がはじめてじゃないってのを知っている訳で……。慣れてるって思われていて、期待されていたら……どうしよう……?


 ……。


 アランとは結婚していたものの、近頃はそういう事はしていなかったし、正直言うと、アランとの経験には、あまり良い思い出がない……。


 それで、どんどんそういった行為が嫌になって、仕事の忙しさにかこつけて、遠ざかっていっていったのだ。


 ……。


 リリアナ様との浮気を責めた時、アランはそういった行為の少なさも原因だったんだと言っていた……。


 夫婦なら……嫌でも、もう少し我慢すべきだったのかも知れない……。


 ……で、でも……。


 ……。


 ああ、こんなんじゃ、リオル様の事もガッカリさせちゃうのかも知れない。


 それは……嫌だ……。


 ……。


 どうしよう……。

 頑張らないと……。


「クレア、お待たせしました。」


「……!」


 声をかけられ、顔を上げると薄手の夜着を身に纏い、髪を崩したリオル様が部屋に入ってくるところだった。


「リ、リオル様……。」


 私は震える手を握り、必死で笑顔を作った。

 嫌じゃないんだって、せめて笑わないと……。だけど、作った笑顔は、あまりにも貼り付けたようで……私は直ぐに俯いてしまった。


「クレア……?待たせすぎましたかね?寒いですか?震えていますし、顔が青いですよ?」


 リオル様は慌てて私に近づくと、真剣な面持ちで私を除き込んだ。


「い、いえ。大丈夫です!」


「……いや、大丈夫な顔をしていませんよ?体調が悪いですか?疲れましたか?……ならば今日は別に休みましょうか?」


 リオル様のその言葉に、私は弾けた様に顔を上げた。


「ダ、ダメです!!!別には休みません!……私、ちゃんと妻としてのお勤めを果たします!……あの、頑張ります!だから……!」


 リオル様の手を掴んで必死にそう言うと、リオル様は驚いた顔をした後に、少しだけ困った様に言った。


「……。……クレア、私はね、『妻の勤め』とか『頑張る』って。なんだか嫌いですね。」


「……き、きらい……。」


 拒絶の言葉にサッと青ざめると、リオル様は安心させるかのように破顔した。


「クレア、そんな顔をしないで下さい。今のは別に貴女を拒んだ訳ではないんです。……とりあえずベッドに入りませんか、寒いですし、やっぱり貴女、震えていますよ?」


 そう言うとリオル様は私と一緒にベッドに入り、毛布を一緒に被って横になった。


 し……しないの、だろうか。


 だけど暖かい毛布の中で向き合っていると……さっきまでの緊張感がずいぶんと緩んだ気がした。


「……クレア、私はですね、貴女に頑張って貰ってするというのも、勤めだからと仕方なくするのも、なんだか違うかなって思うんです。……そうですね……私はそういう事はお互いがしたい時にしたいです。それが自然でストレスが無いと思いませんか?」


 リオル様はそう言うと、私の髪を優しく撫でてくれた。

 お風呂上がりの、石鹸の清潔で良い匂いが、ふわりと私の鼻腔をかすめていく。


「だとしたら、私……ずっと……そんな気持ちになれないかも知れません……。そしたら……リオル様にも愛想を尽かされてしまうかも……。」


 厭らしさを感じない、ゆったりした優しい雰囲気と、寝室の薄暗さに、私は思わず情けない本音を漏らした。


「うーん……。あのですね、私はお互いがしたい時に……とは言いましたけれど、クレアに『したい』って思ってもらえるようにムードを高めたり、誘惑したりはするつもりで居ますよ?ただ待ってるつもりはありません。」


「……そう、思えるのでしょうか、私。」


「そこは私の腕の見せ所かも知れませんね……?」


 あくまでも優しくそう言ってくれるリオル様に、私はなんだか泣けてきてしまった。


 既婚者だったくせに、何やってるんだろう……私……。


「私……はじめてじゃないですけど、慣れてもないんです。ガッカリじゃないですか……。」


「クレア……別に私も貴女がはじめてって訳じゃないですし、そこはお互い様では???」


「で、でも、男性貴族は閨の教育を受けるから、それは当たり前ですよね……。」


「当たり前なのかも知れませんが、自分がはじめてじゃない以上、相手がはじめてじゃない事に文句を言う権利なんかないと私は思いますけどね……?」


 リオル様はそう言うと、ちょっとだけ笑った。


「それに……私はどちらかと言うと、閨の教育は実技よりも、座学が興味深かったです。」


「ざ、座学……?」


 座学なんて……あるんだ?


「ええ。……私に講義をして下さったのは、ある愛妻家の男性なのですが、精神論的な事を教えて下さったんですよ。こういった事で、一番大切なのは愛情なのだと彼は言っていました。相手を思いやる気持ちが、何よりも大切だそうです。……男って、ついつい肉欲に走りがちですけれど、気持ちがある方が、何倍も満たされるものなのだと言っていました。……大切なのは終わった時に、気持ち良かった……だけではなく、幸せな体験だったと、愛し合ったんだと実感できる事が大切なのだと……。」


 ……幸せ?

 愛……?


 私はアランとの間に、そんな事を思えた時があっただろうか?


 一夜の過ちを犯した時は……もしかしたら幸せだったのかも知れないと思う。だけど良く覚えていないし……後はずっと愛とかいうより、妻としての勤めだと感じていて……なんだか辛かった。


「……私、そういうのダメかも知れないです……。下手なのかも……。」


「クレア、上手い下手なんて……私はあんまりないのではという気がしています。」


「えっ?!……そ、そうなんですか???」


「上手い下手より、合うか合わないかだと思いますね。」


 !!!


 あ、あれか……体の相性ってヤツ……。

 アランはリリアナ様とは最高に合うんだって言っていた。


 そんなの、ますます自信ないや……。


 俯いて涙を堪えていると、リオル様がギュッと抱きしめてきた。石鹸だけでなく、リオル様の香りになんだかドキリとする。


「クレア……合う合わないというのは、お互いに、どうして欲しいか、どういうのは嫌なのか、どうしたらよいのかを、少しずつ擦り合わせていこうって事なのですよ?……もちろん、最初から奇跡的にそういった好みが合う場合もあるでしょう。だけど……私はお互いにそういうのを積み重ねて、二人の時間として作っていくのは悪くないなって思うんです。そうして、最終的に相性バッチリになれば良いじゃないですか?……これが夫婦の醍醐味なのでは?」


「わ……私……。そんな風に考えた事……ありませんでした。」


 リオル様の言葉はあたたかくて……。

 嫌がっていた行為は、なんだかとても尊いものに思えてきた。


「ええ……だからクレア……()()貴女を教えて……?」


 そう言って唇を寄せてきたリオル様は、あたたかさよりも……ゾクリとする色気があって……いつもの『私』ではなく『俺』と言った声は低く……欲が乗っていた……。


 だから私は静かに目を閉じて……それに応える。


 ……。


 だって……嫌じゃなかったから……。


 いや。

 ……私が、それに応えたいと思ったからだ。







あと二話(本編一話、おまけ一話)で完結になります。


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