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始まりの朝

ちょっぴりドロドロしたお話になります。

『一夜の過ち』の反対語はどうやら『毎晩大正解』らしいので、使わせていただきました。

短めでサクッと終わります。

 

 眩しい朝の光に目を開けると、私の目の前に幼馴染のアランの寝顔があった。


「え?……ええっ?」


 真っ青になって、跳ね起きた私は、隣で眠っているアランの顔をマジマジと見つめる。


 淡い金色の髪は朝日を受けてキラキラと光っており、長いまつ毛は陶器のような滑らかな頬に影を落としている。

 薄く開いた口からは、静かな寝息が漏れていた。


 眠っていても、やっぱりアランは綺麗な顔をしてるよなぁ……。

 私なんかが薄口開けて眠っていたら、完璧にお間抜け顔になっちゃうのに、羨ましい……。


 そんな事をぼんやりと考えていたが、アランも私も何も服を着ていない事に気付き、愕然となる。


「う……嘘……。」


 目覚めると、私とアランは見知らぬ部屋のベッドに2人で横になっていて……。


 えっ?!?!


 ……。


 えっと、これってやっぱり、一夜の過ち的な……そういう事が起きたの???


 私は、焦る気持ちで昨晩の事を思い出してみる事にした。


 昨日は確か、夜会があって……。


 ……。


 そうだ、ここは夜会の会場だったお屋敷の客室だ!


 ええっと……???


 ……。


 落ち着いて、まずは順番にいこう。


 昨日はいつも通り、幼馴染のアランにエスコートされて、一緒に夜会に出席したんだよね?


 そして会場で、リリアナ様とそのお兄様であるリオル様にお会いした……。


 アランは、片思いをしているリリアナ様と踊れて、すごく幸せそうにしていたっけ……。


 私もリオル様に誘われて踊ったんだよね。


 うんうん……アランとぐらいしか踊った事がなかった私は、ちょっとドキドキしたんだっけ……。


 リオル様はとっても身長が高いから、背が低めな私と組むと、なんだか少し足が浮くみたいになっちゃって……それがおかしくて、2人で笑ったんだっけ……。


 楽しかったなぁ……。


 ……って、そうじゃない!!!

 もっと思い出さなきゃ!


 ……。


 えーっと……それから……どうしたんだっけ???


 ダンスが終わって、私はリリアナ様とお話をしていたんだよね?


 リリアナ様はお洒落好きで、ファッションチェックが大好きだから、踊っている人たちのドレスを見ながら、『あれは素敵。あれはないわね。』なんて言っていて、私はそれを聞きながら、次に仕立てるドレスの参考にさせてもらおうかな……って思って、相槌を打ってた。


 そしたら、話に興味がなかったらしきリオル様が、アランを誘ってシガレットルームに行くって言い出して……。


 うん、ここまではいたって普通だし、記憶もハッキリしている。


 それから……???


 ……そうそうその後、アラン達が帰ってきて4人分のドリンクを頼んでくれたんだよね?

 リリアナ様とおしゃべりで喉がカラカラだった私は、それを届くなり飲み干して……。


 うーん……。


 こ、このあたりから、記憶があやふやになっているな?


 ……。


 もしかして、その時に誰かのグラスと入れ替わっていて……ジュースと間違えて、お酒を飲んでしまったのかも……!


 私ってば、すごくお酒に弱いし……。

 記憶がなくなってるって……そういう事なんじゃ?!


 それで、酔っ払ってしまった私が、アランを誘って……。


 !!!


 う、嘘っ……!!!

 そんな事、しちゃったの?私っ?!


 えええっ?!


 でも……ぼんやりとだけど、アランに好きだと迫られたような……?


 ……。

 ……。


 いやいや、それは夢……だよね???


 だって、アランが私なんかに迫るなんて、あり得ないもの。そもそも、アランはリリアナ様が好きなのだから……。


 アランはお酒も強いし、酔った勢いで……なんて事もないだろうし……。

     

 ……。


 そうすると、やっぱりこんな事になった原因は私にあるんだと思う。


 私が……酔って……アランに……。


 ……。

 ……。


 ……いやいや、待って。落ち着こう!


 そもそも、本当に私たちは一夜の過ちを犯しちゃったの?


 焦ってそう判断するのは早すぎるのかも!


 もしかしたら、酔っ払って吐いてしまって、アランが介抱してくれていただけなのかも知れない。服を着ていないのも、その時に間違えて服を汚してしまったからとかで……。


 ……。

 ……。


 いやー……ないな……。


 だって、服を汚してしまったからって、お互いに下着も含めて全て脱ぐ必要ってある?

 しかも、こうしてベッドで2人で寝てるって……さぁ……。


 ……。

 ……。


 慌てて体に意識を向けると、なんだかすごくダルいし、下半身には鈍い痛みまである事に気が付いた。

 はじめてだと次の日は辛かったり痛みや違和感があると聞いた事があるけど……こ、これって……つまりは……。


 シーツを捲って確認し、サッと青ざめる。


 !!!


 や、やっぱり……。


 ど、どうしよう……!!!


 ことの重大さを実感し、体がガクガクと震え始めた。


 こ、これって……やっぱり、そういう事なんだよね?!

 

 どうしよう……?!?!

 よりにもよって、アランと、こんな事に……?!


 ……お父様やお母様には、なんて言えばいいの?!


 貴族の娘の婚姻には、未だに純潔が求められている節がある。もちろん、絶対にそうでなければならないって事はない。だけど……政略結婚が多いから、身辺の綺麗さは特に気になるんだと思う。


 私も……曲がりなりにも貴族の娘な訳で……いつかはお父様が決めたお相手に嫁ぐだろうって思っていて……。


 そ……それなのに……。


 私ってば、酔っ払ってそれをアランに捧げてしまったのだ。


 ああ……これはマズい……。


 ……。


 ……。


 ひとりで慄いていると、隣で呑気に眠っていたアランが、パチリと新緑の目を開いた。






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