第四十四話……ブラックホール
「……ふぅ、無いもんだね」
「だね」
晴信とディーが乗る探査船は、ゲルマー星系を飛び出し、はるか遠くの他星系まで足を延ばしていた。
これまでに、酸素濃度の高い七つの惑星と二つの準惑星を調査。
文明生命体はいなかったが、遥か古代の人間たちの足跡は、あちらこちらに見つかった。
だが、異次元を潜るという潜航艇の情報は無かった。
それもそのはず、異次元に潜る技術は、光を超える航法技術をも超える、超文明が編み出した秘儀なのであった。
そこらの遺跡を探せば見つかるというような技術では無かったのである。
「速力増加! 超光速航行に入る!」
『了解!』
晴信とディーは、更に捜査範囲を広げ、旅だっていった。
……もう、そこには星もまばら、惑星コローナへの超高速通信も届かない宙域へと彷徨っていたのである。
☆★☆★☆
晴信とディーが乗る探査船はワープアウト。
もはや惑星コローナからは観測できないような遥か遠い星域に分け入っていた。
『緊急警報! 緊急警報』
ワープアウトと同時に警報が鳴り響く。
レーダー画面には何も映らなかったが、各種のセンサーが異常を知らせてきた。
「……!?」
……しまった!
ブラックホールだ。
晴信は青くなる。
運悪くワープアウトした地点は宇宙の墓場。
ブラックホールの影響下の宙域だったのだ。
「全速離脱! エンジンフルパワー!」
『了解!』
機関を司るAIに晴信が叫ぶ。
相手は光まで飲みこむ重力を誇る超重量天体。
つまり光より速い速度を出したからといって、逃げ切れるとは限らなかった。
現時点で、光の速度を超える航行方法はワープ航法のみ。
だが、それには最低30分の準備時間が必要であった。
「晴信、いそいで! 吸い込まれるよ!」
ディーが珍しく騒ぐ。
「分かってるよ!」
晴信は狼狽し、声も裏返る。
ブラックホールの超重力に際し、探査船の外殻板が軋み、それをささえる超硬質骨格が細かく波打った。
晴信とディーは耐圧服に着替えているも、そんなものはブラックホールに対して何も役には立たないはずだった
外を見るための窓に細かいヒビが入り、次第に雲の巣状を描くように真っ白になっていく。
『推力限界! 現宙域より脱出できません!』
機関担当のAIから悲鳴が上がる。
飲料水タンクに続いて、燃料タンクも破損。
居住域にも、液体や可燃性のガスが充満していく……。
「頑張って! 壊れてもいいから!」
晴信の悲鳴に近い指令が飛ぶ。
『エンジンシリンダー内臨界!』
エンジンが内圧に耐えきれなくなり、断末魔のような火を噴きはじめた。
「エンジン区画、切り離し!」
探査船に切り離されたエンジン区画が、間一髪のところで切り離され爆発。
かろうじて船全体の爆散から逃れることは出来た。
しかしもはや、ワープどころか、通常の推力を得る手段もなくなったのだ。
そのため、晴信ののる探査船は、ブラックホールの超重力に為すすべを完全になくしてしまった。
『外殻破損! 内圧維持できません!』
晴信ののる探査船は、凄まじい速度でブラックホールの中心部へ吸い込まれていく。
ゆっくりと死が忍び寄って来る……。
晴信は確実に死神の足跡を感じ取っていた。
☆★☆★☆
「……うーん」
晴信は蛍光灯の光る白い部屋で目覚めた。
……今までのは、全部夢だったのか?
晴信はゆっくりと起き上がり、周りを見まわすも、見たことのない病院のような部屋であった。
……ここは死後の世界だろうか?
頬をつねるも痛い。
「ディー、どこ?」
ディーを呼ぶも返事はない。
代わりに、見たことのないロボットが部屋に入って来た。
「オ加減ハ如何デスカ?」
不思議と言葉は通じる。
それは、なんとなくディーに似た格好のずんぐりとしたロボットだった。
「ここはどこだい?」
「ココハ研究所デス。貴方様ハ人間。死ニカカッテイタカラ助ケマシタ……」
「それはどうも有難う。でさ、僕と一緒にいたロボットを知らない?」
「知ッテマス」
「どこにいるの? 会わせてくれるかな?」
「嫌デス……、アレハ私戦利品。私、人間助ケタ、御礼貰ウ……」
……えー!?
戦利品?
晴信は慌てるも、武器はない。
体には寝巻のようなものが撒かれているだけの姿であった。
「僕の大切な友達だから、返してほしいな……」
晴信はロボットに頼み込んでみた。
「……ソレハデキナイ。私モ御礼ガ欲シイ」
このロボットも昔に人間たちに造られたようで、晴信に敵意は示すことはなかった。
が、ディーを返すことには、頑固に反対したのであった。
「ソレヨリ、ゴ飯ノ時間デス。コチラヘドウゾ」
晴信は部屋から出て、廊下を案内されて、食堂のような広い部屋へ通された。
そこには窓があって、外には殺風景な岩石の大地と、星の少ない空が見える。
晴信がテーブルに付くと、ロボットがグラスにお水を汲んできてくれた。
「ゴ注文ハ?」
「……ぇ?」
晴信は驚く。
さっきのロボットが、エプロン姿に中華鍋を片手に戻って来たのだ。
「ナニガ食ベタイデスカ?」
「作ってくれるの?」
「ハイ。私ノ本業ハ、オ料理デスノデ……」
「……じゃあ、炒飯をください」
中華鍋との発想から、晴信は炒飯を頼む。
「ワカリマシタ。少シ、オ時間ヲ頂キマス」
お辞儀をして、ロボットは厨房へいく。
待つ間に、晴信はこの広い部屋を歩いてみた。
あちらこちらにロボットが座っているが、全て既に動かなくなっていた。
部屋は奇麗に掃除されてはいたが、主人たる人間が居なくなって、凄まじい長い時間が流れていることが晴信にも感じ取れたのだった。
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