第四話……新造! ベータ号!
――晴信はある晩。
入ったことのないディーの寝室の前にいた。
暗闇の中、部屋からうっすらと光が漏れる。
「ダ……、ダレデスカ!?」
部屋の中から、聞いたことのない機械音。
その発音者は、配線だらけの醜い機械の顔を晒していた。
「……ミ、ミナイデ。ハルノブ、君ニ嫌ラワレタクナイ……」
後ずさりするディー。
彼は晴信に内緒で、毎晩メンテナンスをしていたのだった。
……が、ディーが心配するほど、晴信は驚いてはいなかった。
「ディー。君が中古の部品を集めていたのは、この為だったんだね……」
晴信はディーに丁寧に断って、彼の部屋へと足を踏み入れる。
「……ハイ。ワタシハ、モウナガクナイ古イロボットデス。ハルノブ様ヲ、オ迎エデキタコトガ最後ノ喜ビデス……」
「そんなこというなよ。僕のことを友達って思うなら、様をつけずにハルノブっていう約束だっただろ!?」
「……スイマセン」
泣いて抱き付く晴信に、ディーはランプを赤青と激しく点滅させる。
きっと動揺しているのだろう。
その晩のディーのメンテナンスは、晴信も手伝った。
ディーの体は奇麗にメンテンスされ、更に晴信に丁寧にワックスもかけて貰ったのだ。
それは彼等二人のかけがえのないルーティンとして、その後も毎日続くことになる。
☆★☆★☆
――翌朝。
「あ、あれ? いない」
ディーが晴信を起こしに行くも、彼は彼の寝室にはいなかった。
彼は工場の指令室にて、何やら設計作業に打ち込んでいる様だった。
「あ、ディー。おはよう!」
「おはようございます。ハルノブ、なにをやっているのです?」
「ああ、ディーの新しい体を設計しているんだけど、上手くいかないんだ。なんでだろう?」
晴信の困惑顔に、ディーもランプをチカチカさせる。
「ハルノブ、この工場は宇宙船を造るために作られているのです。私のような雑役ロボットは対象外なのです……」
「雑役だなんて……。この世界に僕は独りぼっちなんだ。ディーがいなくなったら僕とても悲しいんだ……」
晴信は知らないうちに、この世界にひとり来た。
その貯まった寂しさを、この時ディーに一気にぶちまけたのだ。
ディーはいたたまれなくなったのか、黄色いランプを点滅させる。
「そうだ!」
突然元気になった晴信を見て、ディーはびっくりする。
「どうしたんです?」
「いやなに、この工場で立派な宇宙船を造って、ディーが修理できる星までいけばいいんだって思ったんだ!」
「……あはは、有難いことです」
ディーは今までになく、青いランプをチカチカさせた。
それは彼にとって、最後であろう仕える主人への温かい感謝の光だったかもしれない……。
☆★☆★☆
――数日後。
準惑星ディーハウスの工場にて、新たな宇宙船が誕生しようとしていた。
その船名は【ベータ号】。
その名が現す通り、アルファ号を再設計し改修したもので、全長を300Mと拡大。
全幅も40Mに拡張した。
更には、ささやかながら、自衛の装備も取り付けた設計となっていた。
「できた!」
「できましたね!」
最後は、自分たちで船名などを船体にマーキング。
お祝いに、とっておきの果汁100%のジュースを開封した。
それは二人にとって、とてもいい思い出になった日だった。
――その日の晩。
晴信はひとり工場の図書室にいた。
ここを見つけたのは一昨日だが、ゆっくりできる日を探していたのだ。
「……」
晴信はコンピューターを検索。
この世界における人類の歴史をスクリーンに投影した。
……実用核融合炉の開発。
……超光速機関の開発(宇宙船の航行速度が光を超える)
……超極高周波通信機の開発(光速を超える通信手段の取得)
そして。
……星系間戦争の勃発。
……未知の文明種族との遭遇。
……人間種族の最大版図。
……星系間戦争の激化。
……人間種族の絶滅。
……人間以外の文明種の発展。
その【人類の歴史】は、人間以外の文明種の発展を最後に、映像データを閉じた。
晴信はこの世界で人間を見たことが無い。
出会った文明種族とは、ゲームや漫画にでてくるようなエルフやドワーフといった生命体だったのだ。
手に入った紙幣の肖像も人間の姿ではない。
この世界で普通の人間の姿をしているのは、まさしく晴信ただひとりだったのだ……。
……ディーが自分に期待しているのは、人間文明の復権なのだろうか?
それとも、この工場の生産者としてなのだろうか?
なんだか、晴信はそれをディー聞くのは怖かった。
それゆえ、この図書室で見聞きしたことは、しばらくディーに話さないことにしたのだった。
☆★☆★☆
――翌日。
「エンジン始動!」
「了解!」
晴信の号令と共に、ベータ号の超光速機関がうなりを上げる。
「機関出力正常」
「発進!」
晴信とディーを乗せ、宇宙船ベータ号は宇宙空間へと出港。
その機関出力は予想以上で、準惑星の地表に、宇宙空間から見えるほどのクレーターを作ってしまったほどだった。
「すごいね!」
「予想以上ですね!」
晴信はニコニコ顔。
ディーも青いランプを点滅させた。
ベータ号は順調に準惑星ディーハウスの重力圏を離れ、試験航行を開始した。
その試験航行は上手くいき、遥か遠くまで航行しても大丈夫であろうデータが、無事に取れたのであった。
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