第二十三話……オーバーステップ法
――オーバーステップ法。
それは保有する宇宙戦闘艦の数を増やすために、ゲルマー王国が制定した法である。
その法とは、民間宇宙船でも戦闘に供する船の所有者は、その船の戦闘力に応じた非正規の階級を授けられ、有事に軍の指揮下に入るというものであった。
このことにより、ゲルマー王国は戦闘艦の費用のみならず、乗組員の訓練費用も免れようとしたのだった。
その法により、晴信は非正規な中佐に任じられ、シリウス地上戦の軍功により大佐へと昇進していた。
ただ、その法で昇進したものは、軍の知識が不足気味となるため、原則後日に研修を要としていたのであった。
「大気圏突入準備。安全ベルトを締めてください!」
晴信はタテナシをディーの秘密工場へと送り、民間の宇宙船でゲルマー王国の主星であるアレクサンドラを訪れていた。
「着陸完了。またのご乗船をお待ちしております」
晴信はディーと共に、アレクサンドラの宇宙港に降り立つ。
そこは摩天楼のような高層ビルもあるが、壊れた軌道エレベーターの残骸も目に付くという、よくも悪くも古代の先進文明の遺産を大いに取り込んだ都市惑星であった。
この星の自然環境はあまりよくなく、多数の巨大なドーム型の居住区によって、生物の健全な生存を保たれていた。
その巨大なドーム型の居住区同士は、多数のチューブ状の交通機関によって繋がれて、更に外へ外へと開発され、居住地域を拡げていた様だった。
晴信はこの星に、今回研修の名目で来ていた。
研修会場は、この星の中枢区画にあるゲルマー王立士官学校。
そこは、ゲルマー王国の俊英たちが集う学び舎であった。
ちなみに晴信の地球時代の成績は良くない。
お世辞にも俊英といった立場ではなく、人物としては校風に似合わない者であった。
……が、事件は研修の三科目目で起こった。
晴信が艦載射撃シミュレーターにて、士官学校の過去最高得点を記録したのだ。
『最高得点9986点をマーク。過去最高得点を更新いたしました!』
「凄い!」
「見たことない奴が、記録更新しやがったぞ!」
士官学校の戦術科に歓声が轟く。
なぜなら艦載射撃シミュレーションでの高成績は、士官学校の生徒たちにとって花形であったのだ。
これで好成績をとれる生徒は人気の砲術科に配属できた。
晴信は若い学生たちに大人気になり、サインをねだられるまでになった。
「貴方、凄いですね! 今までどんな訓練を受けて来たのですか?」
……この教官の質問に晴信は困った。
まさか、地球時代のゲームの賜物です、とは言いにくかったからだ。
「……ええ、実践の賜物です。皆さんも学校の成績に囚われず、現実に即した訓練を重視してください」
晴信は嘘をつく……。
しかし、結果的に嘘にならないような方便を選んだつもりだった。
「皆さん、拍手!」
万雷の拍手を浴びて、晴信は艦載射撃シミュレーションを後にした。
このシミュレーターの成績では、過去の名だたる名艦長や提督が成し得ない成績を叩きだしたのだ。
この記録をもってして、晴信は一部の人にとってスターとなっていった。
☆★☆★☆
講習の三日間を終えて、晴信はディーと喫茶店へと向かう。
晴信はコーヒーを頼み、ディーは機械油を頼んだ。
「……ふぅ、つかれたね」
「ええ、でも成績は、思ったよりかは良かったんじゃないですか?」
晴信は講習の通知表を開き見る。
数学などの座学は低空飛行だったが、実技試験がそれを補って余りあった。
それを考えれば、この世界の兵科学校を卒業してないのには、非常に好成績だったといえた。
「……でも、もう二度と学校で勉強したくないよ」
「あはは」
ディーが力なく笑う。
晴信は学校での座学は苦手だったのだ。
家で一人ゲームしているのが好きな少年だったのだ。
――その日の夕方。
アレクサンドラの宇宙港。
そこは大小さまざまな宇宙船や、気圏用ジェットが飛び交う。
「テイクオフ!」
晴信は民間の宇宙船にのりこみ、一路惑星コローナを目指したのだった。
☆★☆★☆
この時分。
表面上はあまり波風立たないでいたが、王の跡継ぎを巡る政争は続いていた。
――ゲルマー王国の貴族会議。
「ここは王弟陛下に王位についてもらうべきではないか?」
この発言をしたのは、ゲルマー星系第五惑星の領主アンゲラー辺境伯。
スラー帝国との前線も近く、この度の戦乱で発言力を増していた。
「王弟陛下じゃと……!?」
「アンゲラー殿、それは本気で言っているのか?」
貴族会議はざわつく。
それも妥当なことだった。
前の王エーベルハルト四世には、確かに弟がいた。
……しかし、前科持ちのだ。
度重なる人権侵害罪で、宮殿の片隅に幽閉されていた危険人物だったのだ。
しかしながら、ゲルマー王国の法律で、王の跡を継げるのは王族のみ。
前王エーベルハルトがまだ若く、元気なこともあって、誰も跡継ぎのことを考慮していなかったのだ。
アンゲラー辺境伯が嫌らしくニンマリ笑うと、体の殆どが機械化された男が会議場に入ってきた。
「無礼者!」
「ここを何処と心得る!」
衛兵たちが機械化された男の排除を試みると、五体がほとんど機械の男は会場全体に響きわたる大声で言い放った。
「愚か者! 我こそは王弟、ゼノンである! 一同、頭が高い!」
「……!?」
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