表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/36

29話 『アグレッシブ』


 

「チリリリンッ、チリリリンッ」


 目覚まし時計が爆音を鳴らす。

 億劫な1日の始まりの合図。


 軽くシャワーを浴びて化粧をし、制服に着替える。


「千尋、もう少しで授業が始まるよ。先行ってるね」

「うん、なるべく急ぐ」


 同室の友達『木実 詩(このみ うた)』はいつもこの時間に出る。流石Sクラスに選ばれるだけはあるし、性格がとてもいい。

 最初にSの人と同室になったと知った時は、Jの私なんていじめられると思っていたが、そんなことはなかった。


 前までは早く行くメリットがあったけど、今の私には学校がめんどくさくて仕方ない。

 別に友達がいるからつまらないってわけではないけど、やっぱり何か物足りない。

 あの日、あの時、連れ去られる彼を見てしまった自分を恨む。

 もし見てなかったら、学校側から家庭の事情だと言われて信じていただろう。


 あぁもう、こんなことを考えていても仕方ない。学校に行こう。


「おはよう、さっちー」

「おっはー」


 同じクラスの国枝(くにえだ) 伊乃李(いのり)さんだ。

 この人も遅めにくる傾向があり、よくこの時間にばったり会う。


「あ、そういえば聞いた? 休学してた柚留さん今日から復学するらしいよ」

「え、本当!? 誰が言ってた!?」

「昨日課題を残ってやってたんだけど、その時に山口(やまぐち)先生が言ってたよ」

「…………」

「なんか嬉しそうじゃん。千尋、柚留のこと好きだったもんね」

「ちょっと何言ってんのバカ!」

「今回も奥手すぎるとまたどっか行っちゃうよ。応援するからさ、頑張れ」


 会話の節々に揶揄いを挟まれ、顔を赤くする場面あっただろう。相変わらず伊乃李は揶揄い達人だ。

 そんな話をしながら学校に着く。教室に行ったが、まだ柚留君の姿はなかった。


 席に座ったと同時に授業開始のチャイムが鳴り響く。すると、山口先生が入室する。


「授業の前に、皆さんにお知らせがあります。今日から休学中だった柚留さんが、復学することになりました。後もう少しで来ると思うから、ちょっと待っててください」


 来るまで3分くらいの時間だったが、私にとっては30分と思えるほど長く感じた。この時ほど時間が過ぎるのが遅かったのは初めてだった。

 そうして、ガラガラっと教室の扉が開く。理事長の後ろに続いて柚留君の姿が見えた。


 理事長は教壇の前に立つ。


「Jクラスの皆さん、おはようございます。本日から休学中だった柚留さんが復学します」


 理事長は耳元で、柚留君に何かを話す。


「えっと……。一年ぶりですが、よろしくお願いします。早く馴染めるよう努力します」


 教室に拍手が巻き起こり、柚留君は元の席だった私の隣に座る。

 奥手は駄目って決めたでしょ。もっとアグレッシブに行かないと。


「よ、よろしくね」

「え、あ、う、うん……」


 やばい! 自分から声掛けちゃった!

 無視されなくて安心したぁ。

 まずは、こういう挨拶的なところからだね。


「はい、では、前回やったところから──」


 それから、授業が始まった。


 この隣にいる柚留君は本物だよ……ね?

 あの日連れ去られるのを見たけど、幻覚だったのかな。いや、でも柚留君の他にも連れ去られている人がいた。そう考えると、やっぱり学校側は何か隠している。

 聞いたところによると、柚留君が突然いなくなった日から他クラスの何人かが欠席していたそうだ。そのうちの数人が一週間後くらいには出席していたそうだが、残り1人は今も尚休学になっている。

 その人たちに何があったか聞いても、皆家庭の用事があったとまるで口裏を合わせたかのように答えた。記憶改竄をする超能力があると聞いたことがある。疑いたくないけど、その類のものかもしれない。

 いや私の思い過ごしかな……? 実際無事に柚留君が戻ってきたわけだし、あの連れ去った人たちは学校の関係者かもだし。

 これ以上深入りするのも柚留君が戻ってきたから無意味だし、あの日の記憶は忘れよう。


 で、どうやって仲良くなればいい?

 恋愛はよくわかんないけど、まずはお友達からだよね。

 かといって一回も喋ったことないのに、馴れ馴れしく行くのも気持ち悪がられそう。

 あぁもう! こんなこと考えて奥手になってたら、柚留君人気だから取られちゃう。

 柚留君他人に興味なさそうだから取られにくくはあると思うけど、もたもたしちゃいられない。

 てか、私だってその興味ない1人のうちに入ってるかも!? もしそうなら立ち直れないよ……。

 もういい、当たって砕けろだ。


 そんなことを考えていると、授業が終わり昼休みになる。


 柚留君が立ち上がった。多分ロッカーに昼食を取りに行くんだろう。

 座り始めて小説を読む前に話しかけないと。いや、今話しかけるべきよ。


「柚留さん……あの、よければ、なんですけど……お昼一緒に食べませんか?」


 ちょっと何言ってんの私!

 色々な過程飛ばし過ぎてるって!


「…………え?」


 ほら困惑してるって。

 あーもう終わった。

 謝っておこう。

 

「あ、いやならいいんです。すみません」

「嫌じゃないよ。ちょっとびっくりしただけで……」


 それから、席をくっつけて向かい合い、昼食を食べる事になった。


 絶対に無理だと思ったのに、なぜか昼食を一緒に食べれている。

 それに、寮以外でこれだけ喋っている柚留君は初めて見た。

 もしかして、私に気があったり? 


 あ、そうだ。沈黙はまずい、何か会話を──


「柚留さん、いつもフルーツオレと卵サンド買ってますね。美味しいんですか?」

「うん、美味しいよ」

「…………」

「あ、そういえばなんで昼飯に誘ってくれたのかな? さつきさんとは禄に話したことないけど……」


 確かにそう思うよねぇ──!

 やばい私、今どんな顔してる!?

 恥ずかしくて顔が見れない。

 こんなの「好きです」って言ってるようなものじゃない。

 何か誤魔化さないと。


「柚留さんと友達になりたかった……から?」

「うん。ありがとね」


 苦し紛れの言い訳すぎるよ。あぁ、恥ずかしい。

 柚留君に軽く流されちゃってるし……。


 そして、その後も軽く会話を挟みながら昼食を食べ終えると、午後の授業の時間になる。


 柚留君、普通に喋れるのになんで友達作らないんだろ。

 それかやっぱり私に気があるのかな! だから、話してくれたのかも!


 思い切って帰りも誘ってみよう。


「柚留さん、一緒に帰ろ」

「別にいいけど……」


 しかし、思い切って一緒に帰るが、何を話していいかわからず、ノアの方舟に着いてしまった。


「また、明日」

「うん、また明日」


 女子寮の目の前で別れ、少しばかり男子寮へ歩く柚留君を眺めると、部屋に帰る。


 今日だけで結構進展したんじゃない?

 なんかいい感じっぽい……多分。

 明日は金曜、1から5限まで超能力演習だから、遊びに誘っちゃおうかな。

 外部に出れないけど、カフェやボーリング場のようにそこそこ娯楽がある。

 それに……一年間休学してた理由も気になるし。


 今から準備しよっと。誘う練習もしなくちゃね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ