28話 『復学初日』
「はぁ……」
ベッドの上で俺は大きく溜息をした。
今日からまた学校か……。
確かクラスは3年間固定だからクラスメイトは同じ人のはず。クラスの輪はより強固になり、俺の入る余地は完全になくなったな。諦めよう。友達なんていなくても別にいいや。
あ、そういや唯一の友達だった一宮 亮はどうしてるんだ? 確か一緒に捕まったはずだけど。Bクラスになんか行ったら喧嘩売られそうだし、今度理事長に聞いてみよう。
ベッドの呪縛からどうにかして体を引き離し、学校に行く準備を済ませる。
別にスキルにより寝る必要はないが、俺は娯楽として睡眠を味わっている。やはり人間は夜に寝るのが一番いい。
ノアの方舟から出ると、学校に行く前にコンビニに寄る。
「2点で198円です」
昼飯を買い、鞄の中に押し込むと、ゆっくりと学校へ向かった。
今の時間は8時30分、ちょうど門が開く時間だ。生徒会のメンバーが既に門のところにいる。
「おはようございます」
「おはようございます」
全くご苦労なことだ……。
それから俺は教室ではなく、理事長室に向かった。
突然教室にいるのも不自然とのことで、理事長がクラスの全員に説明してくれるそう。
理事長は既に室内におり、パソコンで仕事に励んでいた。
「じゃあ、そろそろ移動しようか」
ソファーで放心していると、授業が始まる時間になっていた。
俺は理事長の背後について行き、Jクラスの教室へ向かう。
一年経った今、覚えているやつなんているのだろうか? 禄に話してこなかったから誰だこいつって思われるだろうな。
前は人と喋れない程のコミュ障だったが、スキルがある今は改善されているといいけどね。いや、異世界の知らない人と喋れていたから、それは既に克服できてそうだ。
まぁ、友達がいなくたって死ぬ訳ではないし、俺には指輪の世界の住人がいる。決して独りぼっちではない。
そんなことを考えるている内に、教室に着いた。
理事長は扉を開けると中に入り、俺もその後に続いていく。
教壇の前に着き、理事長は教室全体を見渡した。
「Jクラスの皆さん、おはようございます。本日から休学中だった柚留さんが復学します」
理事長は耳元で「ほら、何か言って」と無理難題を俺に投げかける。
「えっと……。一年ぶりですが、よろしくお願いします。早く馴染めるよう努力します」
何故か拍手が巻き起こり、先生に指定された席に行く。
俺の席はずっと空いたままだったようで、後ろから2番目の席だった。
そのタイミングで理事長は退室する。
「よ、よろしくね」
「え、あ、う、うん……」
やべぇぇ、くそはずっ!
突然隣の席の女子に話かけられて、コミュ障が発動してしまった!
スキル【明鏡止水】で抑えてなかったら、今頃口すら開けてなかったぞ。
異世界の人とは普通に喋れるのにどうしてこっちではこうなんだ!?
やっぱり……どうしても普段口を開いてなかった俺が突然喋ったら、びっくりされるんじゃないかと考えてしまう。
もし「めっちゃ喋るやん」とか「ど、どうした突然」とか言われたら、メンタルやられて立ち直れない!
だめだ、ネガティブ思考が脳内を汚染していく。
(1、3、5、7…………)
ふぅ、素数をある程度数えたら落ち着いた。
全くみっともない。女子に話しかけられただけでこうなるなんて。
「はい、では、前回やったところから──」
それから普通に授業が始まった。
去年に比べてやってるレベルがとても高く、何を言っているかわからなかった。
実習やる際は異世界のスキルで応用できればいいが……。
あまりにも暇なので、【亜空間倉庫】の整理をし、指輪の世界を眺めていた。
気づけば授業は進み、昼休みになる。
(さて、ロッカーからフルーツオレと卵サンドと)
ロッカーのドアを閉めると、そこには女の人が立っていた。思わず少しびっくりする。
この人は確か隣の席の……さつきさんだ。一体どうしたんだろう?
「柚留さん……あの、よければ、なんですけど……お昼一緒に食べませんか?」
「…………え?」
聞き間違えじゃなければ、昼飯を一緒に食べたいと言われた気がするのだが、突然すぎて思考が追いつかない。
けどどういう風の吹き回しだ? 今までなんの関わりもなかったさつきさんが、俺と昼飯を食べたいなんて……。
「あ、いやならいいんです。すみません」
「嫌じゃないよ。ちょっとびっくりしただけで……」
それから、2人で食事をすることになった。てっきり何人かのグループで食べるのかと思ったのだけど。
しかも、席をくっつけて向かい合ってだ。
「柚留さん、いつもフルーツオレと卵サンド買ってますね。美味しいんですか?」
「うん、美味しいよ」
「…………」
「あ、そういえばなんで昼飯に誘ってくれたのかな? さつきさんとは禄に話したことないけど……」
皐月は頬を少し赤らめ、一度俺の目を見るとすぐさま逸らした。
「柚留さんと友達になりたかった……から?」
もしかして罰ゲームか何かか? あのインキャに話しかけてこいとか、誰かに言われたんだろう。こんなクラスのカースト上位の女子が俺に話しかけてくるはずもないし。
「うん。ありがとね」
そして、軽く会話を挟みながら昼飯を食べ終えると、午後の授業が始まった。
それから数学とかいう眠くなる授業が何時間も続き、ようやく帰る時間になる。
「柚留さん、一緒に帰ろ」
「別にいいけど……」
ここまで来るとは罰ゲームではなさそうだ。女の考えていることは全く理解できん。
それか本当に友達になりたいだけなのだろう。さつきさんはちょっと怖い印象だったけれど、喋ってみたら普通の女子って感じだった。
この調子で他の人とも仲良くなれたらいいな、なんて。
「また、明日」
「うん、また明日」
女子寮の目の前で別れると、俺は自分の部屋へ向かった。
部屋に着くと、鍵と窓の戸締まりをし、カーテンも閉める。
枕の中の転移石を使い、異世界に転移した。
冒険もしたいが、今日はアリソンにやってもらいたいことがあるので、ルクヴィズ大森林に向かう。
移動手段は走りで、スケルトンのレベル上げをしつつ、家畜にできる魔物がいないか探しながら進んだ。
すると『コカトリス』という蛇と鶏が混ざった魔物の巣を見かけ、そこには巨大な卵が何個もあった。これは是非捕獲したい。
「おらっ」
レベル500はあったが、軽くひっぱたいただけで指輪の世界に放り込むことができた。全く、骨がない魔物だ。魔眼スキルを二つも持ってるのに、こんなに弱いなんて。
そうして、寄り道しつつアリソンの元に戻ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「止まれっ──」
その時、四体のゴブリンキングが俺に向けて、槍を構える。
「貴様、人間だな!? 何故この場所がわかった!」
そこには巨大な石の城壁が築き上げられ、魔物たちは木々を伐採していた。
たった百体のゴブリン種でここまで開拓してるとは……。
てか、周囲の開拓をお願いしたが、もはやこれは国だ。俺は別に国を造れとは言っていないんだけどな。
このゴブリンたちは俺の姿を見たことがないんだろう。まずは誤解を解かねば。
「えっと、俺はユズルなんだがわかるか?」
「こいつっ、ユズル様の名前を騙るとはいい度胸だ!」
「ちょ、ちょっと待って、じゃあアリソンを呼んでくれ」
「アリソン様をも呼び捨てだと!? こいつ生かしてはおけん! 死ねっ──!」
その時、アリソンが糸で矛を止め、ゴブリンキングは胴体を真っ二つにされてしまう。
「またかぁ……」
「ユズル様に手を出そうとするとは、万死に値する!」
「まあまあ、落ち着いて。このゴブリン達は俺の顔を知らなかったようだしさ。殺す必要もないよ」
亜空間倉庫からユグドラシル実で作った薬を取り出し、切られた二体のゴブリンキングに飲ませる。
「なぁ、命を粗末に扱わないでって前から言ってるだろ? 次やったらペナルティだからな」
「申し訳ございません……」
「それはそうと、今日はアリソンにやってもらいたいことがあって来たんだ。頼まれてくれるか?」
「もちろんですとも!」
作業場にやってくると、俺は一着の服を見せる。
「この服はなんですか?」
「これは学校の制服だ。アリソンが行きたがってた地球の品物だぞ」
「これが地球の学校の制服……。なんていうか可愛いですね」
「そこでなんだが、これと同じ物をアリソンの糸で作って欲しい」
「……あら、糸を出して欲しいなんてエッチな人ですねえ」
アリソンはニヤッと笑うと、上目遣いでこちらを見てくる。
「訳わかんないこと言わないで、頼まれてくれるかな?」
「ちぇ、つまんないの。作ればいいんでしょ、作れば。どうせ私は利用されるだけですぅ」
アリソンは制服をガバッと取ると、不貞腐れながら手織り機を準備する。
全く、これだから女は訳がわからない。俺が一体何したってんだ。
「わかった。今度地球に連れて行くから怒らないでくれ」
「別に怒ってないし」
「じゃ、1時間後にまたくるよ」
触らぬ神に祟りなしだ。ここは早急に撤退して、トムのところに行こう。
それと、俺のことがわからないやつもいるので、フリルレンを召喚し隣を歩かせる。
効果は抜群だったらしく、通りすがったゴブリン達は俺をユズルだとわかってくれた。
そして、しばらく歩いていると、建築中の現場に着き、トムが指示を出しているのが見える。
「やぁ、トム」
「これはこれは、ユズル様。如何なされましたか?」
「この城壁を造ったのはトムか?」
「左様です。もしかしてお気に召されませんでした?」
「そんなことはないが、別に国を造れとは言っていないぞ? もはやこの規模はどこかの王城に匹敵するんじゃないか」
「取り壊しを希望なら、今すぐ取り掛かりますよ」
いや……まぁ、ここから近場の人里は100キロくらい離れてるし、気にしすぎか。
指輪の中も人口が圧迫していたし、逆にちょうど良い。
「やっぱりこのままやってくれ。人手も追加する」
「心遣い、感謝いたします」
俺は、指輪から以下の大量の魔物を召喚した。
スケルトン 約10000体
ゴブリン 約4000体
オーク 約4000体
ミノタウロス 約1000体
昆虫系の魔物 約5000体
その他の魔物 約3000体
これだけ出しても指輪の世界にはまだ半分以上いる。流石にほっときすぎた気がするな、これは。かといって殺すのも可哀想だし、捕まえてしまった俺の原因でもあるから仕方ない。
それからアリソンから制服を受け取ったあと、各種族の代表を呼んで会議を行った。
俺が手に入れた情報や、俺の写真を渡し、全員に俺の顔を覚えさせておくように頼む。
その後も色々な用事を済ませ、宿屋に戻ると俺は地球にテレポートした。




