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25話 『悲惨な過去』



 私の名前は『美鈴 陽毬(みすず ひまり)

 どこにでもいる女子中学生だった。

 それこそ私は、超能力なんて持っていなく、ただ普通の学校に通う一生徒。休みの日は友達と遊んだり、長期休暇には家族と旅行に行ったりもする。

 だが、私の平和な日常はあの出来事をきっかけにいとも簡単に壊れてしまった──


 ある日、私たちクラス全員は、いつも通り授業を受けていた。確かその日は、千鶴(ちづる)先生の理科の授業だったのを覚えている。


「はい、皆さん。席についてください」


 千鶴先生は理科の教師であるが、女性の方で美人な容姿をしている。これからの担当教師が彼女だとわかると、クラスの男子達は鼻の下を伸ばしていた。


「全く……男子は相変わらず頭の中がピンク色ね」


 女子達が蔑んだ目で男子達を見ている中、授業は通常通り開始される。

 中学2年生に進級して初めての授業という事で、まずは自己紹介からだった。


「出席番号1番、天野 奏(あまの かなで)です。趣味とかではないんですけど、弓道をやっています。1年間よろしくお願いします──」


 この調子で進み、2年生ではどのような内容をやるのかなど先生が話し込み、授業は終わりを迎えようとした。

 ところが、2人の男子が突然喧嘩をし始めたのだ。事の発端は言うまでもない些細な事だそうで、またかと思いつつ傍観する。


「お前、やめろって言ったよな!」

「は? お前からやったんだろ。てか、その臭え口塞げや」

「くっさ、お前の方が口臭いことに気づいた方がいいぞ」


 いたちごっこが続く中、ヒートアップする口喧嘩に先生が仲裁に入ろうとする。


 その時だった。教室の床一面に魔法陣のような模様が浮かび上がったのだ。これには流石の先生も混乱し、一同全員が悲鳴をあげる。

 しかし、人の好奇心とは恐ろしく、皆教室から出ようとは思わなかったようだ。思えば、その魔法陣が発動するまで20秒の猶予はあった。

 そうして誰も避けなかった結果、私たちクラス全員32名は、魔法陣から放たれる大きな光によって、教室から地球上から姿を消していた。


 次に目を開けると、そこは地平線まで一面タイルが広がっている空間だった。

 不思議な事に空は暗いが、星は一切ない。屋外にしては風も吹かないし、寒いとも暑いとも感じない。幻か夢でも観ているのかと思い、頬をつねるが普通に痛かった。

 幸い、私1人だけでなくクラスの全員もいて少し安堵した。皆同時に目覚めたらしく、一斉に起き上がると、真っ先に先生は生徒の数を数えた。生徒の大半はもちろんパニックに陥る。


「落ち着いて、皆さん落ち着いて!」


 正直私はとても怖かった。今にも泣き出したい。でも、パニックになっている人を見ると、その気持ちは不思議と収まっていった。人の心理状況的なものなのだろうか。

 そう思っていると、空に真っ黒い雲が現れる。それは塒を巻きながらゆっくりと地面に降り立ち、雲が溶けると中から巨人が現れるのだった。


「私は神だ」


 その巨人はそう言うと、続けて訳のわからないことを言い出した。


「貴様らは勇者に選ばれた。転移する前に餞別として天恵を授ける」


 1人の男子が勇気を振り絞って声を上げた。


「お前は一体誰だ! これからどうする気だ!」

「私の口からは言えることは何もない。とにかく貴様らは選ばれたのだ。もう時間がない、故に異世界に転送する」


 その次の瞬間、私たちは鎧を着た集団に囲まれていた。


「やった! 成功したぞ!」



 ──こうして私たちは、この世界の勇者として召喚された。


 この世界の人間は、魔族と呼ばれる種族から絶えず蹂躙、虐殺をされ続け、6ある大陸のうち4つが既に魔の手によって支配されていた。

 それを止めるために、生き残った国で勇者召喚の儀を行い、そのうちの一つに私たちが選ばれたということ。

 異世界から呼ばれた者は、神から天恵を授けられる。天恵とは簡単に言えばチート。どれもこれも強力なもので、一つ持っているだけで常人との差は歴然とする。

 この世界の住人も天恵を持って生まれるらしいが、10万人に1人いるかいないからしい。一方、異世界人は神から100%の確率で天恵を授かる上に複数持ちが大半だ。

 かくいう私は、天恵を5つも持っていた。所持数は比較的多い方らしく皆からの期待が高かったが、残念なことにランクが低かったようだ。

 天恵には『小・中・大・極・神』と五つの段階があり、私は小か中のどちらか。

 基礎のステータスも中の下くらいで、良かったのは魔法適性が平均でAだったこと。お陰で魔法に関してはクラストップのレベルになった。

 魔法といっても戦闘系の魔法ではなく、付与魔法や補助魔法などの無属性魔法。A級の付与装備を大量に生産する形で私は貢献した。


 最初クラスの全員は、私たちが戦争に使われる事を拒んだが、召喚された以上戦いの意志はなくても戦争に巻き込まれる。なぜならこれは魔族と人類の戦争だから。

 それがわかってるのか、訓練などは特別強制されなかった。それでも皆強くなろうと努力したのは、『やらなければ待つのは死』を暗に理解していたからである。


 そうして、私たちは転移されてから日々レベル上げと稽古に励み続け、気づけば2年が経たっていた。クラスの平均レベルは200くらいだ。

 この年、初めて任務に送り出され、魔族を初めて見る事になった。


 初任務はたった10体の魔族討伐だけ。

 対し、隣国の勇者と合同で私たちの部隊は約50人とこの世界の天恵持ち約20人で赴く。

 たった10体と聞いた私たちは、当然勝ちを確信していた──


 だが、この戦闘で生き残ったのは38人だった。私たちのクラスの生き残りは16人。生き残ったとしても身体欠損や後遺症が残った人が大半で、私もこの時手首に後遺症が残ってしまった。

 この世界には治癒魔法があるが、流石に欠損までは治せない。私の知る限りでは天恵で【欠損再生】を所持していないと治らないもの。

 話には聞いていたが、魔族は人間の3倍強いと言われている。国は犠牲が多数出ることがわかっていたはずだ。なのに、魔族のイメージの湧かない私らをいいように戦場に連れてって犠牲にならせた。

 だが、国を責めることはできない。勇者は年々減ってきているそうで、行けるのは私たちくらい。逆に一般兵を向かわせたらそれこそ犬死だ。魔族の1人倒せやしない。


 そうして諦めがつき始め、徐々にこの世界に慣れていった。


 召喚されて10年が過ぎた頃、私は同じクラスの伊澄 蓮(いすみ れん)と結婚し、幸せの絶頂にいた。

 この頃にはレベルが900を超え、大抵の魔族なら蹴散らせるくらいには強い。

 この時点の生き残りは9人で、戦況は人類にとっていいものへと変わっていた。

 私は数々の功績を挙げたことにより、子爵位を授かって領地と軍を所持するくらいには出世していた。もう立派なこの世界の住人だ。


 そして、遂に迎えた大陸奪還作戦。

 今までの本土防衛とは打って変わる。

 軍の指揮を執り、要となるのはこの私だ。


 まずは、上陸し一夜にして前哨基地を建て、翌日には敵領に攻め込み魔族を皆殺しにし、死傷者を最小限に抑えて大勝利を収めた。

 それだけに留まらず、二週間後にクラスの勇者6人と他国の勇者と協力して敵領の大都市を陥落。これと同時に他の勇者は、前哨基地をあらゆる場所に張り巡らせていく。そして、たった半年で大陸を奪還まで導いたのだった。この時の功績で、私と夫は公爵まで成り上がることになる。

 それから人類の逆転劇は留まる事を知らず召喚から15年、人類は全ての大陸を奪還する事に成功したのだった。

 はっきり言って、勝敗を分けたのは私の無属性魔法だっただろう。無魔法だけ適性はSSSだ。特に錬金術でミスリルを創造出来ていたのが、1番の勝因と見ている。

 何故なら、ミスリルは大量の付与魔法に耐えることができる金属。この金属を少量だけ普通の鉄に混ぜると、付与耐性の無い鉄がより高レベルの付与に耐えることができる。

 お陰で全身高レベル付与魔法済みのフルプレート軍団が出来上がり、一般兵でも魔族の攻撃に何発か耐えれるようになった。それが何万人といるんだ。もはや魔族にとって悪夢だったに違いない。


 この時点で生き残ったのは7人。

 途中まで生き残っていた2人は、残念なことに四天王と魔王戦で死んでしまった。


 ──こうして、この物語はハッピーエンドで幕を閉じましたとさお終い……とはならなかった。



 戦後から1年が経ってしばらくした頃、この世界は1人の王の発言によって狂ってしまった。


「魔族や魔王より強い勇者こそが、真の魔族なのではないか?」


 多分この発言は、魔族より強い勇者達を恐れた事によるもので、それは瞬く間に大陸全土で言うようになった。

 それからというもの、各地で勇者狩りが始まった。

 魔族より強い勇者が本気を出せば全人類より強いと思ったが、人類の力は恐ろしいほど上がっていたのだ。

 私が作った、何万ものフルプレートアーマー・剣・盾。

 どこかの勇者が作った、一時的な能力向上薬。

 迷宮を周回しまくって手に入った大量のスキル本。

 魔族を倒し続けた一般兵。


 こう思えば、最初から勇者は魔族を倒すだけの「物」にしか過ぎなかったんだろうと、何となく理解できる。

 王様にとっては、謀反を起こす可能性のある勇者が気に食わなかったんだ。だとしても、この世界はやってはならない事をした。

 私の夫でありクラスメイトだった蓮を、集団で串刺しにして処刑したのだ。勇者の力でも切れない純ミスリルの手錠で拘束し、じわじわと苦しむ様を民衆の前で……。

 私は真っ先に王様を殺しに行こうとしたが、クラスメイトに止められた。


「あなたが死んだら、蓮はきっと悲しむよ」


 同じクラスの勇者、天野(あまの)さんのその一言に救われた。


 それから3年もの間隠れ家として、危険指定されている森の奥に潜んだ。

 だがある日、1人の密偵により、事が大きく動く。


「地球に戻れる方法がわかったぞ!」


 神から授かった召喚術には実は送還術なるものもあり、術書が王都の厳重に管理された宝物庫の奥深くにあったらしい。その具体的な方法は、召喚術同様に生贄を捧げる事によって発動させれるのだということを知った。

 そもそも召喚に生贄が必要になる事をこの時初めて知り、ますます国に対しての嫌悪感は増す。無実の人が大量に殺されたんだと思うと、漠然とした無が私を襲った。


 そうして、一年にも及ぶ地球帰還計画が始動する。


 隠れ家に送還魔法陣を描き込み、その上で人を殺し続けた。もちろん無差別ではなく、なるべく悪人や世界にとって害になる人を生贄に。

 だが、1日の生贄人数が思ったより少く、中々目標の人数まで届かなかった。


 そして一年が経とうとする日、王国がこの隠れ家に気づいたらしく、軍が進軍中だとのこと。

 あともう少しで地球に帰還できるのに、こんなところで終わってしまうのか?

 どちらにせよやり直す事はもう出来ない。ならば選択肢は一つ「死守」することだった──



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