13話 『階層ボスとの遭遇、そして新たな世界の始まり』
『63354年 169日 14:42』
──第100階層にて。
数万年という途方もない時間が流れた頃。俺は第100階層を攻略中だった。
「アリソン、腹も減ったし、少し休憩しよう」
「キュウケイ……ワカッタ」
俺と使い魔であるアリソンはその場に座り込み、持参した食料を胃袋へ詰め込む。
もはや俺にとって干し肉はゴムを食べている感覚に等しく、作業の一環と化していた。
スキル【地図作成】によると、100階層は大体攻略してしまった。前の階層の感覚的にそろそろ次の階層への階段が現れるのだが……。
そう。この【地図作成】というスキルのおかげで同じ道を通ることがなくなり、迷宮攻略は1万年の頃を境目に超加速した。
その他にも【索敵】【魔眼:崩壊】【憤怒の一撃】などなど、多岐にわたるスキルを獲得。どれもこれも有用で、便利なスキルたちだ。
そして、現在のレベルは864。もうここ半年はレベルアップしていない。ここで上がるレベルの限界に来ているようだ。
だが、次の階層に行けば敵が強いという保証はない。2階層と100階層では、出てくる魔物の平均レベルは段違いだが、最大存在等級がSまでとなっている。簡単に言うと、2から100階層はSまでの強さの魔物しか出現しなかったということ。
レベル300と400程度ではもう成長は望めない。そろそろSS以上の魔物を倒さなければ。
100階層は区切りがいい数字。この階層を突破できれば、何かしらあると踏んでる。まぁ、まずは攻略せんことには何もわからないな。先を進もう。
「そろそろ行こうか」
「ハイ」
一人と一匹は、足並みを揃えて迷宮の道を進む。
アリソンの連続的な複数の足音が、四角い石煉瓦の通路に反響する。
アリソンは、この数万年で容姿がすっかり変わり、声帯が発達した事によって完璧ではないが言葉を発声することができるようになった。
百聞は一見にしかず。とりあえずステータスを見ればわかるだろう。
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《ステータス》
【名 前】アリソン
【種 族】ルザ・アラグニシ
【レベル】429
【魔力量】29403/29403
【存在等級】SS
《スキル》
【身体強化lv7】【腐食耐性lv4】【魔眼:鈍化lv3】【剛糸lv6】【身体装甲lv3】【吸血lv2】
《ルーン魔石》
【ファイアーバレット】【ファイアーボール】
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【ルザ・アラグニシ】はタイニースパイダーの第三進化形態。俺が予想してたよりも進化のスピードは途轍もなく遅く、第二進化時から約3万年も経っている。この第三進化形態の姿になってからは、既に2万8000年が経った。
その容姿は、以前より遥かに人間の容姿に近く、顔の見た目年齢は20歳未満。美人というより、可愛いが勝る顔だ。なんなら人間より人間らしい顔をしている。
下半身は蜘蛛の脚が六本あり、腹部が金属のように硬い外殻で覆われている。そして、頭胸部から上半身が生えていて、真っ白く細かい毛が首から下を覆っていた。
知能は、人間の4、5歳ぐらいで受け答えや少しの会話が可能。他にも罠を張ったり、状況を把握しながら戦闘したりしている。
なんといっても、ルーン魔石が二つある事でより多彩な攻撃ができる。
【ファイアーバレット】は小さな炎の弾丸を飛ばす魔法。
【ファイアーボール】はスイカかバランスボールくらいの大きな炎の球を飛ばす魔法。
実際に対魔物戦でどちらも強力な魔法だった。
人間が使うにはその魔石を解析しなくてはいけないのだが、まだ出来そうな手掛かりが一切なく、どうすればいいかすらわかっていない。
もしかしたら、魔法は人間には使えない代物なのだろうかと最近考えている。いや、希望だけは持っておこう。
その時、突然アリソンは奥に向かって指を差した。
「アレナニ……」
そこには今までのどの階層にもなかった巨大な扉が佇んでいた。
金属製の厳重に閉じられた両開き扉。高さは5メートルくらい。まるで、何かを封印するために作られたように思える。
これはもしや、異世界迷宮の定番のボスイベントではないか? 大体ボスがいる場所はわかりやすくなっているだろ。
論より証拠だ。まずは入ってみよう。
俺は、巨大な扉に付いた取手を力いっぱい押す。そのあまりの重さにびっくりしたが、ギリギリ一人で押せる重量だった。
中に入ると、円状でがらんどうな空間がそこにあった。俺とアリソンは中央に向かって歩いて行く。
バタンッ!
急に勢いよく扉が閉まる。
風でも吹いたのだろうか。いや、そんな些細なことで動くような扉じゃない。
「危ない!」
前方からの攻撃を察知すると、アリソンを押して間一髪免れる。透明な何かが地面に残っていた。
一体どこから現れたんだ? 所々に柱があるが、その影にでも潜んでいたのだろうか。
にしてもきもい戦法を取るやつだ。ただ突っ込むだけの脳なし魔物とは違うっぽい。まずはステータスを見よう。
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《ステータス》
【名 前】ー
【種 族】バイアクヘ
【レベル】986
【魔力量】85460/86480
【存在等級】SSS
《スキル》
【身体強化Ex】【毒牙lv5】【魔眼:透過lv2】【毒物耐性lv8】【麻痺耐性lv9】【迅速lv9】【瘴気lv4】【火魔法耐性lv4】【反響定位lv9】
《ルーン魔石》
【アイスカッター】【アイスウォール】
《説明》
蜂の魔物。巨大な体躯に頭から生えた巨大な角が特徴。頭の角と腹部の針から猛毒が出る。巨大な割にスピードが速い。体長はおよそ5メートル。
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なるほど、これは間違いなく過去最高に強い相手だ。無傷で済む相手ではない。
だが、こちらは一人と一匹で数の有利。それに俺だってレベル864と低いわけではなく、大半のスキルが【Ex】レベルだ。油断しなければ絶対に勝てる。
「【身体強化Ex】【駿足Ex】【狂化Ex】【鉄拳Ex】」
掛けれる全ての上昇効果をステータスに上乗せし、【明鏡止水】で集中力を極限まで引き上げる。
俺らの戦闘スタイルは、俺が前衛で魔物と直接相手をし、アリソンが後衛で魔法や糸で攻撃をする。
アリソンの魔法の軌道は超正確で、殆ど誤射したことがない。俺が防ぎきれなかった攻撃を跳ね返したり、糸で一時的な拘束ができる。
今回のこいつは今まで戦った魔物の中で最も巨体。ということはパワーも一番強い。拘束できる時間は0.1秒たりともないだろう。アリソンの援護はないものとして立ち回るのが良さそうだ。
手始めに遠距離攻撃で相手の実力でもみよう。
「【投擲】」
俺は、持っていた丸い鉄鉱石を全力で蜂の魔物へ投球する。
バコンッと金属に当たったような音が響くと、蜂の魔物は激怒し魔法を放ってくる。
そこをすかさずアリソンは火魔法で相殺。いくつかの相殺できなかった魔法は自力で躱す。
蜂の魔物は攻撃が効かないと判断したのか撃つのをやめ、ブブブブッと耳障りな羽の音の間隔が短くなった。
その瞬間、頭の角を俺の方に向け突進。俺は紙一重で躱し、蜂の羽に一太刀カウンターをいれる。
右羽根は切断され蜂はもう飛べなくなったようだ。地面に這いつくばっている。
だが、油断はならない。地面を走るスピードも恐ろしく速く、再び俺に向かって突進。
(だめだ。速すぎるっ)
アリソンの糸妨害を突き破り、減速することなく俺の左肩に激突。
左腕は肩から引き千切れ、血は吹き出し、ぶつかった衝撃で壁まで吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ距離はおよそ10メートル強。衝撃は結構なもので、背骨と内臓がぐちゃぐちゃになってるだろう。吐血した血が真っ黒に染まっている。
あれはまるで、駅のホームで見た新幹線と同じ速さ……いや、そんなものよりよっぽど速い。
やばい、矛先がアリソンに向かってしまった。糸で柱や天井にくっつけて躱せているがギリギリだ。いつ当たってもおかしくない。速く回復して戦闘復帰しなければ……。
俺は、ポーチからユグドラシルの果実を取り出し、大きく口を開け齧り付く。
左肩から骨が構築され、三角筋から始まり上腕筋、前腕筋と筋肉が骨にこびりついたあと、皮膚がその上に張り巡らされる。
背骨や内臓も修復され、万全な状態になった俺は、剣を握るやいなや一直線にアリソンの元へ駆け寄った。
「【投擲】」
左手で鉄鉱石を投げつけると、こちらに注意が向き突進してくる。
角の素早い攻撃を電光石火の剣捌きでいなしていき、右手で角を押さえながら【鉄拳】を顔面にぶち込む。
蜂の魔物の顔面が拳状に一部陥没し、緑色と黄色が混じったような液体が患部から漏れ出す。口からも同じような液体が出ていた。
攻撃が効いている今がチャンス。脳震盪でも起こしたのだろう。このまま畳み掛けよう。
大きくジャンプし、蜂の魔物の背中に剣を突き立てる。そこから、脊柱をなぞるように剣で首の付け根まで切った。だが、恐ろしい生命力だ。これでもまだ死なない。
蜂の魔物は最後の力を振り絞るかのように暴れだすが、アリソンの糸によって手足は既に束縛されている。
弱った蜂の魔物はもうそんな力は持ち合わせていないらしく、糸は全く切れる気配がなかった。
「安らかに眠れ」
そう一言声をかけ、脳天に魔剣グラムを突き刺し、SSS級魔物【バイアクヘ】は静かに息絶えた。
お、今のでレベルが3も上がったぞ。格上はやはり上がるなぁ。レベルが低かった最初の頃を思い出す。
『100階層の主の討伐を確認。チュートリアルクリア、おめでとうございます』
うぉ、びっくりした。確かこの声はここに初めてきた時に聴いた声だ。
『討伐報酬として【亜空間倉庫Ex】【鍛治Ex】【大工Ex】をステータスに付与します。次のステージからスケールがさらに大きくなるので、必要な物を扉の奥に用意しました』
突然たくさん言われて訳がわからんが、とにかく扉の奥に行けばいいってことか。
奥の扉を開けると、狭い部屋に宝箱と転移石がポツンと並んでいた。早速、宝箱を開ける。
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【名称】箱庭の指輪
【等級】神話級
【所有者】神無月 柚留
【効果】
瀕死にした魔物、承諾した魔物、降伏した魔物、自分より遥かに低級の魔物を指輪の世界に入れることができる。
《説明》
神々の試練の第一階層をベースに25%減少させた広さ。ユグドラシルの果樹と神殿が撤去されている。
この指輪は譲渡可能。
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ついでにスキルも鑑定。
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【亜空間倉庫Ex】
【スキルの型】アクティブ
【レア度】ミシック
【スキル効果】
魔力量上限を犠牲にして物を収納することができる。
【Ex】
魔力量上限を不必要とし、無制限にアイテムを保管することが出来る。
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【鍛治Ex】
【スキルの型】パッシブ
【レア度】コモン
【スキル効果】
レベルが上がるにつれ、鍛治に対しての素質を向上、様々な補正。
【Ex】
鍛造時の身体的補正。的確な温度表示。設計図自動作成。自動鍛造モード。鍛治職人の目利き。
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【大工Ex】
【スキルの型】パッシブ
【レア度】コモン
【スキル効果】
レベルが上がるにつれ、大工に対しての素質を向上、様々な補正。
【Ex】
大工時の身体的補正。設計図自動作成。自動大工モード。大工職人の目利き。
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これらのスキルは後日検証するとして、転移石の方を調べてみよう。
転移石には、大きく101階層とそれだけが記されてあった。
階段などではなく、転移による階層移動。ということは、これまでとは何か訳が違うってことだな。
取り敢えず1階層に戻って入念に準備をしよう。行くのは明日からだ。
かくして、俺の迷宮攻略は大々的に幕を開けた。
そして、ここからがこの迷宮の本当の始まりだということを後に彼は知ることになる──




