90話 魔界から来た少女②
「面白くないって……」
呆れたような驚いたような表情の彼女。だって本当に面白くないんだもん。仕方ないじゃん。
「バイオレットさんはさぁ、なんでそんな私に構ってくるの?」
学園内では浮いた存在であり、腫れ物のように扱われている私。私にまともに構ってくれるのは彼女だけだ。
「……アナタには負けたくありませんし」
どうやら、彼女にかなりライバル視されているみたいだ。
「ふーん」
負けたくない、かぁ……
その後、ミラージュはどんどんと実力を伸ばしていった、元々の潜在的な才能がとんでも無かったのだろう。
対して私は講義はサボり、女の子を口説き回ったり……
あ、どうでもいいけど、その事で密かに私の人気が高まってたらしい。反骨心溢れるその気概に「ファルクラムさん……かっこいい!」という反応が多くなってきた。
この学園ってお嬢様みたいな娘多いからそういうタイプは新鮮なんだろう。
そのおかげで多少学園内で過ごしやすくなったけど……まあ相変わらずつまらないものには変わりなかった。
とにかくまあ、まともな学生生活を送っていたとはとても言えないレベルだった。
そうして一学期の終わり、私はとうとう桜組に降格。
正直、学園辞めようかなぁと思ってた。でもこのまま魔界に帰ってもパパにしばき回されそうなので退学ギリギリのラインで調整するようにはしていた。
夏休暇が終わり二学期が始まったある日の事。些細な事からミラージュと大喧嘩をした。
理由はもう覚えてない。なんだったけ? なんかメチャクチャくだらない理由だったような気がする。
その喧嘩は決闘にまで発展した。負ける気なんてしない……と思ってたんだけど、普通に負けた。
潜在的な魔力量なら普通の人間に負けるわけない、それに私は魔力量だけじゃなくて知識も豊富……なのに負けた。
ミラージュは何重にも張り巡らされた作戦で私を仕留めてきた。正直慢心してたのもあると思うけど……それでも私の負けには違いなかった。
「次は負けないから!」
自分の口から出てきた言葉に驚いた。
「望むところですわ!」
そうして、私にユリシーズに来て初めてのライバルができた。
〜〜〜〜〜〜〜
「へぇ……そんな事が」
私の話を面白そうに聞くベルちゃん。
「まあ、その後も色々あってね〜、ミラージュったらやたら私をライバル視して絡んでくるからさぁ、もう大変で……」
「ミラージュから話は聞いていましたけど、お二人は本当に仲がよろしいのですね!」
「あはは……」
ベルちゃんは隣にいるな言葉に苦笑いで反応する。
彼女はミステール、帝国の皇女様。お昼休みにベルちゃんの教室に行ってみると本当に彼女がいた。
「ねー! お昼ご飯食べに行かない?」
せっかくなので誘ってみた。そうして、ベルちゃん。テルミナちゃん、それと皇女様……あとなんかおまけの付き人みたいな娘と一緒に学園の食堂に来たというわけだ。
「ミラージュからお話は聞いております、アナタがミラージュの一番のお友達なのですね!」
開口一番に皇女様はそんな事を言った……どこ情報なのそれ?
「ミラージュが言ってました!」
「……そういうの堂々と言わない方がいいですよ」
テルミナちゃんがため息をつきながらツッコミを入れる。
「それにしても、まさか初日に学園の壁をぶち抜く娘が現れるとは思わなかったよ、もしかしたら私以上に問題児の素質があるかも……?」
「えへへ、褒めないでください」
いや、褒めてないから。
「そういえば、ミステールはミラ姉様とどういう関係なの? 昔からの知り合いとか言ってたけど……」
ベルちゃんが皇女様にそう尋ねる。確かにそれは私も気になっていた。
「はい、バイオレット家はエルトニア皇家と血筋的にほんの僅かですが繋がりがあるのです」
へえ、そうだったのか。ユリシーズ界のお家事情なんて興味ないから知らなかった。
「その関係もあり、昔から交流があったのです。彼女とは小さい頃からの……いわば幼馴染のような関係なのです」
幼馴染かぁ……
「ミラージュは昔から気が強くて……あまり私以外のお友達が居なかったのですが、学園に来てからはファルクラム様やみたいな同学年の友人やベルちゃんみたいな後輩にも恵まれたみたいで」
私は小さい頃のミラージュを想像してみた……想像したらなんか少し可愛らしく思えてきた。
小さいミラージュが強気なお嬢様口調で色々威張ってる姿、うーん見てみたい。
「はぁ、この話ミラージュがいないのが残念だなぁ。色々とからかってやりたかったのに」
残念残念、ミラージュも来ればよかったのに。
「チカ姉、またそんな事……よしなよそういうの」
と、ベルちゃん。
「なになに? ベルちゃん嫉妬? ベルちゃんもからかって欲しいの?」
「ち、ちがうから!」
全く、ミラージュ以上に可愛い娘だなぁベルちゃん。こういうウブなところが大好きだ。
「うふふ、ファルクラム様は聞いていた通りの方ですね」
そんなこんなで賑やかな昼食の時間は過ぎて行った。
うーん、それにしてもミラージュに一番の親友だなんて思われていたなんて。
……ちょっとだけ嬉しいかも。




