86話 元学園長
夏休暇が終わり一週間ほど。桜組に新たなクラスメイト二人が加わって、学園は慌ただしい雰囲気だったけどここ二、三日程でそれもようやく落ち着いてきた。
そうして、今日は休日。今日は特別なお客様が海猫にいらっしゃるとの事。なにやらホーネットさんの知り合いらしいんだけど……
私たち仲居三人は。海猫の玄関ホール、受付の椅子に座りながらその事について会話をしていた。
「ホーネットさん、なんだかすごくソワソワしてない?」
「ですね、一体どんな方がいらっしゃるんでしょうか?」
うーん、あんなに落ち着きのないホーネットさんは中々見ないぞ。
「知り合いって言ってたな、どんな人なんだろ?」
グリペンが興味を隠せない様子でそう言った。
「うーん、やっぱり魔女の知り合い?」
「ですかね〜、ホーネットさんって魔女界じゃかなり有名な人ですし。その筋の知り合いは多そうです」
テルミナの言う通りだ。彼女は名の知れた魔女。その他の知り合いは多いだろう。うーん、一体どんなお客様がいらっしゃるのだろうか。
「学園時代の同級生とか?」
同級生か……それもあるかも。
そんなこんなで、私たちはソワソワした気持ちで仕事をしながらお客様が来るのを待つ。
そうして大体おやつの時間ごろ……
「い、いらっしゃいませ、ようこそ海猫に」
私と、ホーネットさんはお客様をお出迎えする。いらっしゃったのは……小さいな女の子二人。一人は私と同年代くらいでもう一人は明らかに十歳も行ってないようなロリっ娘だった。
この二人がホーネットさんの?
「お久しぶりです先生」
ホーネットさんは……多分ロリっ娘の方に向かってそう言った。というかせんせい? この人が?
「あぁ、久しぶりだねホーネット。元気そうで何より」
せんせいと呼ばれた小さな女の子は無邪気な笑みを浮かべながらそう言った。
彼女は「いかにも魔女でございます」みたいな雰囲気が漂う大きな帽子を被っていた。
「んー、その猫耳の娘がお前が話してた例の?」
彼女は私を見てそう言った。
「ええ、そうです……えっと、ところでそちらの女の子は?」
ホーネットさんは首を傾げてもう一人の女の子の方を見た。ホーネットさん、こっちの娘は知らないようだ。
「あぁ、私の連れだ。事情は後で話す」
その会話の間。女の子は全く無反応というか、興味がなさそうな様子で私たちをのことを見ていた。
ふと、彼女と視線が合う。彼女の瞳はガラス玉の様に綺麗だった。とりあえず私は営業スマイルをしておいた。
「……」
全く無反応。ホント、なんだか不思議な娘だなぁ……
そうして、私は二人に海猫をご案内して、最後に客室に通す。
「ふーむ、大和風な宿に来るのは初めてだが、悪くはないな」
けっこう満足いただけた様子だった。だけどもう一人の女の子は相変わらず無反応というか……
「なにかありましたらお呼びください、私はこれで失礼します」
私は襖を閉め、客室から去った。
〜〜〜〜〜〜〜
「あの人、私が学園にいた頃の学園長だったの」
ホーネットさんが懐かしそうにそう言った。
「え、そうだったんですか? あの人が……」
あの後、ホーネットさんは先生と呼ばれた人物の事について詳しく話してくれた。
「学園長って、あの人じゃないんですか?」
テルミナがそう尋ねる。あの人というのは多分私達が知っている学園長の事だろう。行事とかでたまに見かけるお婆ちゃんの事だ。
「ああ、今の学園長は三代目ね、先生は二代目よ」
ホーネットさんがそう付け足す様に説明した。
そうなのか……って、何かおかしくない? 学園って百年以上の歴史あるんだよね? 現学園長が三代目って……
「……彼女、何歳なんですか?」
あの人は一体、何年の時を生きてるんだ? まあ明らかに見た目と年齢はかけ離れているというのはわかったけど。
「さぁ? 私もよくわからないわ……」
謎は深まるばかりだ。まあ、あんまり真剣に考えないほうがいいかな。考えれば考えるほどややこしくなりそうだし。
それに……私的には、元学園長よりもう一人の女の子の方が気になる。彼女はなんというか……すごく落ち着いた雰囲気、ミステリアスな美少女って感じだった。
あの娘の蒼いガラス玉の様な瞳が忘れられない。
気になるけど、あまりお客様の事を詮索するのも良くはないだろう。もう大人しく仕事に戻ろう……
〜〜〜〜〜〜〜
夕方、太陽が傾き始め。徐々に空が暗くなって来る。日が落ちる時間が早くなってきた、夏が終わり秋の訪れというものを感じさせる。
外から、まだ相手を見つけられていないであろう蝉の鳴き声が寂しく聞こえる。
私とグリペンは夕食の用意をする。二人は早めの夕食を希望だった。
「それにしても、ホーネットの学園時代の先生かぁ」
グリペンが簡易冷蔵庫をガサゴソと漁りながらそう呟いた。
「ねえ、ホーネットって何歳なの?」
唐突にそんな事を私に聞いてくるグリペン。
「……それ、本人に直接聞いてみれば?」
「……やっぱやめとく」
そうして、私とグリペンは夕食の準備を進める。




