84話 おてんばお姫様
「というわけで、みんな仲良くしてやってくれ。それともう一人……入ってきていいぞ」
よく見たら教室のドアは開けっぱなしのままだった。もう一人という事は新入生は二人という事なのだろうか……
みんなの視線は教室の入り口に集まる。入ってきたのは桜色の制服を纏った背が高く、腰に立派な装飾が施された剣を下げている凛々しい雰囲気の女の子であった。
「トーネードだ、ミステール様の護衛役だが……一応学園の生徒だ、よろしく頼む」
護衛役、そりゃそうだよね。皇女様なんだしそういう人がついているはずだ。
「ねえねえ……トーネードさんめちゃくちゃかっこよくない……!」「わかるめっちゃ美形!!」「ミステール様、ああ! なんとお美しいこと……! 国の宝ですわ!」「はわっ、可憐すぎて鼻血がぁ……!」
ザワザワと騒がしくなる教室内。
「はいはい静かに。あ〜、二人の席はあそこな」
と、ラプター先生はこちらの方を指さした、私とテルミナは教室の後ろの方に座っている。
後ろから二列目、そこが私たちのいつもの場所でもあるんだけど。私たちの後ろは人数的にもいつも空席になっている。
なんだかお決まりだなぁ……こういうのって。
そうして、二人はこちらにやってくる。
「ふふっ、こんにちは、また会えましたねベルさん、テルミナさんも」
笑顔でそう挨拶をしてくる彼女。
「は、はい。こんにちは」
ミステール様、トーネードさんは私たちの後ろの席に座る。はぁ……なんだか落ち着かないなぁ……
〜〜〜〜〜〜〜
「えっと……ミステール様はどうして桜組に? 菫組って聞いてたんですけど……」
テルミナがミステール様に尋ねる、今はお昼休みの時間。ミステール様に「学園の食堂に案内してほしい」と言われたのでいつものカフェテリアに。
そうして、なんやかんなあって私達も昼食にご一緒することになった。
「テルミナさん、そんな他人行儀な呼び方は辞めてほしいです、私たちあの危機を乗り越えた仲じゃないですか! 呼び捨てでかまいませんよ?」
あの危機……白百合使いに襲撃された時の事だろうか。
「ベルさ……ベルちゃんも! わかりましたか?」
「え? あぁ……はい」
私はチラリと周りを見渡す。正直、周りにいる人たちかなり注目されている。まぁ、そりゃそうだよね、帝国のお姫様がこうして獣人と仲良く話してるなんて、注目の的だ。
でも呼び捨てか……流石にそれはなぁ。でも本人がそうして欲しいって言ってるし。“ミステール”と呼んだ方がいいのだろうか。
「えーっと、何の話でしたっけ……あぁ、何故私が桜組に入ったかでしたね」
そうして彼女は思い出したように理由を語り始めた。
「二学期からの入学するにあたり、編入試験を受けたんです。結果私は菫組に入ることになったのですが……」
その言葉を聞いて何故か側にいるトーネードさんは大きな溜息をついた。これは何か溜息をつきたくなるような事情があるという事だろうか。
「その……私はどうしても桜組に入りたかったのです」
そうして、こちらの方をチラチラと見るミステール。なんだろう、なんだか少しだけ彼女の顔が赤い様な……
「でもどうやって? 菫組に決まったんでしたよね?」
テルミナがそう尋ねる。
「ええ、原則この学園においてクラス間の移籍が発生するのは学期の終わり、成績による移籍だけ……と、学園長からは教えられました」
原則という言葉を強調する様にそう言った彼女。つまりミステールは原則から外れる様な手を使ったというわけだろう。
「このバカは、学園長のその言葉を聞いた途端に学園長室の壁を魔法で派手に破壊しやがったのさ。そのおかげて問題行動を起こしたとして私まで巻き込まれてクラス降格処分というわけ」
……え、えぇ。
トーネードさんの言葉に私は唖然としてしまう。
「もちろん誰も巻き込まない様に細心の注意を払って“破壊”させていただきました」
笑顔でとんでもない事を言うなこの娘。
「なんでそこまでして桜組に?」
と、私は一番に思った事を聞いてみる。
「ふふっ、どうしてでしょうね〜」
……あぁ、これは教えてもらえなさそう。凄く気になるところなんだけど。
しかし、あの学園祭の時といい。行動力というかなんというか……可憐で優美な雰囲気とはまるで正反対のおてんばま性格なんだなぁ彼女って。
「こうしてはれて学園に入学できて、その上ベルちゃんやテルミナちゃんと同じクラス……これほど嬉しい事はありません」
心底嬉しそうな様子の彼女。私は側にいるトーネードさんに視線を向ける。この人も中々苦労が絶え無さそうだ。
「これから二年と半年、卒業までよろしくお願いします」
〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ、まさかミステールが学園に入ってくるなんてなぁ」
帰り道、私とテルミナの話題はもちろん彼女の事についてだ。
「ですね、私も驚きました」
ちなみに彼女は桜組の寮に入る事になったらしい。お姫様にあのオンボロな桜組の寮はどうなのかなぁと思ったけど彼女は全く気にしていない様子であった。
「それにしても、なんでまたあんな無茶な事してまで桜組に……」
「……さぁ? 気になる人がいるんじゃないですか?」
そっけない様子でそう答えるテルミナ。
「はぁ……またライバルが増えました……」
ライバル? 何の話だろう。
なにがともあれ、お姫様の新入生なんて。また色々と騒がしくなりそうだ。




