83話 終わる夏休暇
「えっと、提出する課題は全部入ってる……あ、魔法哲学のレポートが入ってない!」
あぶないあぶない、忘れるところだった……
私はガサゴソと離れの部屋、その自分のスペースにある小さな机の引き出しを漁る。
「あった」
お目当ての紙束を取り出して、側に置いてある通学用のバッグに放り込む。
「はぁ……明日から学校かぁ」
チラリと壁にかけられている可愛らしい学園の制服を見ながらそう呟く。
別に学園が嫌いなわけじゃないけど……やっぱりこういう長い休み明けってなんとなく憂鬱になるよね。
思えば色々な事があった夏休暇だったなぁ。なんか小さくなったり旅行先で魔物と戦うハメになったり。
あ、そうだ。魔物といえば……あれからドロップしたエメラルドの魔法石。あれの扱いについてここ数日ものすごく悩んだ。なにせ本物なら2,000万スピカ以上の価値がある物だ。私はとりあえずホーネットさんに事情を話して鑑定してもらった。
ホーネットさんはああ見えても名の知れたかなり凄い魔女だ、この人の鑑定は信用できる。鑑定の結果、魔法石は本物、天然物である事がわかった。
ホーネットさん曰く、この魔法石はあの魔物の体内でおそらく数百年の時をかけて生成されたもの……と、教えてもらった。あの魔物、そんなに長生きだったのか……あんなに大きかったのも頷ける。
私が受けた風の試練とやらについても心当たりがある様子で、きっちり調べて後日教えてくれるとの事だった。
ちなみにこの魔法石はとりあえずホーネットさんに預ける事にした、ホーネットさんなら安心だ。ラプターさんに預けたら勝手に売却されそうだし……
「あぁ……課題が……課題が襲ってきますぅ……」
テルミナの寝言が聞こえた。彼女はようやく先程課題を終わらせたそうだ。というより夢の中でも課題に襲われているとは、少しかわいそうだなぁ……
「あ〜、明日からまた日中は私一人かぁ」
と、縁側で寝転んで庭園を眺めていたグリペンがそう言った。
月夜と海猫本館からの灯りに照らされた庭園からは、聞いてて眠くなる様な心地よい虫の鳴き声が聞こえる。なんだか夏の終わり、秋を感じさせる様な鳴き声だ。
「まあ、シルフもいるし。どうせそんな忙しくもないから大丈夫でしょ」
私はグリペンの言葉にそう返した。
「そうだけどさぁ……」
微妙な反応をする彼女。まあ気持ちもわからなくもない。夏休暇中はずっと私とテルミナがいたし、きっと寂しいのだろう。
「よし、明日の準備終わり。じゃあ私お風呂入って来るから」
「ん〜……」
そうして私は離れを出て浴場に向かう、今は従業員が入れる時間帯だ。脱衣所で服を脱ぎ浴場の中へ。
「……シルフ、入ってたんだ」
外の露天風呂にはシルフが、いないと思ったら先を越されていた。
「うん! やっぱりここのお風呂は最高だね……!」
どうやら彼女もここの温泉の虜になったようだ。私は
〜〜〜〜〜〜〜
そうして翌日、久しぶりの学園へ。
「……なんかみんなソワソワしてない?」
「ですね、何かあったのでしょうか?」
なんだか学園全体が落ち着かない雰囲気な気がする。私とテルミナは取り敢えず桜組の教室に向かう。
ドアを開け、久しぶりの教室に入る。教室内には見慣れたクラスメイトたちが。
一学期を通して成績優秀者は上位クラスに上がれるという制度があるんだけど、どうやらそれに該当するものは私とテルミナを含めいなかったという事だ。
ユージアでの対抗戦で上位クラスの二人に勝ったし少しだけ期待してたんだけど……単位認定試験がほぼギリギリ赤点ラインの上、みたいな点数ばっかだったし。やっぱり厳しかった……
まあ、あの対抗戦も一人はほぼ騙し打ちで、もう一人は挑発して剣術での勝負に持ち込んでの勝利だったし。そこら辺も評価の対象だったのかも知れない。
ホント、上のクラスに上がるのって相当難しいなぁ……
それにしても、なんだか教室の中もザワザワとした落ち着かない雰囲気であった。
「あ! ベルちゃんとテルミナちゃん! ねえ聞いた!?」
と、クラスメイトが駆け寄ってきた。
「え? 何のこと?」
いきなりどうしたのであろうか。
「それがね……! 菫組に二学期からの新入生が入ってくるらしいんだけど……」
二学期からの新入生? 珍しい。
「その方がどうかしたんですか?」
テルミナがそう聞くと、彼女はよくぞ聞いてくれました! みたいな顔で早口で語り出す。
「なんとその人、第四皇女のミステール様らしいの!」
「え、それ本当なの?」
だからこんなに校内がソワソワとした雰囲気だったのか……ミステール様、学園祭での事を思い出す、あの時は大変だったなぁ。しかしなんでまたこんな時期に? 入学するのは来年とか言っていた様な気がするのに。
そんな会話をしているうちに鐘が鳴る、私たちは席に座った。そうして数分後、教室にラプターさん……もといラプター先生が入ってくる。
「みんな久しぶり。うんうん……全員揃ってるな」
教室を見渡す、ラプター先生。
「あ、いいぞ入ってこい」
彼女はドアの方を見る。ドアが開かれ一人の少女が入って来る。教室内が途端にザワザワとした喧騒に包まれる。それもそのはず、だって教室に入ってきたのは……
「今日からお前らの仲間になる新入生だ、ほら自己紹介」
「はい先生、私はミステール・ド・エルトニア、皆さんよろしくお願いします」
そうして桜色の制服を着た彼女はこちらの方を見て微笑んだ。
……いやいや、なんで彼女がウチのクラスに!?




