81話 家に帰るまでが旅行
その後、私は血で汚れた身体を洗い流すためにシャワーを浴びる、本当はコテージに入ってすぐ洗い流したかったんだけど……みんながあまりにも心配するからさっさと説明を先に済ませたのだ。
もちろんコテージ内が血で汚れない様に注意を払った、私は二箇所の傷口を確認。あんなに派手にパックリと切れていた切り傷はもう殆ど残っていない。
改めて考えると、私の治癒魔法の力って結構とんでもない様な気がする……この力のおかげで今まで結構なピンチも乗り切れてきた。とりあえず感謝しとかなきゃ……
そうして、シャワーを浴びた後。私たちは町に出かけた、あの魔物から入手した蔓を売りにいくためだ。
市場の適当なお店にそれを売却。お店の人は「こんな上等で頑丈そうな植物の蔓は初めてだ!」と驚いていた。
蔓は結構な値段になった。まあ、あのエメラルドと比べたら月とスッポンだけど。
「……これ、もしかしてシルフがモチーフなの?」
市場の店で見つけた人形、スタイルの羽のついた良い大人な女性、私はシルフをチラリと見る。
「全然違うじゃん」
シルフは可愛らしい子供のような姿だ。
「そう〜? 結構似てると思うよ!」
いや無理があるでしょ……
ちなみにシルフの姿は、今は私以外には見えないようになっている。町の人にその姿を見られたら騒ぎになるんじゃないかということで、ミラ姉様が目立たなくなる魔法をかけた。
でも単に気配を弱めてるだけだから、目立つような事をすると……
「あっ」
シルフが不注意で他のお客さんにぶつかってしまう。
「あれ? 今何か……」
不思議そうにキョロキョロする彼女、シルフは急いで私の後ろに隠れた。
「ちょっと……気を付けてって言ったでしょ……!」
「ご、ごめーん……」
こうやって気を抜くと気が付かれそうになるので注意しなきゃいけない。
「お姉様〜!」
と、そこにテルミナがやってきた。
「これ見てください!!!」
彼女が差し出してきたのは……さっき戦った食虫植物の魔物を模したと思われる木彫りの人形……
「そこのお店で売ってました! すごく個性的じゃないですか!?」
「う、うん……そうだね」
このシリーズ流行っているのだろうか……?
そうして、私とシルフ、テルミナ、ライカ、グリペンは市場で買い物を楽しんだ。ミラ姉様は何やら調べたいことがあるとかでどこかに行ってしまった。何を調べるつもりなのだろうか?
コテージに戻る頃にはもう陽が沈みかけていた。水平線上に茜色に輝く夕日とキラキラと柔らかな夕日を反射する大海原をコテージから眺める、綺麗な景色だ。
「んっ〜……なんだかんだ言ってあっという間だったなぁ……」
なんだか、長い様で短い五日間だった。
「ですね〜」
私の隣に立つテルミナ、彼女の可愛らしいうさ耳がゆらゆらと海風に揺れている。
「ミラ姉様、何調べてたの?」
私は振り向き部屋の中で本を読んでいるミラ姉様にそう聞いてみた。
「この島のことについて色々と」
なんだろう、何か気になることがあっただろうか」
「それにしても、今回この島にきて1番驚いたのはやっぱり……」
と、テルミナはベッドの上ですやすやと寝ている小さな女の子を見る。
「うん、私もびっくり」
妖精……その姿を見たのはもちろん初めてだった。
「おーい、飯食いに行こうぜ!」
そこに、グリペンとライカがやってくる。
「まだ早くない?」
「もういいでしょ! お腹すいた!」
幼い子供みたいに駄々をこねるグリペン。
「仕方ないなぁ……」
そうして私たちは再び町に出た。この島で最後の夕食は最初の日に行った食堂で食べる事にした。ここの料理すごく美味しかったんだよね。
席に座り、シルフを含め全員分の料理を注文する。
「はぁ……それにしても、あと少しで夏休暇終わってしまうんですね……」
唐突にテルミナがそんな事を言い出した。彼女のうさ耳はしょんぼりとした様に垂れている。
「だね、長いようで短かったなぁ……」
まるでこの旅行のようだ。
「そういえば、三人はちゃんと夏休暇の課題を終わらせていますの?」
とミラ姉様が聞いてくる。
「私はもう終わりましたよ」
ライカがそう答える。
「私は……殆ど終わったよ」
島に来る前にあらかた終わらせておいた、量が多くて大変だったんだよね……
「……っえ!? わ、私も終わってますよ!」
慌てた様子のテルミナ、これは……
「テルミナが課題やってるところ見た事ないんだけど」
「あー、私も見た事ない」
私の言葉に同意するグリペン。
「そ、そんな事ないですよ! 隠れて夜中にやってたんです!」
何故隠れる必要があるのだろうか……? はぁ……この娘、確実に手をつけてないな……
「あ! ほら! 料理が来ましたよ、美味しそうですね!」
そうしてそこに運ばれてくるチキンソテー、食欲をそそる香ばしい匂いが漂う。
「はぁ……」
ため息をつくミラ姉様、気持ちはわかる……多分帰ったら「手伝ってください……!」とか泣きつかれるんだろうなぁ。
そうして、料理を食べようとしたその時。食堂にラプターさんが入ってきた。
「お、お前らここで食べてたのか」
こちらに近寄ってくる彼女。
「ん……? シルフ、なんでこいつらと一緒にいるんだ?」
と、ラプターさんはシルフの方を見てそう言った、その言葉に私たちは驚く、なんで気がついたの……? というより……
「シルフの事知ってるんですか?」
私はラプターさんにそう聞いてみる。
「ん、まあね」
当たり前のように返す彼女。なんと、衝撃の事実……!
「ホントなのシルフ?」
グリペンがむしゃむしゃと大きなチキンソテーを食べているシルフに尋ねる。
「うん、そうだよ〜。昔からの友達」
聞けば、ラプターさんが昔ここに住んでいた頃からの知り合いだそう。
ラプターさんの意外すぎる友達が発覚した瞬間であった。
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「あぁ……島が離れていきます……」
船から名残惜しそうに島を見つめるテルミナ。
今日は最終日。コテージの掃除を終え、お世話になった別荘の使用人の方にお礼を言った後、私達は港に行き船に乗り帰路に着く。
「……それにしても、本当についてくるの?」
私は隣にいるシルフにそう尋ねる。
「うん! ベルちゃん達について行った方が楽しそうだし!」
「……ん、わかったよ。これからよろしくね」
やれやれ……また海猫が賑やかになりそう……
そうして、私達はどんどん離れていく島をのんびりと眺め続けた。




