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8話 調理開始

「さて、これで準備万端ね!」


 そう叫ぶホーネットさんはどこかウキウキした様子であった。


 目の前には、先程調達した味噌や醤油を始め、なんだかよくわからない大きな魚や、昆布みたいな海藻、卵、色々な野菜、そしてお米が鎮座していた。


「この街って、なんでも揃ってますね」


「大陸で二番目の街だからねぇ」


 

 私とホーネットさんは今、掃除と補修で蘇った"海猫"の調理場にいた、これから旅館で出す料理の試作や検討を行う為である。


 調理場も最初はひどい有様だった、汚れに汚れて荒れ果てていた。だが私とホーネットさんの努力により回復。


 私は周りを見渡す、調理場の作りは如何にも昔の日本家屋にありそうな感じというか、竈があって、流台があって、七輪があって……というか本物の竈って初めて見た。


 それら調理道具は勿論徹底的に綺麗にした、だって口に入れるモノに関わるし。ホーネットさんの修復魔法も大いに役に立った。



「あの……その前に質問いいですか?」


 と、私はずっと気になっていた事を聞こうとする。


「料理って私達が作るんですか?その、板前さん……ちゃんとした料理人さんを雇わないんですか?」


 そう、私達が料理人を兼ねるなんて効率が悪い様な気がする。


「んー……まあ、それも考えたんだけどね……」


 ホーネットさんは頬に手を当てて考え込む様な仕草を見せる。


「中々料理人のツテが無くて……というか、何故だか私達が声をかけても求人を出しても人が集まらないのよねぇ……嫌われてるのかしら」


 と困った様な表情でそんなことを言う彼女。……多分それは嫌われてるんじゃなくて恐れられてるだけなのでは?、と私は思った。


「仲居さんも集めてはいるんだけど、こっちもなかなかねぇ」


 衝撃の事実、もしかしてこれからここを私とホーネットさんで切り盛りしなければいけないのか?そんな事可能なのだろうか……


「やっぱり嫌われてるのかしら……」


「…………」


 この街に来て一週間ちょっとしか経ってないが、ラプターさんとホーネットさんの立ち位置はなんとなく分かってきた。この2人は何というか……凄く名の通っている、いや凄く恐れられている感じがする。


「というわけで、しばらくは私とベルちゃんで頑張りましょう!」


 私の方に手を当てニコニコとそう言うホーネットさん。やっぱり私達がするのか……板前さんと仲居を兼ねなきゃいけないのか……今更だけど旅館で接客などを担当する人って仲居さんと呼ぶらしい、さっきホーネットさんがそう教えてくれた。


 元日本人なのに知らなかった、私って常識ない……


「それじゃ、早速……始めましょう! ……といっても、私、大和料理って知らないのよね」


「え?」


 衝撃の事実、知らないのに試作しようとしていたの?


「大陸じゃ全く知られてないし……」


 ホーネットさんは困った様に首を傾げる。


「えっと……じゃあどうすれば?」


 私はホーネットさんの方を見て問いかける。まさか知らないとは思わなかった。


「ラプターから話だけは聞いてるんだけど……」


 そうだった、ラプターさんは"大和"に行った事があるんだっけ。


「ラプターさんは? あの人さっきまで居たのに」


 買い出しから帰還して、私に"桜"を渡して……それから何処に行ったのだろう、見かけないけど。


「ラプターなら、用事があるとかで出かけたわよ、明日そのまま帝都に出発するから暫く戻ってこないって」


 え?帝都って、あの人ここ放り出して何してるんんだ……


「あの……あの人、ここ手伝うつもりないんですか?」


 私は苦笑いしながらホーネットさんに聞いてみた。ラプターさん、"海猫"に関して何も手伝ってくれる様子がない。


「ラプターは自由というか……」


 と、ホーネットさん。いや自由というより……無責任なだけでは?と思ったけどあの人には返しきれない恩(借金)があるから何も言えなかった。


 まあいいか……いない人のこと考えても仕方ない、今は料理に集中しよう。


 取り敢えず私は頭の中で和食をイメージする。お椀いっぱいのご飯、あと味噌汁、お刺身とか焼き魚、お漬物……こんなところかな。私は目の前の食材を見てみる、必要なものは一通りありそうだ。


 まずは簡単そうな味噌汁から、私は前世での家庭科の授業を思い出す。なんか昆布っぽい海藻が売っていたから、取り敢えずこれで出汁をとろう。


「本当にそれ使うの……?」


 と、不安げなホーネットさん。実はこの昆布もどき、大陸では食材として認識されていないらしい。というのも、これは大陸だと何故かポーションの材料の一つとして知られている。あ、でも昆布って、漢方薬に使われるとか聞いた事あるような……それを考えるとおかしくないのかな?


 そうそう、前も説明したけど、この世界において治癒魔法は極一部の人たちしか使えない、その為怪我などの治療はこう言ったポーションなどが非常に重要視されている、だからこの昆布もどきも市場では売ってなく薬屋で仕入れた物だ。


「大丈夫だと思いますけど、あの……ホーネットさん、出汁ってわかります?」


 私は軽い説明をする。


「お肉と香草なんかで同じことをするけど……これでそれが出来るのねぇ……」


 なんだか指導係みたいになってるけど……正直私もそこまで料理通じゃないというか、前世やこの世界の一般レベルの知識しかない。


 でも見様見真似でやってみるしかないか……



 こうして私達は目の前の食材たちとの“格闘戦(ドッグファイト)”を始めたのであった。

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