77話 風の精霊
「……」
コテージに戻った私はベッドに寝っ転がりながら先程の不思議な出会いについて考え込んでいた。
妖精……存在は聞いたことあるけど。本物を見るのは勿論初めでであった。彼女は自分を風の精霊と言っていた。
精霊にも魔法と同じ四大元素の属性を持っている。確か学園の講義でそんな事を聞いたことがあるような……
「シルフィードか……」
「お姉様? どうかしましたか?」
おっと、口に出てしまっていたようだ。
「いや、なんでもないよ」
私はそう誤魔化す。
「そういえば、さっきどこに行ってたんですか?」
テルミナはこっちにきて、私のベッドに座る。
「ん? いやちょっと散歩、妖精さんに会ってきた」
テルミナは頭の上に「?」を浮かべた様な表情をする、そりゃそうだろう。私だってまだ「?」状態だ。
「……それより明日は何しようか、ていうかなんだかんだ言ってもう明日が最終日かぁ……」
話題を変える、明日は四日目。最終日は午前中には島を出るので、実質明日がゆっくり出来る最後の日みたいなものだ。
「そうですね……あ、そうだ、島の人に聞いたんですけど……」
そうして、テルミナは思い出した様に語り出す。
「この島には、風の精霊がいるらしくて」
……うん、知ってる。さっき会ったし。
「なんでも風の精霊のいる場所は凄く幻想的で綺麗な場所なんだとか」
それも知ってる、さっき行ってきたし……
「どんな場所なんでしょうかね〜、見てみたいです」
連れて行っちゃダメかな……うんダメだね多分。ああいうとこって、なんとなく無闇矢鱈に人を連れて行かない方がいいような気がする。
「そうだね」
取り敢えず、短くそう返答しておいた。
「……結構暇ですね」
テルミナはパタリとベットに仰向けに寝転ぶ。
「あ、あの……お姉様に聞きたいことが」
なんだか恥ずかしそうな口調のテルミナ。
「お姉様って……好きな女の人とか……」
「え? なんで?」
いきなりどうしたのだろうか……あ、分かった。これ修学旅行とかでお馴染みの夜の女子トークというやつかな?
「えっと……やっぱりいいです! 忘れてください!!」
なんだよう。テルミナの好きな人とか聞きたかったのに。
そうしてその後、コテージでまったり、ダラダラしながら気がつけば眠ってしまった。そうして翌日……
〜〜〜〜〜〜〜
「もう明日には帰らなきゃいけないんですね……」
四日目の朝。朝食を取りながら今日は何をしようか話し合っていた。この朝食は、私とグリペンで手早く用意した、サンドイッチにスープ、シンプルなものだ。
結局、各自自由行動という事で話は纏まった。私とテルミナ、グリペンはもう一度海で遊ぶ事に。ミラ姉様とライカはそれぞれコテージでのんびりしているとの事。
「ふぅ……はしゃぎすぎた……」
私はパラソルの下に入り、シートの上に寝っ転がる。海の方を見るとテルミナとグリペンが元気に遊んでいた。体力あるなぁ、あの二人。
そろそろお昼時、お腹が空いてきたな……目を瞑りながらそんな事を思っているとふと、お腹の辺りに何かが乗っかる感覚がした。
「ベルちゃんベルちゃん!」
目を開ける、そこにはシルフがいた。
「ん……どうしたの?」
そう聞くと、彼女は私のお腹に寝っ転がった。水着越しだけどちょっとくすぐったい。
「外に出たらベルちゃんが見えたから、何してるのかな〜って」
そうして彼女は、私のお腹の上ですやすや眠り始めた。なんだか私も……眠くなってきた……
〜〜〜〜〜〜
「……はっ! あれ? なんで私こんな所に……」
目が覚める、辺りを見回した私は困惑した。周りに広がっていた光景は……そう、あのハイビスカスの咲き乱れる綺麗な入江、その砂浜に立っていた。
「何がどうなって……ん?」
ふと足元を見る、これは……桜と菫。どうしてここに……? コテージに置いてあったはずじゃ……
「んぁ……ふぁぁ〜……」
大きなあくびが聞こえる、シルフだ。彼女は目を擦りながら、ふわふわと私のすぐ近くを飛んでいた。
「あれ……! いつの間に?」
彼女も驚いた様子。そうしてシルフは私の隣にくる。
「ベルが連れてきたの?」
「いや……私も気がついたらここに」
なんだろう……これって、夢なのかな? それにしては意識がはっきりして感覚もリアルだ。
「えい!」
痛い……! シルフに頬をつねられた。
「な、なにするの!」
「いや……これって夢? みたいな表情してたから」
ご親切にどうも、目は覚めないし。夢じゃないのだろう。
「とにかく戻ろう」
そうして私は洞窟の方に歩いていく……しかし……
「な、なんで……?」
洞窟は岩によって塞がれていた。おかしい。昨日はこんな大きな岩は無かったはず……
私とシルフは引き返す。ここは背の高い崖に囲まれている。とても登れる高さではない。閉じ込められた……
「ん〜私は空飛んでいけるけど。ベルちゃんは閉じ込められちゃったね」
「だね」
どうしたものか。
「私が外に出て助けを……」
と、シルフが言いかけたその時であった、辺りに強い風が吹く。危うく飛ばされそうになるくらいの突風だった。
「なんだろう、嫌な風」
突風をものともせず、平然とした様子のシルフは訝しげにそうつぶやいた……
「……うん、私もなんだかんだ嫌な空気を感じるよ」
ピリッと肌を撫でる様な感覚。これは、何かが来る……




