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76話 妖精の舞う島

「ふにゃっ……! あれ? 今何時だ!?」


 私は寝ぼけ眼を擦りながら起き上がる、外を眺めると綺麗な夕陽が海に沈みかけていた。


「はぁ……一日寝てたのか」


 翻訳作業を終えた後、流石に徹夜はキツかったようで私は直ぐに寝てしまったようだ。


 私の隣ではミラ姉様もすやすやと寝息を立てて寝ていた。テルミナが居ないようだが何処に行ったのだろうか?


「やっと起きたの?」


 部屋にはグリペンもいた。


「……どこ行ってたの?」


 翻訳作業サボってこの娘は一体なにをしていたんだろうか。


「いや、私魔法系の知識ないし。いても戦力外だろ? だから暇つぶしに海潜ってたんだよ」


「はぁ、サボってそんな事してたの……そういえばテルミナとライカは?」


 私がそう聞くとグリペンは「さっき二人とも出たったよ」と返してくる。


「ふーん……二人ともどこ行ったんだろう?」


「さぁ?」


 暫く部屋でのんびりしていると、テルミナとライカが部屋に戻ってきた。


「ただいまです!」「も、戻りました……」


 二人は両手いっぱいに色々な食べ物を抱えていた。


「どこに行ってたの?」


「はい、町の市場に行って美味しそうな物をたくさん買ってきました! 夜ご飯です、皆さんで食べましょう!」


 なるほど、そういう事か。気がきくなぁ……確かに朝食も昼食も食べずにずっと寝ていた。だからもうお腹はぺこぺこだ。



 そうして、私たちは夕食を済ませる。その日はそのまま部屋でゆっくりしてきた。


「ん……一日寝てたし、寝れる気がしない」


 食事を終えシャワーを浴びた後。ベッドに寝っ転がる。けど流石に眠る気にはなれなかった。


「ちょっと外に散歩でもしに行こうかな」


 テルミナはシャワーを浴びている、ミラ姉様は真剣に何かの本を読んでいる。


 時折「はぁ……この新刊たまりませんわ……♡」なんて言ってるのが気になるけど……


 そしてライカは隣のコテージに。なんとなくみんな別々のことをしている様子なので、私も一人で外に出てみることにした。



 コテージから出る外は暗いが綺麗な月光に照らされて完全に真っ暗と言うレベルでもない。


 私は砂浜を歩く。夜の海はまた昼間とは違った表情を見せる。


 暗めの色に変化した海面、しかしながら不思議と怖さは感じない、キラキラと月明かりに照らされているおかげだろう。


 海を眺めながら暫く歩くと、ふと何かの気配を感じた。


「……?」


 私は警戒して桜に手を添える。しかし気配は……悪意のある雰囲気ではないような気がした。


「なんだろう……この感じ」


 何かに……呼ばれているような。


 私は気配のする方に向かう、暫く砂浜を進むと洞窟のようなものが見える、私はその中に入り先に進む。


「わぁ……」


 洞窟は短く、すぐに外に出れた。


 外に出た私を待っていたのは背の高い崖のようなものに囲まれた隠れた入江のような場所であった。


 上からは月明かりが差し込んでくる。


 入江の半分、奥の方は砂浜ではなく土になっていて、そこには数え切れないほどのハイビスカスが咲き、風に揺らいでいた。


「なにここ、きれい……」


 なんというか、凄く幻想的な風景であった。


「……あなただぁれ?」


「!?」


 誰か、女の子の声がした。驚いて辺りを見回す。


「誰もいない……?」


 おかしい、確かに声が聞こえたような気がしたんだけど……


「こっちだよ〜」


 や、やっぱり。聞き間違いじゃなかった……声は上の方からする。


 私は声のする方を見上げる。するとそこには……


「やっほ〜こんばんは〜」


 透明な羽でひらひらと空を舞う小さな女の子。がこちらを見下ろしていた。


「……もしかして」


 私の頭の中にある言葉が浮かぶ。それは……


「よ、妖精?」


 彼女の姿を見て、真っ先に思い浮かんだのがその言葉だ。だって……そうとしか思えないんだもん。


「ねーねー、あなたどうしてここに来れたの?」


 彼女はこちらの方に、ふわふわと飛んでくる。深々としたエメラルドグリーンの瞳が私を見つめる。


「どうしてって……何か気配がしたから、洞窟潜ってここに来たんだけど」


 すると妖精さんは私が出てきた洞窟の方に視線を向ける。


「おかしいな〜、普通の人は入ってこれないはずなのに」


 彼女は考え込むような表情を見せる。


 その時、優しげな風がふわりと吹く。妖精さんのサラサラとした長く綺麗なブランドヘアーが風に揺らめく。


 彼女の頭には、可愛らしい小さな花を模した髪飾りがついていた。おそらくハイビスカスがモデルだろう。


「ん? どうかしたの?」


 私の視線に気がついた妖精さん。


「いや……綺麗だなって」


 私がそう返答すると彼女はニヤニヤして。


「なになに? 私の事口説いてるの〜?」


 と揶揄うような雰囲気でそんな事を言ってきた。


「いや違うって……それより、あなた……妖精なの?」


 今まで、ずっと気になってた事を、意を決して言ってみる。すると彼女は「そうだよ〜」と軽い口調で答えた。


「私は風の精霊シルフィード! よろしくね可愛い猫ちゃん!」


 彼女の名乗りに呼応するかのように周りに風が吹いた、赤く綺麗なハイビスカスがゆらゆらと風に揺らいぐ。


「あ、シルフィードっていうのは私の本名じゃないよ? 本当の名前は教えない、乙女の秘密だもん!」


 なんだか騒がしい妖精さんだな……


「じゃあ……シルフちゃんでいい? 私はベールクト。よろしくね」


「うん! よろしくねベルちゃん!」


 そうして、私は妖精と友達になった。

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