75話 翻訳作業
「んっー……ふわぁ〜」
徐々に意識が目覚めていく……あれ? なんか違和感……って、テルミナ。また……
私が寝ていたベッドにはテルミナが私に抱き付きながら寝ていた。
「お姉様ぁ……いい匂いがしますぅ……♡」
私の胸に顔をうずめながら寝言を呟く彼女。
「……はぁ」
やれやれ……もういつもの事なんだけど、寝る場所が変わってもこれなのか。
「そういえばミラ姉様は……」
私はこの前のお泊まり会の事を思い出した。あの時のミラ姉様はとんでもなく寝相が悪かったけど……今日は普通に自分のベッドで寝ていた。いやわからないか、案外私が寝ている間に何かあったり……
「……まあいいか」
取り敢えず、私はテルミナを退かして起き上がる。
外を見ると穏やかな海と波、この静かで心地よい波の音が目覚まし時計代わりになり、気持ち良い目覚めをくれた。
「散歩でもしてこようかな」
そうしてコテージの外に出てみた。
「よー、おはよう」
外の桟橋に座り海を眺めているグリペン。珍しく起きるのが早いような。
「何してるの?」
「別に、海を眺めてるだけ」
私は彼女の隣に座った。私たち二人の間に暫く沈黙が流れる。
「……ねぇ」
最初に沈黙を破ったのはグリペンだった。
「なに?」
私がそう返答すると、彼女は何やら言いにくそうに「えっと……」と言葉を詰まらせる。
「どうしたの?」
「いやさ……ほら、この前お姉ちゃんが来た時」
お姉ちゃん、ビゲンさんが来た時の話か。
「あの時、色々助言くれたじゃん?」
「ん? あぁ……まあそんな大したこと言ってないと思うけど……」
グリペンに言ったのはごく普通の当たり障りの無いアドバイスだったような気がする。
「とにかく! ちゃんとお礼言ってなかったと思ってさ、あ、ありがとな」
……なんだかこうやって、改めてお礼を言われるとこっちも気恥ずかしいような気がする。
「うん、どういたしまして」
取り敢えず、そう返答しておいた。
そうしてまた沈黙が訪れる。仕方ないので暫くの間二人で海を眺めた。
海はまるで初々しい恋人のような雰囲気になってしまってる私たち二人を優しく見守るかのように穏やかだった。
〜〜〜〜〜〜〜
ハイビスシア島に来て二日目。あの後、遅めの起床をした三人と一緒にみんなで朝食をとった。
朝食はステルス家の家の使用人さんが用意してくれていた。聞けばこの島には豪華なステルス家の別荘があるらしい。
ラプターさんはそっちにいるという事。実はここから歩いてすぐの場所にあるらしい。
わざわざこっちまで来て朝食を用意してもらうのもなんだか申し訳ないような気がする、明日からは自分たちで朝食を用意しようかな……
そんなこんなで朝食を終えた私たち。今日は何をしようか話し合っているとラプターさんがコテージにやってきた。
「まさか、この島に遊びにきただけ……そう思ってるんじゃないだろうな?」
凄く嫌な予感がした……
そうして、ラプターさんはな何やら大きな荷物をコテージに運んできた。
そうして、部屋のテーブルにドサドサと本が置かれた。
「これって……」
「あぁ、古い魔導書」
なんでそんなものが……?
「これの翻訳作業手伝って」
……は? どういう事?
「な、なんでそんなことを?」
テルミナがそう言った。
「おいおい、まさかタダでこんないい場所に旅行に来れるなんて思ってた訳じゃないだろ?」
はぁ……そう来ましたか……
「まあそんな量はないし、分担すれば一日くらいで終わるだろ、残りの二、三日は好きにしていいから」
私は机の上に置かれた魔導書をみる、置かれたのは三冊、幸いどれもそれほど分厚くはない。それでも文庫本の小説一冊くらいの厚さはあるなぁ……
「じゃ、後よろしく〜」
そう言ってラプターさんはさっさとコテージを出て行ってしまった。
「……どうします?」
テルミナがそう言った。
「私、古代魔法語苦手なんだよなぁ……」
学園ではこう言った古い魔導書などに使われている古代の魔法言語についても学ぶ。
だけど私はそれがかなり苦手、試験も赤点ギリギリだったんだよね……
「……いい機会ですわ! ベル、あなたにきっちり古代魔法語を叩き込んで差し上げますわ!!」
と、何故かミラ姉様はかなりやる気を見せて机から本を二冊取り上げる。
「ベル、来なさい!」
そうして、私は隣のコテージに連れて行かれた。
〜〜〜〜〜〜〜
その後、私はミラ姉様と二人。付きっ切りで魔法語の訳し方のコツなどを叩き込まれた。
ミラ姉様はその片手間に一冊、三十分もかけずにさっさと翻訳を終わらせてしまった。この人本当に優秀なんだなぁ……
「……ふにゃ、なんでここに来てこんな事しなきゃ」
「文句言わないでペンを動かす!」
ひいぃ、ミラ姉様怖い……
そうして、ミラ姉様のフォローを受けつつ、なんとか一日かけて翻訳を終わらせた。気がつけば太陽は沈み、もう夜も遅い。
「本当に一日かかった……」
目と手が疲れた……隣の三人は大丈夫なのかな、というかグリペンは完全に戦力外なんじゃ……
気になって隣のコテージに行ってみると……すやすやと寝ているテルミナとライカ。そしてグリペンは……いなかった。
机を見る、翻訳作業は終わってなさそう。
「逃げたな……まあ戦力外だしいても変わらないか、ほら二人ともしっかりして!! 私たちも手伝うから!」
そうして、私たち四人でなんとか翻訳を終わらせた。気がつけば太陽が登っていた……
……なんでこんな事しなきゃいけないんだ!




