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72話 暇な姉と忙しい姉

「な、何このかわいい生き物は……!!!」


 大図書館の不思議な保管庫に迷い込んだ三日後の事だった。チカ姉が海猫に遊びにきてしまった!


「チ、チカ姉……!」


 なるべくこの人だけには、今の私の姿を見られたくなかったのに!


 チカ姉はジリジリと私に近づいてくる。そうしてガバッと私に抱きついてきた。


「はぅ〜! ベルちゃん! 私の養子になりましょう!! 今からあなたは私の娘だよ!!」


 興奮気味なチカ姉。


「ちょ、チカ姉何を言って……」


 こうなるとわかっていたから会いたくなかったのに。


「もう離さないよ!!!」


 あぁ、ダメだこりゃ……


「ファルクラム様!! またお姉様とイチャイチャして! 羨ま……じゃない、離れてください!」


 と、そこにテルミナがやってくる。


「えっと……すみません、どちら様ですか?」


 チカ姉がそう呟く。まあそうなるよね……



〜〜〜〜〜〜〜〜



「へぇ……そんな事があったんだ」


 私はチカ姉に大雑把にかいつまんで事情を説明した。


「ねえねえ、そのケーキってもう無いの?」


 彼女は興味津々な様子で私に聞いてくる。


「……私とテルミナが食べた二つしかないってラプターさんは言ってましたけど」


「ちぇ、つまんないなぁ、ミラージュに小さくなる方のケーキ食べさせようと思ったのに」


 さらっととんでもない事言ってるよこの人、でもミラ姉様がロリになる、ちょっとだけ気になるかも……


「それにしても……うーん、ベルちゃんホント可愛いね。いや普段ももちろん可愛いけど、今はなんというか凄く守ってあげたくなる可愛さというか」


 ジロジロと私を見るチカ姉。庇護欲をそそるという事だろうか。


「で、テルミナちゃんにはビックリしたよ、あの娘って成長したらあんな風になるの?」


 話題を変えるチカ姉。


 まあたしかに……そこには私もビックリした。テルミナがあんなグラマラスで大人な美人になるなんて。


「……私も成長したらあんな優美な大人な女の人に?」


 きっとそうだ、私はまだまだ発展途上なんだし!


「うーん、どうだろう? 多分ベルちゃんは殆ど変わらなそうな予感」


 ……なんだその失礼な予感は。撤回してほしい!


「それで、ミラージュはこの事知ってるの?」


 チカ姉がそう聞いてくる。


「いえ……知らないですよ」


「じゃあミラージュに教えてこなくちゃ、ベルちゃんが面白いことになってるって!」


 この人、確実にこの状況を面白がってるよ……


「やめてください、ミラ姉様はチカ姉みたく暇じゃなさそうだし」


 ミラ姉様がモンブランを持ってきてくれたあの日、彼女は「私は暫く海都を離れますわ」と言っていた。


 どうやら実家に戻るそう、なんだか忙しそうな様子だったし、こっちのドタバタに巻き込むのも申し訳ない。


「ちょっと!? 私もこう見えて結構多忙な身なんだよ!」


 不満そうなチカ姉。うーん、とても忙しそうには見えないんだけど……




 そんなこんなで、チカ姉に絡まれつつ仕事をこなした、チカ姉は面白がってその日は一日中海猫にいた。


 やっぱりこの人暇でしょ……



〜〜〜〜〜〜〜〜



「も、元に戻ってる……よかったぁ」


 謎のケーキを食べて一週間経ったある日の朝。目が覚めると私の体はすっかり元通りになっていた。


 チラリと隣で気持ちよさそうに寝ているテルミナを見る。


「ふにゃ……」


 こちらも見事に元通りになっていた。見慣れたあの可愛らしいテルミナの姿を見てホッとする。


「はぁ……ホント、この一週間大変だった……」


 ちょっとケーキの箱を間違えただけで、あんな目にあうなんて思いもしなかったよ……


 まあ、何がともあれ、元に戻ってよかった。というか本当にピッタリ一週間なんだね……


 私は起き上がり、部屋に張り巡らされている虫除けの網を潜って縁側に出る。


「んっ〜! 気持ちのいい朝だなぁ……」


 大きく伸びをしてぴょんと小さく飛び跳ねてみる。うん、しっくりくる。やっぱりこの体だ。


「……んぁ? ベル、もしかして元に戻ったのか?」


 寝ぼけ眼をこすりながら起き上がったグリペンがこちらを見てそう言った。


「まあね、見ての通り完璧に元通り! どうよ!」


 私は胸を張ってそうアピールする。


「へぇ〜……よかったな」


 興味なさそうな様子のグリペン。そうして彼女は再び布団に寝転び二度寝する。


「すぅ……すぅ……」


 気持ちよさそうに寝息を立てるグリペン。


「はぁ、もう少し一緒に喜んでくれてもいいでしょ……」



 そうして、またいつも通りの一日が始まった。



〜〜〜〜〜〜〜



「ベル! 聞きましたわ!! あなた小さな子供に……って、あれ?」


 その日の夕方、ミラ姉様が慌てたような様子で海猫に駆け込んできた。


「ミラ姉様戻ってきてたんですか……えっと、もしかしてチカ姉からその事聞きました?」


 話さないでって言ったのに……ホントあの人は。


「え、ええ……ファルクラムからあなたとテルミナの状況を聞いて急いで戻ってきたのですけれど……」


 私を見るミラ姉様。


「ファルクラム……! 騙しましたわね!!」


 そうして、ミラ姉様は海猫から出ていった。


「……やっぱり、忙しい人だなぁ」

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