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7話 失われた魔法と桜色の小刀

「大丈夫か貴様……」


 ラファールと名乗った女性は心配そうな目でこちらを見る。


「……は、はい」


 私は若干緊張しながらそう答えた。あの後、私に絡んできたチンピラはラファールさんの名前を聞いた途端にスタコラと逃げ去っていった。


 帝国(インペリアル)聖騎士(パラディン)連合(ユニオン)……聞いたことはある。


 この海都が位置する大陸、そのほぼ全土、そして私が住んでいた北側の大陸の半分を統治するのは"エルトニア帝国"と呼ばれる、皇帝が治める国であった。


 そのエルトニアの騎士団、帝国聖騎士連合は帝国を守護る(まも)組織……


 と、ここまでは一般常識。この世界の人間なら大体知っている事だ。


「全く……ああいう輩はいつまで経っても減らないな」


 と、ラファールさんは呟く。


「えっと、聖騎士の方がなんで私なんか……」


 聖騎士というのは高潔で身分も高い存在だと聞いている、私みたいな野良猫……いや、もうある意味飼い猫だけど、とにかく獣人なんかを庇ってくれるイメージが湧かなかった。


 私は改めてラファールさんの事を観察してみる。とても綺麗なエメラルドブルーのサラサラとした髪を右側で纏めたサイドテールの髪型、頭頂部からは一本のアホ毛が見える。


 目つきは鋭く、それが余計この人に対する恐怖感というか、恐れ多さを覚えてしまう。


 それに身長も高くスタイルもいい、ラプターさんといい勝負をしてるんじゃないか。


 身なりもかなり高貴そうな感じだ、聖騎士なら鎧でも着てるのかと思ったが今は私服らしい。



 ……やっぱり、こんな人がなんで私を?


「……貴様のその自分を卑下するような物言い、あまりいいモノではないな」


 ラファールさんがキツめな口調でそう言い放つ。


「す、すみません……」


 うぅ……やっぱり雰囲気怖いなこの人……


「私は獣人だからといって、態度をや接し方を変える様な真似はしない、私も貴様も同じくこの世界に生きる一人の“人”だ」


 なんとも立派な人であろうか……世界のみんながこんな素敵な考え方だったらいいのになぁ。固く怖めな印象とは少し違った人みたいだ。


 そして彼女は、私の服をめくり……


「ちょ……何してるんですか……!」


 私のお腹が陽に晒される。いきなりなどうした!?この人痴女……?


 あ、今更だが私は今、例の給仕服を着ている。ていうか“海猫”にきて以来、この服と簡素な寝巻き以外着ていない、若干アレンジされた替えが何着かあり、それをローテしている。どうやらすっかりこれが私の制服になっている様だ。


 話を戻そう。ラファールさんは私のお腹をさすさすする。


「んっ……」


 少しくすぐったい、そして若干先程の腹パンによる痛みが襲ってきた。


「痛むか?」


「いえ……まあ少し……」


 下腹部には少しばかりのアザが出来てきた、まあこれくらいなら後で自分の"治癒魔法"で治療しておけるかな……


「全く、こんなにか弱い娘を……この国の男はろくな人間がいないな」


 それは一理ある、正直この世界で私はロクな男を知らない、父親はクズらしいし、村の連中は何故か私や母を避けがちだったし、しまいにはあの奴隷商人ら……


「ベルちゃん!」


 その時、背後から聞き慣れた声がした。私は振り返る、ホーネットさんだ。


 ガシッ


 と、ホーネットさんにおもいっきり抱きつかれた。


「大丈夫!? 酷いことされなかった!?」


 心配そうに、私の頭を撫でる彼女。そして彼女はラファールさんと同じ様にペラっと捲り。


「はわわ……ひどい痣……」


 彼女はラファールさんをキリッと睨む。


「ちょっと! どうしてファルがついてたのにこんな酷いことになってるのよ!」


 ん?ファル?ラファールさんの事だろうか……


「いや……面目ない、この街にはまだ慣れていないからな……迷ってしまったんだ」


 と、申し訳なさそうに言うラファールさん。この二人は一体どう言った関係なのか、少なくとも愛称で呼ぶ程には親しい仲らしいけど。


「……全く、ほらベルちゃん、ちょっとじっとしててね」


 ホーネットさんは私のお腹に手を当て、


治癒(キュア)


 と、唱える。すると忽ち痣と痛みは引いていき……


「いつ見ても不可思議なモノだな、治癒魔法は消失魔術(ロストテクノロジー)のはずだが……」


 消失魔術(ロストテクノロジー)、時が進むにつれて失われてしまった魔法だ。


「ふふん、私だけは特別、あぁ……でも……」


 ホーネットさんはチラリと私を見る。


 ……やっぱり気が付かれてるのだろうか。


「それにしても、ファルって本当に方向音痴なのね」


 呆れ気味に言うホーネットさん。だが彼女の表情はどこか優しげというか……なんとなくラファールさんに対する友情というか、愛情を感じた。


「いや、本当にすまない……」


 申し訳なさそうに項垂れるラファールさん、今の会話でなんとなくこの二人の力関係が見えてきたかもしれない。


「しかし、あの男どもは、コイツがラプターの関係者だと知らなかったのか……?」


 ラファールさんがそんな事を言った。


「わかってないでしょ、多分この街に来たばかりの旅行者とかじゃない?」


 あの人、本当に何者なんだろう?明らかにただの貴族って扱いじゃない様な、っていうかラファールさんもあの人とも面識あるのか……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「聞いたぞベル、お前チンピラにボコられたんだって?」


 何故かからかう様な調子で私にそう問いかけるラプターさん。


 私はあの後、買い出しを再開、そして"海猫"に帰還した。結局あの後、なんやかんや心配してくれたホーネットさんとラファールさんも一緒に付き添いしてくれたので先ほどの様な輩に絡まれる事はなかった。


「ホーネット、何でベルを一人にした?」


 ラプターさんの問いかけにホーネットさんは「ファルにお守りをお願いしたの、でもあの人方向音痴だから迷ったみたいで……」と困った様な口調で返す。


「しっかし……ウチの娘に手を出すとは、そいつら、この街を生きて出すわけにはいかないな……」


 なんと物騒な……ていうか娘って、私そんな扱いなの?


「そうね、女王雀蜂(クイーンホーネット)の名にかけてそのおバカさん達を許すわけにはいかないわね」


 この二人こわいよぉ……


「にしても、ただ殴られるだけとは……情けないな、ベルも」


 そんなこと言われたって仕方ない、狩である程度鍛錬しているとは言え、相手はガタイの良いマッチョな男だった、貧相な小娘の私が敵う相手ではない。


「……ほら、これをアンタにあげるよ」


 と、唐突にラプターさんが私に何かを渡してきた。これは……小刀?


「えっと……これは?」


「桜」


 ……多分この小刀の名前かな。


 私は刀を鞘から抜いてみた、すると中から綺麗な桜色をした刀身が現れた。


「きれい……」


 素直にそう思った、こんな貴重そうなモノを何で私に?


「護身用に持っておけ、この先何があるかわからんからな」


 成る程、そういう事なら有り難く受け取っておこう。



 こうして波乱に満ちた食材調達ミッションは終了した。

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