69話 目が覚めたら体が縮んでいた②
「と、とりあえず休憩時間もう終わるよ!」
そうは言ったけど、流石にこの姿のまま仕事出来るのであろうか?
「ていうかその服なんとかしろよ! ベルはぶかぶかだしテルミナはムチムチだぞ!!」
確かに、どうしたのもかなぁ……
「話は聞かせてもらったわぁ!!!」
スパーン! と勢いよく襖が開かれる。部屋に入ってきたのはホーネットさんだった。
「……! ベルちゃん……かわいい!!」
私を見るなり抱きついてくるホーネットさん。
「ちょ……ホーネットさん離れてください……んにゃ!! 尻尾はダメです!!!」
「ご、ごめんなさい! あまりにもかわいかったからつい……」
そうして、私から離れ今度はテルミナに視線を向けるホーネットさん。
「うーん……私よりも大きいわね、テルミナちゃん成長したらこんなに美人になるのかしら?」
どこの話だろう? 背丈の事かな?
「ふふん、もっと褒めてくれてもいいんですよ!」
ドヤ顔をするテルミナ。うざい……
「それで、服に困っているのね! 私に任せなさい!」
と、頼もしい口調でそう言ったホーネットさん、私とテルミナは彼女の私室に連れて行かれた。
「えっと、これは……?」
何処からか……明らかに小さい娘用のミニサイズと思われるメイド服を取り出す。
「小さい娘向けの商品試作していたのよ、テルミナちゃんには……私の予備の服でサイズ大丈夫かしら……」
テルミナの分はしっかりとした和服だった。いや、私はなんでいつもメイド服をなんだ……
「まあ、取り敢えずこれで服は大丈夫か……」
私とテルミナは用意された服に着替える、サイズはぴったりだった。
「……ベルちゃん、最高よ! テルミナちゃんもよく似合ってるわ!!」
ホーネットさんは私を見てそう呟く。なんだか凄くはしゃいでるで。もしかしてこの状況を一番楽しんでるのって……ホーネットさんなんじゃ。
「おい二人とも、サボってないでそろそろ仕事に……って、服着替えたのか!」
部屋に入ってくるグリペン。彼女は私とテルミナをじろじろと見る。
「気になってたけど、なんでベルだけいつもその服なの?」
「……この人の趣味、多分」
取り敢えず、問題の一つは解決した。流石にもう仕事に戻った方がいいだろう。いつまでも遊んでいる暇はない。
その後、私とテルミナは仲居のお仕事に戻る。今日はこの後また一人お客様が来る。私がご案内する予定だったけど……
「ふふふ、お姉様ここは私にお任せください!」
自信満々な様子のテルミナ。
「大丈夫……?」
なんだか不安なんですけど……まあ、ここまで自信があるなら任せてもいいか。
そうして、お客様が海猫にやってくる。私はそれを遠くから見守る事にした。
「いらっしゃいませ〜、ようこそ海猫に」
テルミナは大人な雰囲気でお客様をお出迎えする、お客様は二十歳くらいの女性の冒険者だった。
「は、はい」
なんだか緊張している様子のお客様、なんだかテルミナに見惚れているようないるような……まあわからなくもない、大人状態のテルミナ、すっごく美人だし……
「ではご案内しますね!」
そつなく仕事をこなすテルミナ。うん大丈夫そう。私も私の仕事に戻ろうかな。
だが、私の方は……かなり大変だった。
「う〜! 届かない! グリペンあれとって!!」
調理場、普段なら普通に手が届く高さに置いてある調味料……まったく届かない!
「はぁ……やれやれ仕方ないなぁ、はい」
……微笑ましい表情で私を見るグリペン。
「な、なに?」
「いやぁ、なんか妹ができた気分」
妹って……また私に新しい姉が誕生してしまうの……?
そうして、なんとか苦労の一日を乗り切る。
「はぁ……疲れた」
休憩室、畳の上に寝転ぶ。この小さな身体のせいでしなくてもいい苦労を何度した事か……
「ん〜……私はこの身体も悪くはないですけどね」
と、テルミナ。はぁ……羨ましい。
「お〜い、二人ともいるか? うおっ! 本当にあれ食べたのか……」
そこにラプターさんがやってきた。
「……あれってなんですか?」
なんだか嫌な予感がする。
「いや……二人とも冷蔵庫に入っていたケーキ食ったろ?」
ケーキ……いやもしかして!!
私は急いで調理場に向かう、そして冷蔵庫を開けた。中には箱が一つ……ショートケーキが入っていた箱は中に無かった。テルミナが全部食べたあと捨てたのだろう。私は残っていた箱を持って休憩室に戻った。
「……あ、その箱」
テルミナが箱に視線を向ける、私は箱を置き中を開ける。
……中にはオシャレなモンブランのようなケーキが。
「こっちがミラ姉様の作ってくれたケーキだ……」
私はモンブランの方を指さす。中には「お仕事頑張りなさい」というか簡単なミラ姉様からのメッセージカードが入っていた。
「え……じゃああっちの箱は」
もう片方の箱、あの中にはケーキが二つ入っていた。私とテルミナが食べたケーキ……
「あぁ……あれな、学園で使おうと思ってたんだ、成長するまじないと八歳くらいの頃に戻るまじないがかかってる」
な、なんだと……?
「なんでそんなものが……ホント、大変でしたよ! そんな紛らわしいもの旅館の冷蔵庫に入れとかないでください、学園で保管しておいてくださいよ」
そのせいで今日はどれだけ苦労したか……
「いやぁすまんすまん、ちょうどいい場所がなかったからな」
軽い様子なラプターさん。
「はぁ……というか、ラプターさんって、魔法史担当ですよね?」
この手のやつとは分野違いな様な気がする……
「ん? まあ講義で使おうと思ってな……あぁ、その見た目はしばらく待てば自動的に元に戻るぞ」
そうなのか……よかった、ずっとこのままだったらどうしようと思っていた。
「で、どれくらい待たなきゃいけないんですか?」
ラプターさんは微妙な表情をする。
「あぁ……すまん、一週間待たないと元に戻らん」
え、えぇ〜……




