66話 うどんと学園の七不思議①
翌日、ビゲンさんは朝早くに海都を発った。国での仕事が忙しいとの事。もう少しゆっくりしていって欲しいなとも思ったけどこればっかりは仕方ない。
そしてその日のお昼時。私は海猫の敷地内にある稲荷神社にいた。
「それで、あの竜の娘は姉を説得できたのか?」
キツネっ娘さんが私にそう聞いてきた。
「みたいだよ、ビゲンさんも完全には納得してなかったみたいだけど」
私は神社の境内を箒で掃きながらそう答えた。
「う〜む、姉妹というのも中々難しい関係じゃのう〜……」
と、唸る彼女。
「……そう? あの二人は結構単純だと思うけどなぁ」
妹が心配でたまらない姉と、自分は立派に成長していると姉にわかって欲しい妹。色々鈍感と言われてる私でもわかる。
そんな会話をしながら神社の掃除を進める私。と、そこにミラ姉様がやってきた。
「ごきげんようベル」
「あれ? ミラ姉様どうかしましたか?」
ミラ姉様がここに来るなんて珍しい。キツネっ娘さんはミラ姉様が来ると同時に気配を消していた。
「いえ……別に近くに寄ったので様子を見にきただけですわ」
特に用事があるわけでもないのかな?
「あ、そうだミラ姉様。じゃあお昼ご飯食べて行きませんか?」
今は丁度お昼時、掃除が終わったら食べる予定だった。
「え? いやそんな悪いですわ……」
「いいからいいから」
遠慮気味なミラ姉様を引っ張り海猫に連れて行こうとしたその時「ちょっとまったー!」という聞き覚えのある声が聞こえた。
「この声……」
声がする方に視線を向けるとそこにはチカ姉が。
「どうしたんですか?」
私がそう聞くと、チカ姉はスタスタとこちらに歩いてきた。
「可愛い妹がミラージュに食べられちゃいそうな予感がしたから!!」
人差し指をミラ姉様に突きつけてそんな事を叫ぶチカ姉。
「いや……何言ってるんですか?」
相変わらず、訳の分からない事ばっか言うなこの人……
「な、な、たべるって……その、どういう意味で……」
何故か顔を赤くしているミラ姉様。なんか触れるのも面倒だしスルーしておこう。
「チカ姉もお昼ご飯どうですか?」
私がそう言うと、チカ姉は「待ってました!」とテンション高めに言った。もしかしてチカ姉、お腹すいたからここにご飯食べにきたんじゃ……
そうして、二人を広めな宴会場に連れて行く。流石に私とグリペン、テルミナ、そしてこの二人となると四畳半の休憩室は狭すぎる。
「二十分くらいで出来ますから……大人しく待っててくださいね?」
突然魔法を使って喧嘩とかされたらたまらない、というかなんで私こんな子供に言い聞かせる様なことしなきゃ……
そうして、私は調理場に行く。作るのは簡単なモノだ。ちなみに今グリペンは浴場を掃除している。今日のお昼担当は私だ。
私は簡易冷蔵庫から事前に作ってあったうどんの生地を取り出した。それを適当な大きさに切り茹でる。
五人分……いや、ホーネットさんの分も含めると結構な量を作らなきゃいけない。
同時にうどんのつゆも作る。昆布もどきで出汁を取り醤油とみりんを入れれば完成だ。
あとは適当に、余っていた昨日の竜田揚げを簡易冷蔵庫から取り出して簡単な加熱魔法で温めた。これで昼食は完成だ。
離れで暇そうにしていたテルミナを連れてきて、グリペンも浴場から呼んできた。そうして、宴会場にお昼ご飯を運ぶ。
「……ホーネットさん、入りますよ?」
ホーネットさんの分は彼女の私室に持っていった。最近ホーネットさんは"本業"が忙しいらしい。
聞けば服飾関係の仕事をしているとか。ホーネットさんってそっち系の才能あるし、ある意味納得。
「あら、ありがとう。置いといてくれるかしら」
やっぱり忙しそう……
そうして、私は宴会場に戻る。
「……でさ、ミラージュが」
「ちょっと! 余計な事言わない!!」
何やら盛り上がっている。
「なんの話ですか?」
私がそう聞くと、待ってましたと言わんばかりにチカ姉がこちらに視線を向けた。
「いやさ、去年の夏にミラージュと学園の七不思議を調査した時のことなんだけど」
そう、面白そうに語り出すチカ姉。
「学園の七不思議?」
なんだろう、初耳だけど。
「ファルクラム……! これ以上余計な事言うと……」
ミラ姉様は首に下げていたペンダントを握る。
「あー、もう本気にならないでよ〜、ちょっと思い出を語っただけじゃん! そんなに恥ずかしがる事でもないでしょ?」
不満そうな様子のチカ姉。
「……ちょっと、気になるんですけど。学園の七不思議って何ですか?」
私がそう聞くと、チカ姉はミラ姉様に「あー、それは別に教えてもいいでしょ?」と聞く。
「まぁ、別に構いませんけど」
落ち着きを取り戻した様子のミラ姉様。
「ホワイトリリィ学園には昔から伝わる色々な噂があるんだよね、例えば大図書館には禁じられた閉鎖書架があるとか」
語り出すチカ姉。
「あー……なんか聞いたことはありますね」
テルミナがうどんをすすりながらそう呟く。
「それで私とミラージュが去年……」
と、その時。ピキッ……と音を立ててミラ姉の分のうどんつゆが凍った。
「あー!! 何するのさミラージュ!!」
「……余計な事を口走ろうとするからですわ、さあベルも座って! 早く食べましょう!!」
強引に話を切り替えようとするミラ姉様。
……いやいや、凄く気になるんですけど。




