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63話 夏休暇!

「んーっ……」


 客室の窓をガラリと開けて、外の空気を入れる。外からは夏の訪れを感じさせる熱気が流れ込んでくる。


「あつ……」


 私は給仕服のミニスカートをパタパタさせ涼を取る。


 この季節にあわせホーネットさんが夏仕様で生地が薄く半袖な給仕服を作ってくれた(相変わらず私だけ洋風のメイド服だけど)。


 その夏服でも暑さを感じる、いよいよ夏本番と言った所だろうか。


「……」


 二階、客室から外を眺める。輝かしい太陽の日差しが、海都に降り注ぎ容赦なく街を照らしていた。その日差しを受けて海はキラキラと輝いている。


 港の方に視線を向ける、海都の港湾施設は今日も賑わっている。何隻もの船が海都の湾内を出入りしていた。


 街の各地からはみぃみぃと言った鳴き声が、あれはミィミィゼミと言うらしい……


 多分、と言うかどう考えてもこれミンミンゼミだよね。みぃって……そんな語尾の中学生アイドルがいた様な気がするみぃ。


「……よいしょ」


 私は窓辺から離れて箒を手に取る、さっさと部屋の掃除を済まさなければ。


 そうして、私はもうここに来て何度目かもわからない客室のお掃除を始める。


 仲居の仕事は第一に接客、第二に掃除、そして第三に食事の準備。お客様が少なく使う部屋も少ないけど、それでも客室のお掃除は常に欠かさない。


 十分ほどかけて、手早く丁寧に客室のお掃除を終えて、次の部屋に向かう。


 そうして同じ手順で客室を綺麗にする。一時間ほどかけて全ての客室を綺麗にして私は一階に降りた。


 掃除道具をしまい、旅館の正面玄関、フロント部分のカウンターに行く。


 椅子に座ってカウンターに乱雑に置かれていた予約帳を確認する。三日後にビゲンさんという人が泊まりにくる。それ以外にもちらほらお客様が。


「閑古鳥の鳴き声が聞こえる」


 頭の中でぴよぴよという閑古鳥の鳴き声が。いや、ぴよぴよはヒヨコだ、わかってる。でも私閑古鳥の鳴き声なんて知らないし……


「こんなんでよくここの旅館続けられるよね」


 決して客が全く来ないと言う訳ではないけど。これで商売が成り立っているとも思えない。


 まあ、ラプターもホーネットさんも確実に「儲けよう!」って感じじゃないし。殆ど道楽みたいな感じなのだろうか。


「はぁ……夏休暇中もめちゃくちゃ暇そう……」


 私は予約帳を閉じる。


「ベルちゃん、今暇?」


 と、そこに剣聖さんがやって来た。


 剣聖さんは、ここ二ヶ月ちょっと。ウチにずっと泊まっている。といっても半分くらいは何処かに行っていてあまりずっといるという感覚もないけど。


「よかったら剣術の稽古しようか?」


 こんな感じで空き時間があれば私に剣術を教えてくれている。


「はい、お願いします!」


 どうせやる事もあまり無いし。こういう暇な時間は剣の鍛錬をするに限る。


 そうして、私は給仕服から学園の体操着に着替えた。その後庭園に出る。剣の鍛錬をするのはいつもこの場所だ。


 それから数時間。私は剣聖さんに桜閃刀流の指南を受ける、剣聖さんの教え方はかなりスパルタ気味だ。



「つかれたぁ……」


 バタリと、離れの縁側に倒れ込む。


「お疲れ様」


 剣聖さんが私の隣に座る。


「ベルちゃん、私はこれから一ヶ月くらい海都を離れるから。一人でもしっかり鍛錬は続けるんだよ?」


 彼女は唐突にそんな事を言った。


「そうなんですか? 初耳ですけど……」


「うん、帝都の方であの娘を見かけたって情報があってね。急いで向こうに行く事にしたんだよ」


 あの娘……? あ、もしかして……あの白百合使いの事だろうか。


「わかりました、お気を付けて」



 その後、私と剣聖さんは旅館の温泉で汗を流した。こうやって鍛錬終わりに入る温泉は最高だ……


 剣聖さんはそのまま、夕食も取らずに旅館を出た。これでこの海猫にいるお客様はゼロとなったのであった。



〜〜〜〜〜〜〜



「……さっきからなにソワソワしてるの?」


 夕食時、なんだかやたら落ち着きのないグリペンが気になってそう聞いてみる。


「はぁ!? な、なにが?」


 と、明らかに動揺する彼女。分かりやすすぎる。


「いや、グリペンこないだから少しおかしいよ? 何かあったの?」


「な、な、な、な、なんでもないって!!」


 と平静を装う彼女、これで誤魔化しているつもりなのだろうか。あ……この娘、慌てすぎて箸で掴んでいた竜田揚げをポロッと落とした……動揺しすぎでしょ……


「そういえば、明々後日にくるお客様の事なんですけど」


 テルミナが唐突にそう切り出した。すると、グリペンがこれまた分かりやすいくらいにビクッと反応する。


「このお客様の名前どこかで聞いたことがあるような……って、グリペンさんどうかしました?」


 テルミナもグリペンの様子がおかしい事に気がついた様だ。


「……もしかして、ビゲンさんって人の事、知ってるの?」


 今の反応は確実にそういうものだろう。


「はぁ? なんで? 知らないし!!」


 と口笛を吹きながら誤魔化す彼女。私、何かを誤魔化すときに口笛吹く人リアルで初めて見た……


「グリペンちゃん、貴女のお姉様の事だけど、海都への到着が一日くらい遅れるって伝書鳩が……」


 と、休憩室に入ってくるホーネットさん。


「ホーネットぉ……」



 ……なるほど、ビゲンさんという人は、グリペンのお姉さんなのか。

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― 新着の感想 ―
[一言] >でも私閑古鳥の鳴き声なんて知らないし…… 実はカッコウの別名だから前世で聞いてる可能性は高かったり
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