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60話 竜の王女①

グリペン視点の話です。

「どうだったの? ユージア旅行は」


 私はお土産でもらった木彫りのドラゴンをペタペタと弄りながら目の前にいる猫耳の女の子に聞く。


「いや……別に旅行してきたわけじゃないし」


 お茶を啜りながら、そう答える彼女。


「はぁ〜……なんか面白そうだなぁ、私も行きたかった!」


 ユージアは有名な観光地、羨ましい!


「私もベルみたいに学園に入ろうかなぁ」


 いっその事こと私もホワイトリリィ学園に入学してしまおうか……


「グリペンって魔法使えるの?」


 ベルがそう聞いてきた。


「いや、全然」


 魔法は苦手だ。


「だめじゃん……」



〜〜〜〜〜〜〜〜



 私の名前はグリペン・スカーレットグリフォン。北大陸の西端、スカーレットグリフォン王国生まれ、竜人族。趣味は料理! 好きな食べ物は肉!!


 私達竜人族は太古の昔に存在したといわれるドラゴンの血を受け継ぐ由緒正しき一族だ。


 ドラゴンなんて御伽噺の存在だと馬鹿にされることもあるけど……


 ムカつく! ドラゴンは本当に存在したんだよ! 現に私たち竜人族がその証明になるでしょ!


 私たち竜人族は、自分たちがドラゴンの子孫である事を誇りに思っている。世界各地にドラゴンの伝承が残っており、私たちは子供の頃からそう言った伝承を聞かされ育っているのだ。


 竜人族は戦闘力が非常に高い、身体能力がとても高くてその能力を買われて世界の各地で色々な活躍をしている。


 私はお姉ちゃん達みたいに国の顔として働くなんてしたくない! 自分の能力を活かした仕事がしたい!!


 だから、国を出て海を越えた南大陸にある栄えた港町にやってきたんだけど……


「まさか、こんな仕事をする事になるとはなぁ……」


 調理場で今日の夕食を作りながら呟く。


「え? なんて?」


 向かい側で魚の下処理をしているベルがこちらの方を向く。


「いやさ、私みたいなのはもっと……こういう大人しい仕事をしているような人間じゃないのよ!」


「……は?」


 何を言ってるんだこいつ、みたいな目で見てくるベル。


「わからないかなぁ〜、ほら私竜人族だし」


 この仕事も悪くは無いけど、完全に自分の能力を持て余している様な気がする。


「……グリペンって、どういう経緯でここで働くことになったの?」


 と、彼女が聞いてきた。


「どういう経緯、かぁ……まあ色々あったんだよ」


 私は海都に来た日を思い出す。


 海都に来た初日、私は冒険者になるつもりだった。私の戦闘力を生かすなら、魔物の討伐とかで活躍するこの職業が合っていると思ったからだ。


 だけど途中で、なんとあの英雄の1人戦域支配のラプターに出会った。


「冒険者よりお前の能力を活かせる仕事がある」


 とかなんとか言われてついて行ったら、たどり着いた場所は見慣れない様式の宿屋だった。


「お前は戦いより、料理の方が向いてる!」


 なんて言われた、こいつ只者じゃない。私が料理好きなのを見抜くなんて……


 そんなこんなで、この海猫で仲居兼料理人として働くことになった。


「というわけ」


「……へぇ」


 とても興味なさげなベル。


「まぁ、客も少なくてのんびり出来るし、ここで働くのも案外悪くないけどね」


 竜人族としての能力は持て余しがちだけど、こういうのもまぁ悪くはない。


「確かに……暇だしね」


 と、同意するベル。


「ベルはどうなの? 海猫でのお仕事はどう思ってるのさ」


 この娘は複雑な事情でこっちに来たと聞いている。ただ自分から国を出てきた私と違い無理矢理この海都に連れてこられたそうだ。


「別に、でも私には向いてる仕事だとは思ってるよ。ここで働けなきゃ奴隷になるしかなかったし」


 彼女は下処理を終えたひらべったい魚を、塩水で綺麗に洗いながらそう答えた。


「ラプターさんには一応、感謝してるよ」


 と呟く彼女。


「……ここにいる理由といえば、テルミナが謎だよね。あの娘仕事めちゃくちゃサボってるし」


 ……はぁ、この娘鈍すぎる。


「テルミナも苦労してるよね……」



 そんな世間話をしながら客に出す今日の料理を完成させる。今日は複数人泊まっているので量が多い、こうして私とベルと二人がかりで作らないと効率が悪いのだ。


「……ふぁ〜ぁ」


 仕事を終え、離れの縁側に寝転ぶ。思わずあくびが出てしまった。


「もうそろそろ夏かぁ」


 ぬるめな風を感じながらそう呟いた。鬱陶しい雨が続いた季節は終わり徐々に夏が近づいてくる。


 そういえばベルやテルミナが通う学園は夏休暇という長いお休みがあるらしい。その間二人はずっと海猫にいるのか……ベルって口うるさいからなぁ。


「グリペンさん、こんな場所で何してるんですか?」


 と、そこにテルミナがやってきた。


「寝てる」


「いや起きてるじゃないですか」


 冗談が通じない娘だ。


「そうだ、渡し忘れてました」


 そう言って彼女は障子をあけ部屋の中に入る。離れの部屋は私たち仲居三人の部屋となっている。若干窮屈だけど……まあ他に場所がないし仕方ない。


「一応、お土産です」


 と、木彫りのドラゴンを渡してきた。


「……ありがとう」


 二人とも、お土産が被らないように相談とかしなかったのかな……

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