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6話 買い出しと理不尽な暴力、そして女騎士

 翌日、私とホーネットさんは街に食料の買い出しに繰り出していた。旅館を営むにあたって食事というモノは必須であろう。今回は出す料理についての検討とテストに使う為の食材の調達ミッションである。


「……」


 街を歩く、やっぱり視線とヒソヒソ声が気になる。この街は余りにも私に対して優しくない。


「ベルちゃん、気にしないで胸張って歩いて」


 隣を歩くホーネットさんが声をかけてくれた。


「あなたは何も悪い事してないんだから、そんなに縮こまる必要はないのよ?」


 なんとも有り難く心に染みる言葉なのか……私の心に少しだけ勇気が湧いてくる。


「それに、この状況は別にベルちゃんだけのせいじゃないから、半分くらいは私のせいかなぁ……」


 ホーネットさんが気になる事を言った、どういう事なのか……


 私はその言葉の意図を聞こうとしたけど聞けなかった。だってホーネットさん、なんかピリピリした雰囲気で怖かったんだもん。



 そんな微妙な雰囲気の中、私達は街を歩き、薄暗い路地裏に入っていった、そして暫く進むと何やら怪しげな店が見えた。


「ついた!」


 ホーネットさんは、躊躇う事なくドアのノブに手をかけた。


「東屋……」


 立てかけていた看板にそんな文字が書かれていた、これは漢字?似ている……この店の屋号なのかな。


「こんにちは〜」


 ホーネットさんはドアを開けて中に入っていく、ドアにぶら下げられていた鈴らしきものがチリンと心地よい音を鳴らした。


「こ、こんにちは……」


 私も後に続いて入店する、中は……なんというか凄くゴチャゴチャしている、色々なモノが積み重なってとても窮屈だ。


 なんか如何にも隠れた名店って感じがする。


「いらっしゃい、女王雀蜂(クイーンホーネット)に……可愛らしい仔猫ちゃん」


 奥から老婆の声が聞こえた、この店の店主だろうか、そしてカウンターに声の主と思われる老婆が現れた。


「あの…… 女王雀蜂(クイーンホーネット)って?」


 私は気になった事をホーネットさんに耳打ちする。子猫ちゃんは多分私の事だけど、女王雀蜂(クイーンホーネット)というのは何なのであろうか、多分ホーネットさんのあだ名なんだろうけど。


「あぁ……私のあだ名みたいなモノね、あんまり気にしないで」


 と、返答が返ってきた。いや、まああだ名なのはわかっていたけど、聞きたいのはそういう事じゃなくて……


「お婆ちゃん、これもらえるかしら?」


 ホーネットさんはモヤモヤする私をスルーして、ポケットから取り出したメモを差し出した。


「はいよ……ちょっとお待ち」


 店主はメモを持ち奥の方へと消えていった。そして暫くして、壺と瓶のボトルを抱えて戻って来る。


「またせたねぇ」


 と、抱えてたモノをカウンターに置く店主、一体何を持ってきたのか。私はその二つを見つめ「これは?」と聞いてみた。


「味噌と醤油さ」


 帰ってきた店主の意外な答え、へぇ……味噌と醤油、そんなモノこの店に置いてあるなんて少しビックリだ。


「二つとも"大和"の食材ね」


 ホーネットさんが教えてくれた。まあ日本風の国があるのだから、こういう食材が存在してもおかしくはないだろう、と心の中で納得。


 確かに、この二つがあれば和風の料理が作れそうな気がしなくもない。


「あの国が鎖国してからこういうモノは途端に手に入りにくくなってねぇ……大陸ではほぼ流通しておらんのじゃ」


 店主がそんな事を言った。成る程、この大陸では希少品なのか。


「これはアタシが独自のルート、昔のコネで取り寄せているもの、まぁ、存在自体を知らない人が殆どだから買いに来る奴は稀だがねぇ……」


 店主は丁寧に説明してくれた、多分ルートやコネの事を自慢したいのだろう。



 その後、ホーネットさんがそれらの代金を支払い店を出た、希少品なら値段は高い筈だが渡していた代金がそれ程、多そうではなかったのが気になった……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その後、私はホーネットさんと別れて食材調達の続きを行っていた。なにせ色々なモノが必要なので、時間短縮の為二手に分かれることにしたのである。


「えっと……必要なのは……」


 周りをキョロキョロ見渡す、私は今港付近の大きな市場にいた。市場はこれ以上なく賑やかであり、若干その雰囲気に私の心は縮こまってしまう。


 ……なんとなく、こういう人の多い場所は苦手だなぁ。


 スタスタとホーネットさんに教えられた目的の店へと歩いていく。


「おい……見ろよ、獣人の奴隷だ、飼い主とはぐれたのか?」


 やはり、そんな差別的なヒソヒソ話が聞こえる。ホーネットさんは気にするなと言ったけど、私はそんなメンタル強くないですよ……


「早く帰りたい……」


 つい本音が漏れてしまった。


 だけど帰りたい、か……私もすっかりあの"海猫"が気に入ってしまったようだ。



 だがその時、私は突然後ろから蹴り飛ばされた。一体何が起きた!?と後ろを振り返ると見るからにガラの悪そうな男三人がニヤニヤしながらこちらを見ていた。


 なんだかすごく嫌な感じ……すぐ逃げよう……


 私は立ち上がりこの場を逃げようとしたが、男の一人に呆気なく腕を掴まれてしまった。


「お〜い仔猫ちゃん?何処へ行こうとしてるのかなぁ〜?」


 気持ち悪い猫撫で声だ、鳥肌が立つのが分かった。


「は、離してください……!」


 私は男の手を振り解こうとするが、振り解けない。ヤバい、この状況とってもヤバいかも……


「暴れんなオラ!」


ガンっ!


「あ゛ぐ゛っ゛……」


 痛い!痛いッ……!!!!男におもいっきり腹パンされた!激痛で涙が滲んでくる……!


 なんなのコイツら……いきなり現れて腹パンとか非常識すぎる……!


 私は思わずその場に蹲る、痛みで頭が朦朧としてきた。あぁ、ヤバいかもホント……


「獣人風情が市場を堂々と歩いてんじゃねぇ!!!」


 別の男の罵声、私が何したっていうんだ、ただ市場を歩いていただけなのに……




「貴様ら何をしている!?」




 その時、大きな女性の声が聞こえた。とても凛々しくてよく通る声だ。私は痛みを堪えつつ顔を上げる。 


「公衆の場でのこれ以上の狼藉、この私、帝国(インペリアル)聖騎士(パラディン)連合(ユニオン)のラファール・ガストが許さんぞ!!!!!」


 ……この人、すごく美人、一目見てそんな事を思う。大人な女性ってこんな感じの人のこと言うんだろうな。


 こんな時でもそんな余裕な事を考えられるくらいには、今の出来事で理不尽な暴力により混乱していた頭が落ち着いてきた。




なんだかよくわからないけど、助かりそう……



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