59話 ユージア発、ユリシア行き
翌日、今日は最終日。ユリシア行きの列車に乗るのが夕方ごろでそれまでは完全に自由時間だ。
「何しようかな〜」
「せっかくだからストーンヘンジを近くで見に行きませんか?」
と、テルミナ。確かにあの大きな塔をじっくりと近くで観光するのも悪くはないかもしれない。
「ライカはどうするの?」
私は部屋の中で大人しく本を読んでいたライカに声をかける。
「私は部屋にいます、特に行きたい場所もないので……」
と、本を読みながら答える彼女。一体なにを読んでいるのか気になり覗き込んでみる。
「……勉強?」
彼女が読んでいたのは土属性魔法に関する参考書であった。
「はい……! 昨日のベルさんの戦いを見て私も頑張らないと、と思いまして!」
私の昨日の戦いが思わぬところで影響を与えていたみたいだ。
「うん、頑張ってね」
「はい!」
ということで、ライカは部屋にいるらしい。
私とテルミナは部屋を出る、クラスメイト達は既にそれぞれ、好きな場所に出かけている様だ。
私達が宿屋を出ようとしたところであの黒髪の女の子に声をかけられた。
「お出かけですか?」
と、優しげな口調で話しかけてくる彼女。
「はい、ストーンヘンジを見に行こうと」
私はそう答える。
「それはいいですね、あれは近くで見ると迫力が凄いですから」
彼女は自分の髪を弄りながらそう答えた。そこでふと彼女の髪飾りが目に入った。
綺麗な蝶々を模したような髪飾り。こんな高価そうなものを付けられるなんて実はこの娘、裕福な家の娘なのだろうか。
「これが気になりますか?」
「あ……すみません。綺麗な髪飾りですね」
そう私が言うと、彼女は髪飾りを触る。
「はい、実はですね……これ暗殺用の道具なんです」
「え?」
ど、どう言う事?
「冗談です」
ニコニコと笑う彼女。そんな表情でとんでもない冗談を言わないでほしい……
……そういえば、昨日見かけた猫がいない。辺りを見渡して見る。だが何処にも見当たらない。
「あの、昨日ここの受付カウンターに黒猫がいたんですけど」
「……はい、うちのネコです」
あぁ、やっぱり。この宿屋の看板猫であったのか。
「かわいい猫でしたね〜」
と、私が言うと彼女はおかしそうに笑う。
「ふふっ、それを聞いたらあの子も喜ぶと思いますよ」
……なんだろう、この微妙な反応は。
「お姉様ー!」
入り口のあたりで待っていたテルミナが私を呼ぶ。
「すみまん、じゃあ私は行きます」
「はい、いってらっしゃいませ」
そして、その場を離れテルミナの元に向かう。
「何話していたんですか?」
そう聞いてくるテルミナ。
「ん? いやちょっと猫談義を」
「……本当ですか? また女の子でも口説いていたんじゃないですか?」
ジト目で私のことを見る彼女。
「してないって、ていうかまたって何? 私一度もそんな事してないけど!」
その後、若干不機嫌そうなテルミナと一緒に、ここから一番近い塔に向かう。
「すご……おっきい……」
「はい、とんでもないですね……」
歩いて数分で辿り着いた、改めて見るととんでもなく大きい。
街の外れ、街を囲むように建てられた塔。改めてじっくり見てみると、どこか砲を天に向け聳え立っている大砲に見える。
残念ながら内部には入る事は出来ないので外から見るだけだ。それでも充分に観光の気分は堪能できた。
その後、私達は塔を離れ街中を歩く。ちょくちょくウチの生徒を見かけた。みんな自由時間で好きな場所に繰り出しているのだろう。
「この後、どこに行きましょう」
と、テルミナが言った。今の時刻はお昼過ぎ、列車の発車時刻までまだ結構ある。どうしたものか。
「じゃあ私と一緒にお買い物しようよ!!」
後ろから声をかけられた、この声は……
「チカ姉、どこに行ってたの?」
そこにはチカ姉が、朝から見かけないと思ったけど一体どこに行っていたのか。
「んー、さっきまで寝てた」
寝てたって……今お昼過ぎだよ?
「そんな事よりさ、私と一緒にデートしようよ〜」
私に腕を絡めてくるチカ姉。
「なに言ってるんですかファルクラム様! お姉様は私と一緒に街を観光するんです!!」
話に割って入るテルミナ。
結局その後、チカ姉も私達に合流する事になった。そうして街の市場やお店でショッピングを楽しむ。
ミラ姉様やホーネットさん、グリペンへのお土産を買ったりカフェでまったりしたりして時間は過ぎる、気がつけば空が茜色に染まり始めた。
「そろそろ時間かぁ……」
なんだかんだいって、あっという間だったような気がする、私達三人は宿屋に戻り荷物をまとめる。
ライカは結局あの後ずっと宿屋で勉強をしていたようだ。真面目な娘だ……
帰り際、あの黒髪の娘に挨拶しようと思ったんだけど何故か何処にも見当たらなかった。
……時間も迫っていたし諦める事にした。
そうして、駅に向かう。駅には桜組&黄緑組の生徒たちが集合していた。菫組は例によって一本遅い列車に乗るようだ。
全員の集合が確認できた後、ホームに行き列車に乗り込む。
「なんだか三日間あっという間でしたね」
テルミナがそう言った。
「だね」
ホント色々あったなぁ……
チラリとライカを見る、彼女は疲れて眠ってしまったようだ。
「……あれ、あの猫」
窓からホームを眺めていると、視界にあの黒猫が見えた。
「何でこんな場所に……?」
ふと、黒猫と目が合ったような気がした。しばらくして黒猫はどこかに去っていった。
「ユージア行き列車、間もなく発車いたします」
と、アナウンスが流れる、もう出発時間だ。
そうして、客車を引いた蒸気機関車は動き出し、ユージアを経つ。どんどんと離れていく塔がある街。
そうして、私初めての旅は終わった。
〜〜〜〜〜〜〜
「結構面白い娘だったね、からかい甲斐があると言うか……」
街を離れていく列車を、塔の上から眺めながらそう呟く黒髪の少女。
「また会いましょ、かわいい仔猫ちゃん♡」




