58話 黒髪の少女と対抗戦③
そんなこんなで無事に1度目の対戦を終える。肩の荷が降りたような軽い気分で次の対戦の準備をする私。
まあ準備と言っても、このまま続けて菫組の代表と戦うから、待機しているだけなんだけど。
「ふんっ、黄緑組の娘は簡単に倒せても私はそうはいかないわよ」
と、菫組代表の娘が言う。うぅ……ピリピリしてるなぁ……
「二人とも、所定の位置についてくれ」
少し離れた場所にいるラプターさんがそう言った。今回の試合はこの人が審判らしい。
そうして私達二人は位置につく。
菫組の生徒達はいたって落ち着いた様子だった、あれは多分私が勝つはずがないだろうという余裕から来るものだろう。
一方桜組の生徒は騒がしく私に声援を送っている。ありがたいけど……うるさい。
「試合開始!」
ラプターさんの合図。三戦目が始まった、私はそれと同時に先ほど同様に光属性魔法で姿を消す。
「……ふんっ! そんな初見殺しの技が私に通用するとでも!?」
彼女はそう叫び、ブレスレットに手を添える。
「"散水術"!」
と、詠唱する。周囲に軽い雨を降らせる魔法……単純だけど厄介だ。
パラパラと水が降り注ぐ。姿を消せても存在まで消せる訳ではない、水に打たれ光が歪む。
「そこっ!!!」
彼女はいつの間にか手に持っていた、氷で作った剣を構えてこちらに跳躍してくる。
もう場所がバレたならいつまでも迷彩魔法を展開しているのは無駄だろう、私は迷彩魔法を解く。
そうして、桜を抜く。桜色の綺麗な刃が振りかざされた氷の刃を受け止める。
ガキィン! というか刃と刃がぶつかり合う音が響き渡る。
「ふん、中々いい反応ですね」
それはこちらのセリフだ。あの咄嗟の動きといい、振り下ろされた剣の重さといい、この娘も何かの剣術に通じてそうだ。
私はバックステップで、一度距離をとった。ここからどうするべきか……
魔法の技術で言えば多分向こうのほうが上だ。多分こちらがどんな魔法を使っても上手く対処されてしまうだろう。
ならば取るべき行動は一つ、私は菫も鞘から抜く。二本の小刀を逆手に持ち構える。
「……何のつもりですか?」
「あなた、剣術を教わってますよね! 私と同じ……なら魔法なんて捨てて剣で勝負しませんか!」
と、挑発してみる。
「ふん、面白い。いいでしょう、受けて立ちます!」
乗ってくれた、ありがたいけど裏を返せばそれだけ自分の剣の腕に自信があると言う事だろう。
私もまだまだひよっこ、どこまで通用するか……
先に動いたのは相手の方だ。氷の剣を構え再び距離を詰めてくる彼女。そうして攻撃を仕掛けてくる。
私は彼女の剣戟を小刀で受けずに躱す。彼女の攻撃は一発が重い、いちいち受けていたら腕が持たない。
「ちょこまかと……!」
そうして、振りかざされる大振りの攻撃をかわしてピョンと飛び跳ね彼女の背後に回った。
そのまま、暗殺者のように後ろから胸の宝石を狙う。
いける……! そう思ったけど……
「させません……!」
彼女の反応は早かった。振り返り、彼女は小刀を受けるのではなく私の胸元の宝石を狙った。
「……ッ!」
互いの刃が交差する、それぞれお互いの胸の宝石に刃を突きつけている状態。
そうして……宝石はほぼ同時に砕け散った。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「終わった〜……」
宿屋の部屋、ベッドに仰向けに倒れ込む私。
「お疲れ様ですベルさん、改めて二連勝おめでとうございま」
と、ライカ。私はベッドに寝転んだまま「ん〜……」と彼女のお祝いの言葉に応える。
結局、勝負は私の勝ちということになった。ラプターさん曰く、ほんの一瞬、僅かに私の攻撃の方が早かったらしい。
正直あんまり勝った気がしない、だって感覚的にはほぼ同時だったし。ラプターさんが私を贔屓する様なことはないし本当に私の方が早かったんだろうけど……
試合終了後、あまりの番狂わせに菫組、黄緑組の生徒達は終始混乱していた様子だった。一方私達の桜組はてんてこまいのお祭り騒ぎ。
菫組の代表の娘にライバル宣言されたり、チカ姉に唇を奪われそうになったり色々あったけど、取り敢えず、ひとまず宿屋に戻って来た。
「お姉様〜!!」
ばったーん! と大きな音を立て部屋の扉が開かれる。
「おめでとうございます!!!」
そうして、部屋に入ってきたテルミナはベッドで寝転んでいた私の元にダイブしてきた。
「ふにゃ……! テルミナ危ないって……」
私は彼女を抱き止める。
「はぁん♡お姉様はやっぱり素敵です!」
私の元に飛び込んできたテルミナは目をキラキラ輝かせながら嬉しそうにそう言った。
「まったくもう……」
そんなこんなでテルミナどじゃれあったり、ライカと駄弁ったりしながら時間が過ぎる。気がつけば時刻は夕方。今日は対抗戦以外のイベント無いから結構暇なんだよね……
そうして、夕食の時間。私達は宿屋一階にある食堂に降りる。夕食の時間は特に決まってない。ここに泊まっている桜組のメンバーは皆それぞれ適当な時間に夕食を取っている。
「……あれ、あんなところに黒猫が」
食堂に向かう途中。フロントのカウンター、机の上に黒猫がいるのを見つけた。ここの看板猫であろうか。私は気になってその猫に近寄ってみた。
「にゃん、にゃんにゃん〜?(あなたはここの猫なの?)」
と、聞いてみた。猫人族は猫語を理解できる。もちろん私もそうだ。
黒猫は私を見つめた後、返答することもなくぴょんと机から降り、何処かに行ってしまった。
「無愛想だなぁ……」




