54話 地下迷宮
「せ、せまっ」
宿泊する部屋の中を見渡す。部屋は見事なまでに窮屈で二人用の部屋にベッドを三つ無理やり押し込んだ様な状態だった。
「本当に急遽用意したって感じですね」
と、テルミナ。実際その通りなんだろう。
「はぁ……きっと上のクラスは豪華な場所に泊まってるんだろうなぁ」
まあ愚痴っても仕方ないけど。
部屋の適当な場所に荷物を置き、私達は一階に戻った。
その後、チカ姉に連れられ私達は街の外に出る。街から出て数十分程で、演習が行われる場所に辿り着く。
広々とした草原の一角に、いかにもな遺跡っぽい入口があり、そこの地下は地下迷宮が広がっているという。
「みんな来たか」
入り口の前にはラプターさんがいた。この人今まで何処にいっていたのであろうか。
「全員連れてきましたよ」
チカ姉がラプターさんに報告する。
「よし、それじゃあ概要を説明するぞ」
そうしてラプターさんが詳しい内容を説明し始めた。
地下迷宮は四層に分かれているらしい、今回使うのは一番浅い層。演習内容はグループ毎に迷宮に入り、一層の奥に置いてある魔導書を取ってくるという至極単純なものだ。
「やっぱりこれって試験の一部なんでしょうか……?」
テルミナが呟く。
「じゃない? 成績に加算されるでしょ多分」
じゃなきゃこんな時期にこんな事やらないでしょ。
「あー、試験中はどんな魔法でも使っていいからな」
と、ラプターさん。ていうか試験って言っちゃったよ。
「……頑張りましょうね! 二人とも!」
ライカはやけにやる気だ。
そうして、試験は始まった。私たちのグループが入るのは最後の方なので、それまでは待機する事になる。
「そういえば、他の組がいませんね」
テルミナが辺りを見回しそう言った。確かに今ここにいるのは桜組だけだ。
「他の組は時間をずらして始めるそうです」
ライカがそう教えてくれた。確かに一学年六十人ちょっとの生徒たちが一斉にここに集まり試験を始めるとなると色々と大変だろう。
そうこうしているうちに、どんどんと地下迷宮の中に入っていくクラスメイトたち。徐々に私たちの番が迫る。
「そういえば、ライカの魔道具って何だっけ?」
ふと、気になったことを聞いてみた。何回か見かけたような気がするけど忘れてしまった。
「あ、これです」
彼女は腰に下げていた小さなナイフを取り出した。
「それ、魔道具だったんだ」
ナイフが魔道具、何か親近感を覚える。
「はい! 母から譲り受けたものなんです!」
なるほど、それは大事な物だ。何の脈絡もなく手に入れた私の二本の小刀とは大違い……
「ライカさんは地属性魔法が得意でしたよね?」
テルミナがそう言った。
「はい、お二人のサポート頑張ります!」
そんな会話をしているうちに、いよいよ私たちの番がやってきた。
「ベル、テルミナ、ライカのグループか、まぁ気楽にやれ」
軽い口調のラプターさん。
「頑張ってねー!」
同じく軽いノリなチカ姉。そうして私たちは階段を降り、地下迷宮の中に入る。
中は薄暗く、少し気を抜いただけで転びそうだった。魔法であかりを付けて先を進む。
「迷宮というだけあって、道がいくつも分かれてますね、迷いそう……」
テルミナがそう言った。
「まあでも、一番浅い層だしそこまで複雑ではないと思いますけど……」
「ライカの言う通りだと思うよ、そこまで広そうじゃないし」
と、私がそう言うと二人は驚いたよう表情を見せる。
「何でわかるんですか?」
ライカが私に聞いてくる。
「あー……説明するのは面倒なんだけど……」
実は、桜刀閃流の修練の一環で魔力を使い、風の流れと、肌で感じる空気で周囲がどのような状況なのかを見極める技というのを剣聖さんから教えを受けている。
桜刀閃流には魔法力を応用した技が多い、ある意味この剣術って魔女とも通じているんだよね。
まあ、まだまだ不完全で朧げにしかわからないけど……
「……勘みたいなものかな」
とりあえずそう説明した、あながち間違ってもないし。
納得したような、しないような表情の二人。
そんな会話をしつつ、風を頼りに先を進む。途中、魔物が何回か出現したが、私たち一年生でも充分対応が可能なレベルの弱さだった。
二十分程で、一層の最奥と見られる大きな部屋に到着した。
途中、他のグループとも合流し気がつけばクラスメイトのほぼ全員くらいのグループに膨れ上がっていた。
「人数多いけど、これでいいのかな……」
不安そうなライカ。
「まあ、合流しちゃダメとか言われてないしいいんじゃない?」
ラプターさん、説明適当だったしなぁ……
「あ! あれじゃない?」
クラスメイトの一人が奥の方を指さす。そこには複数の魔導書が。
魔導書が置かれてる場所に駆け寄るみんな。
「……?」
ふと、何か嫌な感じがした、気のせいだろうか。
「お姉様ー! どうしたんですか? 早く取りに行きましょう!」
「あ、うん」
とりあえず私もみんなに続いて部屋の中に入る。
「あれ持って帰ればいいんですか? 少し大変でしたけどこれで無事終了ですね」
本を手に取り気の抜けた様子なテルミナ。
と、その時だった。何やら殺気の様なモノを感じた。その方向を見てみると。
「あー……まあ、このまま簡単に終わるわけないよね」
暗がりで見えづらいけど……あれ、明らかに一層のボスじゃん……
そこには、大きなナメクジのような生物が二匹、天井にひっついていた。




