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52話 ユリシア発、ユージア行き

 そうして一週間後、ついに演習の当日がやってきた。


 演習の期間は二日程だ、ユージアへは鉄道を使っていく。馬車などを使い移動するとなると、数日はかかる距離だが鉄道なら数時間でたどり着く。


 鉄道の発達のおかげで世界は随分と狭くなった。昔のようにファンタジー風の、のんびりとした冒険ができるのなんて今じゃ北大陸くらいだ。



 出発当日、私たち一年生はユリシア駅に向かう。ユリシアから向こうまでは乗り換えなしで一本で行ける。


 駅のホームには40人程の一年生が、ホームはかなり広めなので余裕があるけどそれでも窮屈な感じがする。


「……それで、なんでチカ姉が?」


 私の目の前には何故かチカ姉が。


「引率役だよ、この行事は上級生たちにもその役やらせるからね〜、私以外にも何人か二、三年生がいるよ?」


 なんてこったい、じゃあまさかミラ姉様も……


「あ、ミラージュはいないから、あっちはあっちで忙しいみたいだし」


 なろほど……まあ確かにミラ姉様はチカ姉と違って忙しそうだ。



「2番ホームに、西部方面行き列車が参ります……」


 と、そこに駅のアナウンスが鳴り響く。暫くして黒々とした大きな鋼の蒸気機関車が客車を引き連れホームにやってくる。


 この世界に来て蒸気機関車と言うものを初めて見たけど、その姿は前世からの知識として持っているSLとなんら変わりが無かった。


 ただ、あれには魔力が使われているらしい。詳しい原理はわからないけど。


「便利ですけど、こんな物が出来たら歩いて冒険する楽しみも無くなってしまいますね」


 と、テルミナ。まあ言いたいことはわからなくもない。


「鉄道での冒険もまた風情があって楽しいよ〜、じゃあ桜組のみんなは私に続いて!」


 そう言いながらチカ姉は客車に乗り込む、私やテルミナ、他の桜組の生徒もそれに続く。


 チラリと黄緑組の生徒たちの方を見る、彼女達は先頭に近いランクが上の客車に乗るらしい、菫組はさらに次の便にあるもっとクラスの高い客車に、こんな所でもクラス間の格差が……


「……う〜ん、質素」


 客車の中を見渡す、私達の乗る客車は実に質素でシンプル、全く無駄な装飾がなく少し窮屈気味だ。


 この客車にはほぼ私達桜組のメンバーしか乗っていない、ある意味貸切状態。みんなそれぞれ仲良しのグループに固まって座っている。


 やがて列車が動き出す、いよいよユージアに向けて出発だ。


 私とテルミナ、チカ姉、そして桜組数少ない……というか私とテルミナ以外で唯一の獣人、犬人族の()がボックス席に固まって座っている。


 ちなみにこの娘、入試の時、嫌味な連中に絡まれてた娘だ。私やテルミナとは割と仲がいい方だと思う。


「……」


 隣に座ってるのがチカ姉なので、彼女は緊張からか随分とソワソワしている。


「そんなに緊張しないでよ〜、あなた名前は?」


 と、隣の娘に絡んでいくチカ姉。


「は、はい! えっと、私はバラライカです……」


 控えめな様子で名前を名乗る彼女、私達は彼女をライカという名前で呼んでいる。


「ライカちゃんでいいよね? ん〜、おとなしくて可愛いね!」


 チカ姉はライカの手を握る。


「はわわわ……」


 顔を真っ赤にするライカ。はぁ、チカ姉はいつもこんなノリだな……


「ライカをからかわないでくださいチカ姉」


 とりあえず注意しとかなきゃ、チカ姉のこのノリに慣れてないライカを放ってはおけない。


「お? ベルちゃんもしかして嫉妬?」


 私に飛び火してきた。


「……遺言があったらどうぞ」


「ベルちゃん冗談だって、刀下ろして」


 やれやれ……そういえば隣がやけに静かだ、こういう時1番にチカ姉に反発するのがテルミナなのに。


 私はチラリと隣を見る。


「寝てる……」


 まだ出発したばかりなのに……



〜〜〜〜〜〜〜〜



 ユリシーズの車窓から、本日は大陸西部に向かう路線からお送りします。海都を出て数時間、左前方に見えてくるのが、遺跡の残る街、古都ユージアです。


 なんて、脳内で再生してみる。いやでもほんと……


「凄い景色……」


 まだ距離はあるというのにその迫力がここからでも伺えた。


 最初は薄らとだったけど今はかなりハッキリと複数の塔が確認できる。


「あれが古都ユージア! 凄いですねあの大きな塔は!」


 興奮気味なテルミナ。


「あの八本の塔はストーンヘンジと呼ばれてる……太古の昔に建てられ、どのような目的があったのかは全く不明……」


 手元にあった、事前に用意していた資料に目を通す。


「一説には、巨大な大砲とも言われてるわね」


 チカ姉がそう補足する、やっぱりこの人なんだかんだで博識だなぁ。


 もう一度窓から塔を見る。確かに言われてみれば、大きな大砲が天に向かって聳え立っているようにも見える。


「あれが大砲なら一体、何に向かって撃つ為に作られたんでしょうか」


 ライカが不思議そうにそう言った。


「確かに……あんな大きな大砲、使い道が全くわからないね」


 と、そんな会話をしているうちにかなり、塔を擁する古都に近づいてきた。


「当列車は間もなくユージア駅に到着致します、十分ほどの停車となります。お降りの際はお忘れ物のないよう……」


 アナウンスが流れる。


 いよいよ古都ユージアに到着する。一体この街で何をするのか。あと代表戦、ちゃんと勝てるかなぁ……

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