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49話 ミラ姉様、仲居体験①

 梅雨の中頃。ある日のこと、生徒会のお手伝いをしていた私にミラ姉様がおかしな事を聞いてきた。


「その……ベル、海猫のお仕事はどうなのかしら?」


 生徒会室、会長の専用席に座り書類仕事を片付けるミラ姉様は、ペンを止め私の方を見てそう言った。


「どうって……なにがですか?」


 私がそう聞き返すと、ミラ姉様は目を逸らす。


「別に、少し気になっただけですわ」


「……?」


 なんだろう、何かソワソワしているというか……


「い、妹がどういうお仕事をしているのか姉として把握している義務がありますし」


 そういうものなのだろうか?


「別に普通の宿屋のお仕事と何も変わりませんよ? お客様のご対応をしたりお掃除をしたり……私の場合は料理まで作らなきゃいけませんけど」


 そう説明をしてあげた。


「そう……」


 そうして、ミラ姉様は少し黙り込んでしまった。


 静かな生徒会室に外からの雨音が響く。


「……私の仕事、そんなに気になりますか?」


 なんとなくそんな雰囲気を感じたのでそう聞いてみた。


「気にならないと言えば嘘になるわね」


「……じゃあ、ウチの仕事、体験してみますか?」


 ほんの冗談のつもりだったんだけど……


「本当ですの!?」


 なんだかやけに乗り気なミラ姉様。


「え、本気ですか?」


 思わず聞き返してしまった。


「ええ! お願いしますわ!」



〜〜〜〜〜〜〜



「というわけで、そういう事情なんですけど……」


 海猫に帰り、ホーネットさんに事情を説明する。


「ええ、ベルちゃんお姉様なら大歓迎よ!」


 と、二つ返事で了承してくれたホーネットさん。


「ふふ……こういう時のために予備の服が……」


 やたら嬉しそうなホーネットさん。あぁ、ダメだこの人の悪い癖が出始めた……


 私はホーネットさんをひとまず放置して、玄関口で待っていたミラ姉様の元に行く。


「えっと、大歓迎だそうです」


「そ、そう……緊張するわね、あの女王雀蜂様が経営する宿……」


 海猫を見上げながらそう呟くミラ姉様。そういえば、前にここに来た時はホーネットさんとは合わなかったんだっけ。


「そんな緊張する事ないですよ? ホーネットさん優しいし、変なところもあるけど……」


 私がそう言うとミラ姉様は「何をバカな事を」みたいな目で私を見る。


「あの女王雀蜂様よ!? 恐れ多いわ……」


 ……改めて、ホーネットさんの凄さというか、立ち位置が分かった様な気がする。


 消失魔術の筈の治癒魔法を使える、ホワイトリリィ女子魔法学園の歴史の中で二番目に優秀な魔女(ちなみに一番はピクシー様らしい)、そう聞いてはいたけど……


「まあとにかく噂ほど堅苦しい人じゃないから安心していいですよ」


 実際あの人、普段一緒にいても、そういった雰囲気は全く出さないし私の中じゃちょっと変わった優しいお姉さんという印象だ。



 そうして中に入り、ホーネットさんの私室に向かう。


「アナタがベルちゃんの誓約姉ね! ベルちゃんもこんな美人な姉を持って……」


 そうして何故か泣き出してしまうホーネットさん。


「うっ……本当に保護者冥利に尽きるわ……」


 やっぱりこの人変だ。凄い人ではあるんだろうけど……


「冗談はそれくらいにして、ミラ姉様用の給仕服はあるんですよね?」


 私がそう尋ねると、待ってましたか! といった様子で奥のタンスから和風の給仕服を取り出した。


「……か、かわいい」


 その服に見惚れた様子のミラ姉様。というか……


「ちゃんとした大和の服あるんじゃないですか!? なんで私はずっとメイド服のままなんですか!」


 私はそう不満をぶつける、いや別にあの服も嫌いじゃないけど、羞恥プレイレベルでスカートが短い上に私一人だけメイド服とか浮いてて辛い。


「ベルちゃんはあっちの服じゃないとダメなの!」


 謎のこだわりを見せるホーネットさん。


「……随分と聞いてた話と印象がちがう方ね」


 ミラ姉様が私にボソリと耳打ちする。


「でしょ? 変わってるけど優しい人ですよ……?」


「ベルちゃーん? 私のどこが変わってるって?」


 じ、地獄耳……



 その後、私とミラ姉様は着替えを済ませる。離れで寝ていたテルミナを叩き起こし、何故かこの時間帯に温泉でのんびりしていたグリペンを無理やり引っ張ってくる。この二人仕事もせずに何をやっているんだか……いや、まあそんなに忙しい日でもないんだけど。


「というわけで、今日から私たちの仲間です」


 二人にミラ姉様を紹介。


「むむむ……バイオレット様が仲居になるだなんて、海猫も安全な場所とはいえなくなりました……」


 ぐぬぬ、とミラ姉様を睨むテルミナ。一体なんの心配をしているのだろうか。


「……あくまで体験ですわよ」


「アンタの話は聞いてるぞ! ベルの彼女なんだって!?」


 とんでもない事を言うグリペン。


「か、か、か、彼女ではありません! 私とベルは学園での誓約姉妹で……」



 私は、グリペンにからかわれアタフタするミラ姉様を見る……うん、やっぱりミラ姉様、何というか凄く和服が似合ってる。和服美人というやつであろうか。金髪ドリルの高飛車なお嬢様とのギャップが良い。


「とにかく! 私とベルはそんな関係じゃありませんから!!」


 

 グリペン、あんまりお姉様をからかわないで……後で私に文句言われる……

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