48話 不足単位はクエストで③
最後の依頼、廃墟の館探索。
一つ目と二つ目の依頼を片付けた翌日の放課後、私は海猫の離れにて出発の準備をしていた。
魔物が出る可能性もあるかもしれないので、準備は万全にしておくべきだろう。
「2人とも、よろしく……!」
腰に下げた小刀を撫でる私。私愛用の魔法具であり、愛用の武器である"桜"と"菫"。
ある意味では私のお守り的存在でもあるその二つを携え離れを出て、玄関口に向かう。
「お姉様ー! 遅いですよ!」
玄関口にはテルミナが。
「ごめんごめん、じゃあ行こうか」
テルミナと一緒に海都、中央広場の噴水に向かう。そこにいたチカ姉と合流。
「その例の廃墟って……」
依頼を受ける際に貰った地図で場所を確認する。
「ユリシアから歩いて30分くらいだね、結構かかるなぁ」
海都ユリシアの外れ、森林地帯の入り口辺りに存在するらしい。
「じゃ、いきましょうか!」
やる気満々なチカ姉。
そうして、私たち三人は出発。海都を出て調査対象である廃墟へ。街から出て街道を進む。
「謎の声ってなんなんでしょうかね、気になります」
道中、テルミナがそんな事を呟く。
「まあ、十中八九なにかしらの魔物なんだろうけど、もしかしたら……」
チカ姉が意味深な含みを持たせてそんな事を言った。
「へ、変なこと言うのはやめてください」
どうせその先に言うことは分かってる。
「……ベルちゃん、やっぱりオバケ苦手?」
「違います」
そうして、30分ほど歩き、ようやくその廃墟にたどり着いた。
「凄い……随分と大きなお屋敷ですね」
テルミナが屋敷を見上げながらそう言った。
確かに、そこの規模はかなりのものだった、きっとかなりの金持ちがここに住んでいたに違いない。
「じゃあいこうか、私は前に出るから二人はは後ろで見ててね」
前に出るチカ姉。そうして屋敷の入り口に立つ。
私達は屋敷の大扉を開き中に入った、屋敷の中はかなり荒れていた。まさしく廃墟同然。
私達は暫く中を捜索してみたが魔物らしき姿は見当たらなかった。
「なにもいないですね……ガセネタですか?」
屋敷を一通り見回ったあと私達は入り口の大きなホールに戻ってきた。
「うーん、どうしたものか……」
このまま戻って異常はなかったと報告するべきなのだろうか……
「無駄足だったかなぁ」
困った様な様子のチカ姉。
と、その時だった。天井の辺りからピリッとした鋭い殺気の様なものを感じる。
「……!?」
ホールの天井を見上げる、そこには……
「く、蜘蛛!?」
天井に張り付く巨大な蜘蛛。薄暗くてよく確認できないけど……かなりの大きさだ。
「……ッ!」
間髪入れず私達の方に糸を飛ばす大蜘蛛。なんとか躱して避ける。
「本命のお出ましかな?」
と、何故か楽しそうなチカ姉。
「そんな呑気にしたら場合ですか!?」
私は鞘から二本の小刀を抜き逆手で構える。
「ひ〜……私蜘蛛は苦手ですぅ」
ブルブル震えながらも、隣にいるテルミナは自身の固有魔法具である大きめの杖を握る。
「……また!」
再度糸を飛ばして来る、私はダッと前に出て避けずに小刀で切り捨てる。
「"照明弾"……!」
薄暗くて状況が確認し辛かったので、魔法で灯りを出す。閃光の弾がゆらゆらと薄暗いホール内を照らす。
「……でかっ!」
やっぱり大きい……私はその蜘蛛に向けて、ミラ姉様直伝の光子矢の雨を浴びせた。
低い唸り声を上げながら地面に落ちる大蜘蛛、しかししぶとくまだ動こうとする。
「"氷の拘束"!」
後ろのテルミナが呪文を詠唱する。すると大蜘蛛の足が凍り付けになり動かなくなる。
「桜閃刀流、弐の技"不知火"!!!」
剣聖さん直伝の技を蜘蛛に叩き込む。弐の技"不知火"は私が最近になって初めて使える様になった技だ、まだまだ未完成だけど……
刃に乗せた魔法力が鎌鼬の様に飛んでいき、大蜘蛛を切り裂いた。
断末魔を上げてピクピクとする大蜘蛛。やがて蜘蛛は霧の様に霧散していった。
魔物というものは、絶命しそうになると、ああやって霧の様に霧散する。未だにこの霧散する現象ははっきりと解明されていないらしい。
「ふぅ……なんとかなった」
小刀を鞘に収める、ともかくなんとかなった。
「……というか、チカ姉、わざとあの蜘蛛に襲わせたでしょ?」
そもそも、あのレベルの魔物なら多分、チカ姉のプレッシャーを感じただけで退散してしまうだろう。
「勿論、何事も経験でしょ? 初モンスター退治おめでとう!!」
……絶対面白がってただけでしょこの人。
ともかく原因と見られる魔物は退治した。これで依頼は達成だろう。
「じゃあ帰ろうか」
屋敷を立ち去ろうとする私たち。
「……?」
ふと、背後に何かの気配を感じた。
「魔物を退治してくれてありがとう……これで静かになる……」
!? な、な、な……
「どうかしましたかお姉様」
不思議そうに私を見るテルミナ。
「今の聞こえなかったの!?」
私の問いかけに首を振る彼女。おかしい、確実に女の人の声が聞こえた様な気がするのに……
「あ、ベルちゃん聞こえたんだ」
と、なんでもない様な口調でチカ姉はそう言った。
「どういう事ですか!?」
私がそう聞くとチカ姉は「いや、最初からいるのは私はわかってたし」と答える。
「いるのはって……」
タラリと冷や汗が流れた。
「さ、早く帰ろうか〜」
そうして、波乱に満ちた依頼三連戦は"無事?"終了したのであった。




