46話 不足単位はクエストで①
「単位が足りない!!」
ある日の休み時間、突然桜組の教室にチカ姉が押しかけてきた。
「見て……ファルクラム様よ……!」「はぁ……今日もお美しい」
途端に騒つく教室。チカ姉はクラスメイトの声や視線にニコニコしながら手をふり返す。
キャーキャーとはしゃぐクラスメイト。チカ姉ってなんだかんだ人気あるよなぁ……
私の方に来るチカ姉。一体何事かと思ったら、彼女は私の肩を掴み……
「ベルちゃん助けて! 単位が足りない……!!」
と、叫んだ。
「えっと……どういう事?」
いきなり教室に押しかけてきて、いきなり単位が足りないとか言われても……
「お昼ご飯奢るから任務手伝って〜!!!」
〜〜〜〜〜〜〜
「ていうか、この時期に単位が足りなくなるってわかるのは……」
「欠席日数読み違えちゃった、テヘ」
テヘ、じゃないでしょテヘじゃ。
私達は今、学園内にある自由取得単位任務の掲示板前にいた。
自由取得単位……気にはなっていたけど、結局入学してから二ヶ月あまり、特に関わる事なく過ごしてきた。
のに、まさかこんな形で関わることになるとは。
「いや〜サボり癖は怖いね」
はぁ、チカ姉が桜組な理由がわかったような気がする。せっかく頭もいいし魔法の技術もすごいのに……
「全く……ファルクラム様にも困ったものです!」
と、テルミナ。話を聞いた彼女も私たちについてきた。
「テルミナちゃんも手伝ってくれるなんて嬉しい!」
テルミナに抱きつこうとするチカ姉。しかし彼女それをかわす。
「勘違いしないでください! お姉様が変なことされないか監視のためですから!」
ツンデレ的な態度を見せる。
「わかってるって……んー、どれがいいかなぁ」
掲示板を眺めるチカ姉。掲示板には様々な依頼が貼ってあった。
指定アイテムの納品、魔物の討伐……ユリシア駅の掃除? なんか普通のバイトみたい……
「これなんかどうですか?」
テルミナが指をさす、どれどれ……"踊りの指南・二単位"。
ホント、なんでもあるなこれ……
「これやる?」
え、いやいやチカ姉本気ですか?
「ダンスは……苦手です」
取り敢えず否定の意思を出しておいた。もっと他にまともそうなのはないものか……
その後、一通り掲示板を見てみる。種類が多くて、これ選ぶのも大変だなぁ……どの任務も、大体一、二単位分くらい。
「お店のお手伝いとかもありますね!」
テルミナが掲示板の一角を指差しながらそう言った。その辺りは書店や飲食店のお手伝いのような接客関連の依頼が。
なんか本当にアルバイトみたい……
「よし! 決めたこれと、これと、これ!!」
チカ姉が掲示板から依頼書を引っ剥がす。そうして私たちにその紙を突きつけた。
「どれどれ……」
学食のお手伝い・一単位
ユリシア駅、駅業務のお手伝い・二単位
海都郊外にある廃墟の探索・三単位
「三つもやるんですか? どれだけ単位落としそうなんですか……」
「えへへ、照れるなぁベルちゃん」
褒めてない。
「見せてください」
チカ姉から依頼書をひったくる、まず一枚目、学食のお手伝い。これは単純な内容だ。普段私たちが利用している学園の食堂のお手伝いするだけ。これだけで一単位貰えるのか……
そして二枚目、ユリシア駅。駅業務のお手伝い。この世界は近年になって、魔導蒸気機関というものが発明され技術の進歩が進んでいる。鉄道もその一つ。
海都ユリシアは海運の中心地でもあると同時に陸上交通の要所でもある。中でもユリシア駅は各地を結ぶ重要拠点であり、帝国鉄道省により運営され大陸の大動脈となっているエルトニア鉄道にとって欠かせない駅の一つだ。
「ユリシア駅とか、見事に激務そう……」
最後に三つ目。これが少し引っかかっていた。廃墟の探索……これだけで三単位。あきらかに何かありそうなんだけど……
詳細を確認する。海都の離れ、森の近くにある廃墟の館から最近奇妙な声が聞こえる、その確認と調査を任せたいとの事であった。
「……いや、無理です」
私はチカ姉に紙を突き返す。
「なんで?」
不思議そうに私を見るチカ姉。
「いや、だって……」
こ、明らかにそっちの類のやつだよね……! 私オバケとかマジで無理なんだけど……!!
と、そんな事を口に出すわけにもいかないのでそれっぽい理由を考える。
「これだけで三単位とか確実に怪しいでしょ! 何か他の依頼を……」
「ベルちゃん怖いの? オバケ苦手?」
……この人、容赦ない。
「ふふん、だいじょうぶです! いざとなったら私が守ります!!」
何故か自信満々げなテルミナ。
「私もいるし、怖かったら私の背中に隠れててね♡」
逃げ道はないようです……
〜〜〜〜〜〜〜
その後、チカ姉は三枚の依頼書に私たちの名前を書き学園に提出。早速今日から依頼に取り掛かる事になった。私たち三人はまず学食のお手伝いから取り掛かる事にした。
「ベル……あなた何をしていますの?」
学食に来たミラ姉様。
「えっと……深い事情が、ともかく注文をどうぞ!」
カウンターに立つ私はニコニコとした表情を作ってそう尋ねた。
「はぁ……どうせファルクラムのバカに巻き込まれたんでしょうけど」
鋭い、どうして私のお姉様がたはこうも鋭いのか。
はぁ、ホントなんでこんな事してるんだろう……




