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45話 雨と狐と猫

 ザァー……


 外から聞こえて来る雨音。雨音って私は好きだ。聞いてると心が落ち着いてくる。


「最近雨多いなぁ……」


 ボソリと呟く私。


 海都周辺の気候って日本とよく似ている。所謂、温暖湿潤気候ってやつ、だから時期的に見ればこれって梅雨になるんだよね……


「雨音は好きだけど梅雨は嫌いだよ……」


 ジメジメするから……蒸し暑いのは嫌いだ。


「……」


 それにしても静かだ、雨音以外は殆ど余計な音がしない。


 今日はテルミナもグリペンもいない、食材の買い足しに出かけていった、ホーネットさんはラプターさんに用事があるとかで学園に。今この"海猫"には私一人しかいない。


「ふぅ……闇属性の魔法は闇子(ダークマター)と呼ばれる物質を操作して……」


 私は気持ちを切り替え、ちゃぶ台に広げた教科書を読み返す、授業のおさらいだ。


 私は今、"海猫"の休憩室にいた。今日は休日、客室の掃除を終え今ここで休憩をとっている。調理場の隣にある四畳半ほどの小さな部屋。私達仲居三人組の溜まり場だ。


 まあ休憩といってもお客様もいないし今日はこのままずっと暇かなぁ……剣聖さんも三日ほど、ここを開けるって言ってたし。


「……」


 ちらりと(わき)を見る、そこにはあの光属性魔法についての専門書が。


 昨日、放課後に立ち寄った大図書館。治癒魔法の文献について探した。そうして見つけたこの本、ラティ先輩に詳しく場面選択の魔法をかけて貰った。


「ラティ先輩か……」



〜〜〜〜〜〜



「ベルちゃーん! 今帰り〜?」


 後ろから私に抱きつくチカ姉。


「はい……って、くっつかないでください」


「いいじゃん〜あれ? その本どうしたの?」


 私の手にある、あの消失魔術に関する専門書に視線を向ける彼女。


「借りたんですよ、図書館で……そういえばチカ姉、三年のプラティパス先輩って知ってます?」


 私がそう聞くと、チカ姉はようやく私から離れた。そして「ラティ先輩の事?」と返す。


「……多分その人です、大図書館で会ったんですけど」


 私は図書館でのやりとりをチカ姉に話す。


「ふーん、珍しいね……あの人あんまり他人に興味なさそうなのに」


 と、意外なことを言うチカ姉。


「そうですか? そんな感じには見えませんでしたけど……」


「あの人、不思議な人でね。もう何年も留年してるらしいの」


 留年? あの人が?


「別に成績が良くないって訳でもないらしいんだよね、菫組だし、何故か毎年単位を調整して留年してるんだよね」


 そうだったのか……一体なぜ? あれ? というか留年しまくってるなら私よりももっと歳上なのあの人!?


「ラティ先輩って何歳なの……?」


 初見で私よりも年下と確信するレベルのロリっぷりだったのに……


「あの人、殆ど図書館にいるし。大図書館の女帝なんてあだ名もあるよ」



〜〜〜〜〜〜



 大図書館の女帝……超留年生……色々と謎すぎる人だなぁ……


 私は昨日借りた本を手に取る。


 かけてもらった魔法の効力がまだ残っているのか、該当ページを開くとまだあの映像が再生される。なのでなんとなく借りてきてしまった。


「ラーズグリーズの悪魔、か……」


 名前くらいは聞いた事あったけど、治癒魔法に関係していたとは。


 でも、あれって"星空"みたいなお伽噺っぽいけど……本当にあった出来事なのだろうか?


「ぬおおおお!! ひまじゃー!!」


「……」


 思考がおもいっきり遮られる。いつの間にか目の前には神社の使いキツネっ娘さんがいた。


「何してるんですか?」


「見てわからんのか? 暇を持て余しておるんじゃ」


 ……神様の使いがこんなダラけてていいのだろうか。


「時にお主、稲荷寿司はまだか?」


 と、偉そうに私に聞いてくる彼女。


「はぁ……」


 もうそろそろお昼か。


「ちょっと待っててください」


 私は教科書をパタリと畳んで立ち上がる。そして調理場へ。


 調理場の隅にある箱の扉を開ける。これは氷と魔法を駆使した簡易的な冷蔵庫の様なモノだ。かなり重宝している。


「なんも余ってないや……」


 予約のお客様も剣聖さんもいないから食材はあまり無かった。


「お茶漬けでいいか……」


 ご飯に煎茶をかけるお茶漬け、簡単に出来るし美味しいので私たちのご飯の定番ともなっていた。


「煎茶……」


 ガサゴソと棚から茶葉を引き出す。この煎茶の茶葉は東屋から仕入れているものだ。あそこは東方から流れてきた品が多い、正直ウチにとっては欠かせない重要な仕入先の一つだ。


 かまどで湯を沸かしお茶を淹れる。そのまま余ったご飯が盛られたお茶碗に淹れたお茶を注ぐ。


 本当は何かここに乗せた方が美味しんだけど……見事に食材が少ないので今日は何も乗せられない。


 ふわりと、緑茶の匂いが香る。この匂いを嗅ぐと安心感がある。これも前世からの日本人としての感覚からくるものなのだろう。



「はい、どうぞ」


 休憩室で待ち侘びていたキツネさんの目の前にお茶碗を置く。


「お茶漬けか……って、何も乗ってないのか?」


 不満そうなキツネさん。


「乗せるものがなかったので」


「はぁ〜、まあよい……」



〜〜〜〜〜〜〜



「……」


 静かな休憩室、外からの雨音だけが響いてくる。


「ふぅ……」


 そろそろ、勉強も終わりにしようかな……


「すぅ……すぅ……」


 チラリと隣に目をやると気持ちよさそうに寝ているキツネさんが。私のものよりもふもふしてボリュームのある尻尾がフリフリと揺れている。


「気持ちよさそうに寝ちゃって……」


 私はそばに置いてある湯飲みを手に取る。中に入れてあるのは余った緑茶。


「冷めてる……」


 湯飲みを置く、もう時刻は夕方くらいだろうか。


「んっー……」


 大きく伸びをする。



 なんか退屈な一日だった……まあ、たまにはこういうのも悪くないかな?

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