44話 銀髪美少女と悪魔の伝説
「えっと……この辺り?」
私は今、学園の大図書館にいた。見渡す限りの本、本、本……相変わらずここはとんでもなく広い。
「ホント、ここって迷宮だよね……」
一度迷ったら出て来れなさそうで怖い。
コツンコツンと、静かな図書館に私の足音が響く。個人的にはこういうシーンとした雰囲気、私は苦手だ。なんか落ち着かない。
「光属性魔法についての文献……一つの属性だけでこんなに……」
私の今いる付近一帯にあるのは、全て光属性の魔法文献に関しての本だ。ここのエリアだけでも結構な広さ。
……ホント、世界最大の魔法文献図書館というだけある。
「これだけあるなら、治癒魔法に関しての本もあるはず……」
今日私は、ここに治癒魔法の文献を探しにきた。
消失魔術と呼ばれる治癒魔法。私はそれが扱える数少ない魔女だ。ただ私はそれについて、全くと言って良いほど知識がない。
……家にあった魔導書をちょっと読んだら何故か使えたしなぁ。
「さて、じゃあ探しますか……」
そうして、私は片っ端から本棚を漁る。
三十分ほど関連資料を探し続け、ようやく「消失魔術に関する考察 光属性魔法編」という本を発見した。
「や、やっと見つけた……」
他にもまだありそうだけど、もう探す気力が持たない。ホント本多すぎ……
私はその本を持ち、適当な読書スペースに座る。
「……こんなの読んで理解できるのかな」
発見した本は如何にもな専門書というか、分厚くて表紙もしっかりしていて。あきらかに初心者向けではない。
私は机に本を置き、ペラペラとページを捲る。
「……?」
な、何書いてあるのかわからない……もはや暗号の領域でしょこれ。
「専門用語多すぎ……」
私も、一応魔法学園で学ぶ身ではあるけど、流石にこの時期の一年生が理解できるレベルじゃないよこれ……
私はため息をつきながら本を閉じた。
「……ミラ姉様かチカ姉に説明してもらおうかな」
そうでもしないと、とても内容を理解できそうにない。
「何かお困りですか?」
その時、背後から透き通る様に綺麗な女の子の声が聞こえた。
私は振り返る。そこにはサラサラとした綺麗な白銀の色をしたロングストレートの髪型の美少女がいた。
彼女の頭にはまるで芸術品と思わせるかのような装飾が施されたカチューシャみたいなものが、魔道具の一種だろうか。
……か、かわいい。何この娘、お人形さんみたい。なんだか凄く神秘的な雰囲気がする娘だなぁ。
「あの、あなたは?」
私は尋ねる、彼女は菫色の制服を着ていた、多分ウチの生徒なんだろうけど……
「私は三年のプラティパス、よろしくね」
三年生!? 嘘でしょ絶対同じ学年だと思ってた……めっちゃロリっぽい雰囲気だし……
というか、三年生に話しかけられたの初めてかもしれない。基本三年生とはあまり関わりないからなぁ……
「えっと、私は一年生のベールクトです」
とりあえず、私も名乗り返す。
「知っているわ、あなた有名人だもの」
帰ってきた言葉に思わず苦笑いしてしまう。有名人、確かに学園トップ2を姉に持つ私はいろんな意味でこの学園では有名な存在だろう。
「それで、何か困り事?」
「あー……実は」
私は事情を説明する、もちろん治癒魔法が使える事は伏せて。
「……事情はわかったわ、治癒魔法について詳しく知りたいのね、貸してみて」
私は彼女に本を手渡した。
「"場面抽出"……指定、治癒魔法"……」
彼女は頭のカチューシャに手を右手を添えながら呪文を唱えた。
すると、彼女が左手に持っている例の専門書が淡い光を放ち始める。
そして……私の目の前にまるでプロジェクションマッピングのように空中に映像が投影された。
……すごい、なんなのこの魔法。
そうして、流れ始めた映像はまるでアニメのようなものであった、一体どういう仕組みなのか。
そうして、その映像は治癒魔法が消えた経緯について詳しく解説していた。
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"ラーズグリーズの悪魔"
かつて、魔界にはラーズグリーズと呼ばれる最上位の悪魔の少女がいました。
そんな彼女は、ユリシーズにおいて、ある1人の人間の少女と出会いました。彼女の名前はケストレル。彼女は光属性の魔法に才があり。特に、治癒魔法については治せないものがないと言える程の強力な力を持っていました。
彼女と仲良くなったラーズグリーズ、しかし、ある時その友達が住む街が、暴走した最上級の魔物、"シンファクシ"によって襲われます。
シンファクシと人間の戦いは最早戦争そのものでした。そんな中、ケストレルは負傷者の為に町中を駆け回ります。
そんな様子を見た彼女、ケストレルと彼女が住む街を守りたいと思い、自らの力を解放して魔物と激闘を繰り広げました。
争いの末、魔物を倒したラーズグリーズは人間たちから英雄として讃えられました。しかし……
最大限まで治癒魔法により魔力を使い果たしたケストレルは命を落としてしまいました。
「他の人間はたくさん助かってるのに、どうして彼女だけ死ななければならなかったの?」
ラーズグリーズは絶望します。
「何が最強の治癒魔法だ、使う人すら守れない魔法なんてこの世から消えてしまえ」
ラーズグリーズを不憫に思った魔王は、シンファクシを倒した功績として。何か願い事を叶えようと彼女に言いました。
彼女の願いにより、ユリシーズから治癒魔法は消失したのです。
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「これが……」
「ええ、治癒魔法がこの世界から消えたとされる伝承ね」
こんな裏話があったとは……
「あれ? でもこの話によれば治癒魔法は完全に消えたって、でも……」
「あくまで伝承よ、これが全て正しいとは限らないわ」
そりゃ、そうだけど……
「知りたいことはわかった?」
「あ、はい……とりあえず、ありがとうございます」
私は彼女に頭を下げる。
「ええ、それじゃあね」
そう言って彼女は去っていた。
「なんか不思議な人だったなぁ……」




