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43話 スイカの異常発生

 お泊まり会から数日後、"海猫"を揺るがす、ある大事件が発生する。


 その日は。私はいつもの様に起きて、いつもの様に布団を畳み、いつものようにガラリと障子を開けて、いつものように離れの縁側に立つ。


 だけど、私の目の前に広がっていたのはそんな"いつも"を土台からひっくり返す様な光景であった。


「な、なにこれ? どうしてこうなった……?」


 目の前の庭園は……一面スイカの実で埋め尽くされていた!!


「なんで……? 昨日まで何もなかったのに……」


 ウチの庭園には確かに、スイカのような野菜が自生している。たまに実を切り取り食べたりしている。


 けど、それはほんの一部。庭園の隅に転がっている程度だった。


 しかし、今は……


「ベル、どうかしたのかって……うわ! なんだこれ!!」


 驚くグリペン、そりゃそうだ。


「どうしてこんな事に?」


 私と全く同じ反応をする彼女。


「さぁ……」


 私は恐る恐る縁側から降りて庭園に足を付ける。


「す、すごい……一面スイカだらけ……」


 見渡す限りスイカスイカスイカ……和風の庭園は今や大量のスイカで覆い尽くされていた。


 私は足元にあったそのうちの一つを持ち上げる。実が詰まってずっしりとした重さを感じる。


「それってなんの野菜だっけ?」


 グリペンが尋ねる、この世界ではスイカは割とマイナーな存在らしい。多分他の名前が存在するんだろうけど……


「スイカだよ」


 私の中でこの野菜は完全にスイカとして認識されている。だからその名前を教えてあげた。


「にしても、この庭園って前々から少し変だと思ってたけど……」


 そう、ここってスイカだけじゃなくて南国風の赤いハイビスカスみたいな花が咲いていたりグロテスクな食虫植物が生えていたり、割と無茶苦茶な庭園だった。


 最初は放置されてジャングルみたいな事になってたけど……ホーネットさんが魔法でなんやかんやしてたんだよね……


「まあ、確実にそれが原因だよね」


 思い当たる事といえばそれくらいしかない。あの人ここに一体どんな魔法をかけたんだ……?


「これで暫くは食料に困らないな!」


 グリペンは辺りに転がっているスイカをペタペタ触りながらそう言った。


「……まあ、ともかくホーネットさんに報告しなきゃ」



〜〜〜〜〜〜〜



「凄い事になってるわね〜」


 庭園を見渡しそう呟くホーネットさん。


「"毒素検知(ポイズンサーチ)"……」


 ホーネットさんは自身のイヤリングのような愛用魔法具を触り呪文を唱える。


 "毒素検知"はその名の通り人体にとって危険な毒を察知できる光属性の魔法だ。


 この光景を見たホーネットさんは「こんなに異常発生してると、何か突然変異で毒とか持ってそうで心配……」と呟いた。


 まあ確かに、その発想はなかった……


「うん、全部危険はないみたいね、至って普通の新鮮な野菜よ」


「そうですか……」


 取り敢えず一安心。


「あの、ホーネットさんここの庭園綺麗にする時どんな魔法使ったんですか?」


 私はホーネットさんに聞いてみる。


「変な事はしてないわよ? 単純に庭のお手入れを早く済ませられる補助の魔法を使っただけ」


 ホーネットさんが何かしたのかと思ったけど、そうでは無いようだ。


「まぁ、色々なところから手に入れた植物の種を撒いておいたのは私だけど」


 ……前言撤回、やはりこの庭園がカオスな事になっているのはホーネットさんのせいだった。


「でもここまで繁殖するなんて……」


 困惑気味のホーネットさん。


「はぁ……もういっその事スイカ農家にでもなりますか?」


 これを売り捌いて少しでも借金返済の足しにしようかな……


「それいいな! これ全部売ったらいくらになるかな〜」


 ワクワクした様子のグリペン。


「お姉様〜おはようございます……」


 と、離れからテルミナが出てきた。遅めの起床だ。


「……!? こ、こ、これは……」


 庭園の有り様を見て驚くテルミナ。そりゃそうだ。


「…………」


 そして、何故か黙り込んでしまう彼女。冷や汗をダラダラと流してる。


 ……なんか変だ。


「テルミナ、何か知ってるでしょ?」


 私は彼女に問い詰める。反応が怪しいってレベルじゃない。


「な、な、な、何も知りません!!」


 隠し事が下手ってレベルじゃないなこの娘……


「ふぅ、なら仕方ない。無理矢理にでも話してもらうよ」


「お、お姉様?」


 私はテルミナに近寄り……


……彼女のわき腹に手を添える!


「お姉様何を……んっ、あぁん!! く、くすぐったいでしゅ……!!」


 そうして、服の上からおもいっきりくすぐってやった。


「ほれほれ〜早く喋らないと大変な事になるよ〜」


「わかりました……! 話しますから許してください〜……!!」


 最初から素直にそうしておけば良かったのに。


「ベル……お前鬼畜だな」


 と、グリペンが。なんとでも言うが良い、こうして情報を得られるのだから!


「それで、どうしてこんな事に?」


 私は改めてテルミナに聞く。


「実は……」


 テルミナは重い口を開き事情を説明し始めた。


 曰く、普段食べているときに密かに種を溜めていたらしい、そうして昨日の夜。庭にその種を蒔き……


「こ、この魔法を試してみたんです……」


 テルミナが一冊の魔導書を差し出す。表紙には「植物の急速成長魔法に関する考察」というタイトルが。


「で、この本に載ってる魔法を試したと……はぁ、人騒がせにも程がある……」


 呆れ気味のグリペン。


「す、すみません〜!」


 犯人はわかったけど……これ、どうしよう。


「スイカ農家になるか?」


 グリペンが揶揄うように私がさっき言った言葉を真似する。


「はぁ……」




 そうして、その後暫く食卓はスイカ三昧になってしまった……

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