41話 自慢の姉
「んーっ……おわったぁ……」
大きく伸びをする私、ようやく勉強会が終わった。なんだかんだで二時間以上やっていたような気がする。
「おつかれ〜」
私の頭を撫でるチカ姉。
「ふぅ……あなたの学力を見るにまだまだ足りないくらいですが……」
物足りなさげな様子のミラ姉様。
「いやもういいでしょ、それより温泉入りに行こうよ!」
「温泉……ですか?」
そんなものいったい何処に?
「もしかして、"海猫"のかしら?」
あぁ……この海都でわざわざ地下からお湯を引いている場所なんてウチくらいしかないか。
「そうそう、私あそこ凄く気に入っててさぁ……こんな機会でもないとベルちゃんと一緒にお風呂入れないでしょ?」
目をキラキラと輝かせるチカ姉。
「ベルちゃんはホーネットさんに話通しておいてね!」
「わ、わかりました……」
まあ、ホーネットさんに言えば宿泊せずに温泉だけに入らせてもらえるだろうけど……
「ミラージュも一緒に行くよね?」
「……ええ、行きますわ」
そうして、私達は別邸を出て"海猫"に向かう、バイオレット家別邸からは大体徒歩15分くらいでたどり着いた。
私はホーネットさんに断りを入れ、温泉に向かう。なんだかこうしてお客様みたいにここを利用するのって、普段ここで働いている私からしたら新鮮だ。
脱衣所のカゴに服と着替えを放り込みガラリと引き戸を開けて浴場に入る私たち。
「こ、ここが……」
若干緊張した様子のミラ姉様。
……それにしても、2人ともスタイルいいなぁ。
私はチラリとチカ姉とミラ姉様を見る。2人とも出るところは出てて、引っこむところは引っ込んでて……
「はぁ……」
自分の身体を見る、私の胸は……どうしてこうも育たないのだろうか?
「何食べたらそんなスタイルよくなるんですか……?」
思わずボソリと呟いてしまう。
「ベルちゃん何か言った?」
「いえ、何も……」
はぁ……ホント不公平だ。
世の中に対する不満を心の中で弾けさせながら私は身体をお湯で流す。
「大丈夫だって、まだ成長期でしょベルちゃん!」
「……余計なお世話です」
〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ〜、やっぱりここの温泉は最高だね……」
温泉から上がり、一息つく私たち。
「どうよ、気に入ったでしょミラージュ!」
ふふん、と鼻を鳴らしながら偉そうな態度を取るチカ姉。
「まあ、悪くはありませんでしたわ……景色も良かったですし」
どうやらミラ姉様はウチの温泉を気に入ってくれたようだ、ここの仲居としてはやはり誇らしいし、嬉しい。
「……ベルは普段ここで働いているのですわよね?」
ミラ姉様が唐突にそんな事を聞いてきた。
「え? はい、そうですけど」
「ちょっと見て回ってもいいかしら?」
彼女はどうやら海猫に興味が湧いたようだ。
そうして私はミラ姉様を海猫を普段お客様にするのと同じ要領でご案内した。チカ姉は「先に別邸に戻ってるよー」と言ってさっさと出て行った。
そういえばテルミナ見かけないけどどうしたんだろう……気になってホーネットさんに聞いてみたらラプターさんに連れられ学園に行ってしまったらしい。また授業の準備の手伝いでもさせられているのだろうか。
海猫にいなくてよかった……私まで連れて行かれるところだった。
「ここは?」
うちの名所でもある小さな稲荷神社を興味深そうに見るチカ姉。
「ここは大和にいる神様を祀っている場所ですよ」
簡単に説明する。
「教会みたいなものかしら……入り口にあるこの不思議な構造物は何?」
不思議そうに鳥居を見上げる彼女。
「鳥居というものです」
「とりい? 不思議な名前ね……」
そうして、最後はここ一番の絶景ポイント。庭園端のにある海都を一望できるポイントに案内した。
「さっきの露天風呂から見える景色も良かったけど……ここも素晴らしい景色ね」
「でしょ、私もこの場所大好きなんです」
眼下に広がる数え切れないほどの建物。夕陽を受けキラキラと輝く海。
「……ベル」
ミラ姉様の金髪ドリルが海風を受け揺れる。なんだか表情が艶っぽいというか……夕陽のせいかな?
「その……あなたは私の事どう思っていますの?」
「えっと、どうって?」
質問の意図がよくわからない。
「……私はあなたの誓約姉としてちゃんとやれてるかしら」
不安げな様子のミラ姉様。
「妹が出来るなんて初体験ですし、私はほら……普段あなたにはキツい態度を……」
ああ、なんだそんな事か。確かにミラ姉様は厳しいところもある人だけど……
「私はミラ姉様が大好きですよ?」
「だ、だ、だ、大好き!?」
あれ? 何か間違えてしまったかな……まあいいか。
「確かに、初めて会った時とかは印象最悪でしたけど……成り行きでミラ姉様と誓約して、それから色々な事があって、危ない時は私を守ってくれたり、私にとっては自慢の誓約姉です」
心の中で「私は?」というチカ姉の声が聞こえた、今は引っ込んでてください。
「〜〜〜ッッ!!」
ミラ姉様が私から目を背ける。
「どうかしましたか?」
なんだか顔が赤い様な……
「なんでもありません!! ほら、さっさと別邸に戻りますわよ!」
スタスタと歩いて行くミラ姉様。
「はぁ……ごちそうさま」
と、いつの間にか近くにいたグリペンにそう声をかけられた。っていうか見てたなら声くらいかけてよ……




