39話 華麗なるバイオレット家
星空祭&学園祭から一週間ほど経ったある日の放課後の事。私はミラ姉様に連れられ生徒会室にやってきていた。
「えっと……ミラ姉様どうかしましたか?」
何故生徒会室に連れて来られたのかよく分からなくて困惑気味の私。
「ベル、あなたに頼み事がありますの」
頼み事? 一体何を頼まれるのであろうか……
「ワタクシの家に来て欲しいのですわ」
「それはどういう意味で……貴族の家にお呼び出しを食らうなんて、私なにかしましたか?」
ミラ姉様の家、バイオレット家は有能な魔女を何人も輩出している有名な家だと聞いている。私はあまり貴族世界の事について知らないけど。確か海都のすぐ近くの領地を治める侯爵家だったような……
「別にそういうわけではありません」
と、首を振るミラ姉様。
「それに来て欲しいのは海都にある別邸ですわ」
「はぁ……」
出た、別邸。まあ侯爵家なら持っていても不思議はないか。
「それでは、早速行きますわよ」
と、生徒会室をさっさと出て行くミラ姉。
「あっ、ちょっと待ってくださいよ……!」
あれ? そういえば結局なんでそんな場所に連れて行かれるのか聞かされてない……
そうして、ミラ姉様に連れて行かれる私。バイオレット家の別邸は学園から歩いて10分ほどの場所にあった。
「こ、ここが……」
辿り着いた場所はそれはもう、いかにもな別荘であった。それ程大きくはなかったけど豪華な作りなのが外からでも見て取れる。
門を通り、建物の中へ。
「おかえりなさいませお嬢様、そちらの方はベールクトさんですね、話は聞いております」
お出迎えされたのは美人なメイドさん。私はつい彼女の着ている服に目がいってしまった。
「なにか?」
「いえなんでも……」
大人な美人さんが着るとこうも雰囲気が違うのか、普段の私は……
「エタンダール様がお待ちです、ご案内いたします」
と、メイドさんに連れられて外にある広めの庭園に。
「あの……エタンダール様って?」
私はミラ姉様にこっそりと聞いてみた。
「ワタクシの姉ですわ」
あ、姉? なんでまたそんな人が……
疑問を持ちつつも、私は素直に2人について行く。
「ミラージュ様とベールクト様をお連れしました」
庭園の一角、洋風の東屋のような場所にその人はいた。
「お久しぶりですエルお姉様」
「ええ、元気そうで何よりですミラージュ」
エルお姉様と呼ばれた人物が椅子から立ち上がり、こちらに近寄ってきた。
……なんだか凄く雰囲気がミラ姉様に似ている。実際に血が繋がっている姉妹というのはやはりこういうものなのだろうか。
「それでこの娘が……」
私の方を見る彼女。
「えっと、ベールクトです、はじめまして。"海猫"という宿屋で働きながらホワイトリリィ学園に通っています」
取り敢えず名前と身分を名乗った。
「ミラージュから話は聞いていますわ、貴女がミラージュの誓約妹なのよね?」
と彼女は興味津々な目つきで私を見つめる。
「はい、そうです……」
すると彼女は突然私に抱きついてきた……!
「ちょ……なにを……」
「この娘すっごく可愛いわね〜!!」
あ、この人ホーネットさんと同じタイプの人だ……
「はぁ……エルお姉様! ベルから離れてください……!」
呆れ気味な様子で私からエタンダール様を引き離すミラ姉様。
「だって〜……可愛いんだもん、それにミラージュの妹なら私の妹でもあるのでしょ?」
なんという暴論であろうか。そもそも私とミラ姉様は普通の姉と妹の関係じゃないし……
「で、何故海都に?」
ミラ姉様が彼女にそう問いかける。
「ミラが誓約したって話を聞いてねぇ〜、あのミラが誓約だなんて……」
そうして再び私を見るエタンダールさん。
「こんなに可愛らしい仔猫ちゃんと結ばれるなんて……お姉ちゃん感慨深いわ!」
彼女は私の手を握る。
「不器用な娘だけど、これからも末長くミラと幸せに……」
「エルお姉様!!! とんでもない誤解を招く様な言い方は辞めてください!」
怒鳴るミラ姉様。
「恥ずかしがっちゃって、可愛いわね。誓約を結んだ姉妹は実際にそのままお付き合いをするパターンも多いし2人もいずれ……」
「お・ね・え・さ・ま!!!」
……あのミラ姉様が完全に遊ばれている。
「はぁ……そんな事を言う為に海都に来たんですか?」
少し疲れ気味の様子なミラ姉様が強引に話題を変えようとする。
「いやいや、ここに来たのはちゃんとした理由があるわ。私、ホワイトリリィ学園に赴任することになったから」
衝撃の事実をサラリと言う彼女。
赴任? 学園に? この人が……?
「は、はぁぁぁ!? 帝都の国立病院に就職するはずじゃ……」
動揺を隠せない様子でそう呟くミラ姉様。
「魔法学園からもお誘いがあってね、こっちに来ることにしたの」
エタンダールさんがそう答える。
その後、私はミラ姉様から彼女の経歴を聞かされた。エタンダール様はホワイトリリィ学園出身の魔女だそう、学園卒業後に帝都の医科大学に進み、医者を目指しながら魔法の医療転用について研究を進めていたらしい。
なんという経歴の持ち主……
「学園にいた方が研究を進められるし……それに気になる情報が入ってきたから」
気になる情報?
「今年の新入生には消失魔術の治癒魔法を使える娘がいるって噂を耳にしたの」
え……? いやいや、それってもしかして……
「ベールクトちゃん、そういう話聞いたことない?」
ニコニコと笑いながら私に質問する彼女。
わ、私の事噂になってる……!?




