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38話 私のお姉様②

「ベルちゃーん! ちょっといいかしらー?」


 お昼休憩の時間。なにやらお姉様を呼ぶホーネットさんの声が聞こえました。


「なんだろう……ちょっと行ってくるね」


 若干冷めたお茶をゴクゴク飲み干して立ち上がり、私達の溜まり場である休憩室を出るお姉様。


 ホーネットさんは"海猫"の経営者であり、女王雀蜂(クイーンホーネット)の異名でも知られる有名な魔女(ウィッチ)です。優しくて凄い人なんだけど、ちょっと変わった人でもあります。



「え……またこんな服作って……」


「いいから着てみて! 絶対似合うから!」


 と、二人の会話が微かに聞こえてきました。


「あの人また何か新しい服を作ったんですか……?」


 ホーネットさんは服を作るのが趣味だそうです。よくお姉様や私、グリペンさんに自分の作った服を着せてきます。今回も多分それでしょう、お姉様曰く"コスプレ"なる行為だそうです。果たして今回はどんな服を作ったのでしょうか……


 気になったので2人のところに行ってみる事にしました。


 2人は一階にあるホーネットさんの私室に居ました。


「お姉様〜、今度はどんな服を着せられてるんですか〜?」


 襖をガラリと開けると、目に入ったのは……


「ちょっとこれ……露出度高すぎないですか?」


 恥ずかしそうな様子を見せるお姉様。着ていたのは東方風の露出度が高めなドレス……! 肩や足が出ていてとてもセクシーです!


「お姉様! 素敵です!」


「ちょ、テルミナ……あんま見ないでよ……!」


 お姉様はお胸があまり出ていないので、それが逆にこのドレスでスラリとした印象を持たせ、大人の雰囲気を醸し出しています。お胸が大きかったらこんな大人な雰囲気は出ないでしょう!


「テルミナ、なんか凄く失礼な事考えてるでしょ?」


 私を睨むお姉様。


「いえ! そんなことは!」


 失礼だなんて……! むしろ私はお姉様を褒め称えていたのに!


「似合ってるわよ〜ベルちゃん! ねえ、暫くその格好でお仕事を……」


「絶対嫌ですからね!!」


 その後、どうしても着て仕事をして欲しいホーネットさんvs絶対に着て仕事をしたくないお姉様で子供みたいな喧嘩になったのもよくある事です。因みに私にもドレスを作ってくれた様で、あとからプレゼントされました。機会があったら着てみようかなぁ……



〜〜〜〜〜〜〜



「じゃあまずはいつものように斬りかかってきて」


「は、はい」


 夕方、私は今離れの縁側に座ってお姉様と剣聖様の剣術の鍛錬を眺めています。


 お姉様の両手には小刀を模した木の剣が。お姉様は小刀と呼ばれる大和の武器を持っています。


 この旅館に鶴の剣聖と呼ばれる英雄様が長期で滞在しています、最近になってお姉様はこのかたから剣術を教わるようになりました。


「はぁっ!」


 木の剣で斬りかかるお姉様。それを簡単に躱す剣聖様。


 私は鍛錬の様子を眺めながら先日の学園祭での出来事を思い出します。あの謎の剣士……剣聖様やお姉様と同じ東方の刀を使う少女。


 悔しいですが私やお姉様は彼女に全く歯が立ちませんでした。あの少女は化け物じみた強さです。


 あの一件があってから、お姉様はここ数日、前よりもずっと剣の鍛錬に力を入れているような気がします。


「剣術を極めた魔女……もしお姉様がそうなったら……」


 誇らしさと共に何処か寂しさも感じてしまいます。


 でも、私は剣術については全くのど素人。剣術使いの魔女として隣に立てる自信はありません。ならば……


 私は立ち上がり、離れの部屋に入ります。そうして学園で使っている教科書を取り出し自習をする事にしました。


 お姉様が剣術を極めるなら、私は魔法や魔術を極めて隣に立てる様に……



「来年の代表魔女(エトワール)には私が……!」


 代表魔女、ホワイトリリィ学園で一番の魔女であり、全ての生徒の憧れ。今はミラージュ様が代表魔女です。あの人はファルクラム様に振り回されている印象がありますが、魔法に関しては間違いなく学園でトップクラスの実力だと思います。


「私も頑張らなきゃ!」


 新たなる決意を胸にした瞬間でした。



〜〜〜〜〜〜



 そうして夜、一日の終わり。夕食を食べたお姉様と私は温泉で一日の疲れを癒していました。


「癒されますねぇ……」


 一日の終わりにこうして毎日温泉に入れる、私たち仲居の特権です。今は剣聖様以外のお客様もいないしゆっくり羽を伸ばせます。


「はぁ……疲れた……」


 と、呟きながら自分の腕や脚を揉むお姉様。


 お姉様は先程の様に暇があれば剣聖様に剣術の指南を受けています。疲れが溜まるのも当然でしょう。


「お姉様! 私がお揉みします!」


 ここは私の出番でしょう。


「いいの? お願いできるかな」


「はい!」


 そうしてお姉様の背後に行き、腕や脚を優しくモミモミします。


「んっ……はぁ……」


 と、気持ちよさそうな声を出すお姉様。上手くできているようです。


「テルミナはマッサージがうまいね」


 何かよくわからないけど褒められました、嬉しいです。


「ありがとうございます……私も、お姉様の隣に立つに相応しい女性になれる様に頑張ります!」


「え? ああ、うん……よくわからないけど頑張って」




 こうして、私の一日は終わります。この先もずっとお姉様と"海猫"にいられたらなぁ……

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