35話 お客様は仔猫ちゃん①
「んーっ!」
私は大きく伸びをする。空を見上げると気持ちのいいくらい晴れやかな快晴。見てて気分が良くなる空だ。
色々あった星空祭&学園祭は終了、ミステール様も帝都に戻っていった。
そして今日は休日。学園祭の振替休日を含め今日から三日間のお休み、もちろん、そのうち二日は海猫での仕事に費やされるわけだけど……
そばの石段に座り込む。私は今、稲荷神社内の境内のお掃除をしていた。
ボケーっとしながら神社の鳥居を眺める、春も終わり随分と暖かい季節になってきた。
……なんだか少し眠くなってきた。
「こらっ! サボるでないぞベールクト!!」
いつの間にか近くにいた稲荷神社の使い狐娘さんが私に怒鳴る。眠気が一気に吹き飛んでしまった……
「はいはい……」
最近になってお客様も少しずつ増えてきて、そこそこ忙しくなってきた私。学園生活も合わせて毎日が充実して来た感はある。
「よいしょ……」
私は立ち上がりメイド服のポケットからメモ帳を取り出す。
「今日はお客様が1人……担当は私か……」
そうして、神社の清掃を終えた私は準備を済ませ玄関に向かう。そろそろお客様が来られる時間のはずだ。
「ようこそお越しくださいました、私は仲居のベールクトです」
玄関に向かうとまるでタイミングを見計ったかのように2人のお客様がやってきた。
私は頭を下げる、もう慣れたものだ。
「はい……よろしくお願いします」
と、お客様の声。私は顔をあげる、1人は身長が高くフードを被った男性と思わしき方、そしてその隣には……
「……」
この娘はかなり幼い子供……2人は親子であろうか。
「……あの、アナタはもしかして」
何かを聞きたげな彼。
「はい、どうかなさいましたか?」
なんだろう、もしかして獣人の私なんかに対応されたくないとかかな……
「アナタはもしかしてノースガリア出身ですか?」
何故か出身地を聞かれた。というかよく分かったなぁ……いや、まあこの耳と尻尾を見れば誰でもそう思うか。
私たちの種族が住んでるのってノースガリアだけだし。
「はい、そうですけど……何か?」
やっぱり、猫人族なんかに対応されたくないとかじゃ。
「ですよね! あぁ、まさかこんな場所で同じ地方出身の人とお会いできるとは」
同じ地方出身? もしかして……
そうして彼はフードを外した。彼の頭には私と同じ猫の耳が。
「お客様もでしたか……!」
まさか海都でノースガリア出身の同じ種族の人と合うとは思わなかった。
〜〜〜〜〜〜〜
お客様をご案内した後、私とグリペンは昼食を食べるため休憩に入った。普段休憩する時は一階にある調理場横の小さな部屋を使う。休憩といっても、仕事は少なめなので実質私たちの溜まり場みたいなものだけど……
「ふ〜ん、珍しいね。猫人族の人ってあんまり見かけないからなぁ……」
グリペンが賄い料理のお茶漬けをムシャムシャ食べながらそんな事を呟く。因みに、この旅館での私たちの食事はほぼ私が作っている。
「まぁ、ウチらってあんまり国の外に出たがらないから」
そう、私たちの種族はあまりノースガリアの外に出ない。私みたいに攫われて、エルトニアで奴隷になってしまう様な例外もいるけど……
この海都でも私以外の猫人族は見たことがなかった。
「……ベル、あんたよくそれ食べれるね」
ふと、グリペンが微妙な表情で私を見る。
それ……生のお刺身のことであろう。私はお茶漬けとは別に余ったブリの切り身をお刺身にして食べている。
「普通魚は生で食べないでしょ」
そう、この大陸では魚を生で食べる習慣はあまりない様だ。
でも、海都に水揚げされる魚はどれも新鮮で充分生食にも耐えられるものだ。寄生虫とかの心配もあるけど、うちで使う魚は全て浄化魔法に通しているからその心配もない。
「うちの故郷じゃ普通だったよ?」
やはり、日本人なら刺身は当たり前だろう。
「故郷って、猫人族の人はみんな生で食べるの?」
「いや、そっちじゃなくて……」
〜〜〜〜〜〜〜
昼食も終わり、仕事に戻る。
「えっと……こんにちは、アナタのお名前は?」
「……ジーナ」
私は今、お客様のお子さんと一緒にいた。親御さんの方は何やら海都で仕事があるとかで。その間、私が面倒を見ることになった。
一階の宴会場、その縁側に座り庭園を眺める私たち。
「ジーナちゃんはノースガリアのどこ出身?」
「東の方の街……」
「そ、そうなんだ〜……私はもっと北の方の小さな村で……」
「……」
か、会話が続かない。
「……お姉ちゃんはなんでこんな場所で働いてるの?」
彼女が、唐突にそんな事を聞いてきた。
「私? まぁ、色々あってねぇ……」
うん、一言じゃ言えないくらい色々あったなぁ……
私はかなり省略して私の身の上を話してあげた。
「大変だったんだね……」
彼女は真剣に私の話を聞いてくれた。
「まあね……でも今は楽しいよ、ここでちゃんとした仕事ができるし、学校にも通えてるし」
改めて、自分は幸せ者だと感じる。もしあそこでラプターさんに出会わなければどうなっていたのであろうか。
「学校って、あの凄そうな学校だよね? どんな場所なの!?」
と、ジーナちゃんは次第に私に心を開いてくれた様な気がした。
そうして、色々なことを話した。懐かしきノースガリアの事や彼女の父親の仕事の事など。
やっぱり、お互いに同じ地で生まれ、同じ種族の人であると会話も弾むんだなぁと感じたひと時であった。




