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34話 最も大変な1日

「盗賊さん……ずっと一緒にいましょうね」


「うん、アナタは私が守る。世界一大切な私のお姫様!」


 私はテルミナと抱き合う。物語のクライマックス。そうして照明が落ちていく。


 観客席からの拍手が聞こえる。


 再度舞台に照明が灯る。私とテルミナ、チカ姉やミラ姉様、桜組のみんなが客席に向かって頭を下げた。


「以上、演劇部と一年桜組有志による演劇"猫姫と盗賊"でした」




「はぁ……終わった……」


 舞台袖に引っ込む私達。観客の反応はそれほど悪くなかった。


 正直、獣人2人が主役とか、ブーイングでもされるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど……


「はぁ……疲れましたわ」


「んふふ〜! ミラージュの演技悪くなかったね〜……やっぱり密かに特訓してた!?」


 学園トップのこの2人が居るから気が引けてただけかも……?


「ベルちゃん! イェーイ!」


 はしゃいでる様子のクラスメイト達、私はハイタッチに答える。


「ふふっ、中々悪くなかったぞ」


 と、ラプターさんがそこに現れる。


「……今まで何処にいたんですか?」


 かなり大変な目にあったのに、剣聖さんの次に頼りになりそうな人は全く姿を見せなかった。


 そういえばホーネットさんとラファールさんもずっと見かけてないけど……


「いやぁ……学園や海都、その近郊でトラブルが多発してな、私達はそっちの対処に当たってた。まあジュラーヴリクがベル達の方に向かったし大丈夫だったろ?」


 トラブル……? 学園の地下通路に転移させられるまえに周りの人たちがザワザワ騒いでたヤツかな……


「はぁ、あの猟兵団ども……紛らわしい真似しやがって……なんでこんな時期に抗争なんて……」


 と、ブツブツと恨めしそうに呟くラプターさん。なにやら事情がありそうだけど……


「ま、誰よりも頼もしい姉貴2人が駆けつけてくれたんだ、幸せだと思え」


 私は何故か喧嘩を始めた2人の姉に視線を向ける。確かに、今日ほどあの2人を頼もしいと思った日は無いかもしれない。


「わ、私も……今日はお姉様の為に一生懸命頑張ったので……」


 と、ひょっこり会話に混じってくるテルミナ。


「うん……ありがとうテルミナ」


 私は彼女の頭を撫でる。


「えへへ……」



〜〜〜〜〜〜〜



「ふぅー……」


 私は大きく伸びをした。演劇で使用した小道具などを撤収、もうやる事は全て終わった。


 空を見上げる、もう茜色の夕暮れに染まっている。なんだか大変な1日だったなぁ……


 結局、あの"白百合"使いは何者だったんだろう。同門と言っていたし、剣聖さんを師匠と読んでいた。


「色々と気になるなぁ……」


「ベールクトさん!」


 ふと、後ろから声をかけられる。振り返るとそこには……


「ミステール……様」


 彼女の後ろには護衛と思わしき騎士が2人いた。というよりこの2人、中庭であたふたしてた騎士さん達じゃ。


「今日は色々とありがとうございました」


 深々と頭を下げる彼女。


「いえ、そんな恐れ多いです……!」


 正直、この娘の正体が今日一番の驚きであった、まさかこの国の皇女様を連れ回していたなんて。


「ベールクトさんには色々とご迷惑を……私のわがままに巻き込んでしまい申し訳ありません」


 わがまま?


「母のいた学園を自由にまわってみたかったのですが、まさかあんな事に巻き込まれるなんて」


 ああ成る程、何となく理解できた。護衛の目を抜けて自由に羽を伸ばして見学をしてみたかったわけか……


「今日はこのまま帝都に戻らなければなりません」


 そこでため息をつくミステール様。


「本当はベールクトさんが働いている"りょかん"とやらにお泊まりしてみたかったのですが……」


 チラリと後ろの騎士2人を見る彼女。騎士さんはブンブンと首を振る。まあそりゃそうでしょ。


「という事なので……あ、そうだ! 今度ベールクトさんを帝都にご招待しますね!」


「は、はい。楽しみにしてます」


 まあ社交辞令だろう、本気なわけないよね……?


「では私はこれで、ミラージュとテルミナちゃんにも宜しく伝えておいてください」



〜〜〜〜〜〜〜



「それでは! 学園祭と演劇が無事終わった事を祝して!! 乾杯!!」


 というチカ姉の乾杯の言葉、勿論お酒ではなく普通の葡萄ジュースである。


 学園祭も終了して、テルミナやミラ姉様、チカ姉、それに桜組のクラスメイトを含めた打ち上げ会の様なものが開かれていた。


 場所は勿論"海猫"の宴会場。初めてここが正しい使われ方をした。


 テーブルには様々な料理。私とグリペンの努力の結晶……


 私は宴会場の様子を見て調理場に戻る、そして地面にへたり込んだ……


「なんで私が……」


 ここで提供する料理、全て私とグリペンが作る羽目になった。まあ私達はここの従業員なんだし当たり前っちゃ当たり前だけど……


「だからって……こんな大変な日のラストにこんな事させる……?」


 チカ姉は鬼だ!!


「温泉入って寝よ……」


 グリペンは既にダウンして離れで寝ている。今日はお客様はいないし、追加の料理は既に作り置きしてある。


 片付けは全てテルミナとホーネットさんに任せてしまおう。


「はぁ……疲れた……」


 そうして、私が海都に来て最も騒がしく、大変な1日が終わった。

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